コロナ危機に克つ:ちばぎん総合研究所 目指せ「グリーン県ちば」

新産業育成構想を提言 拠点、「三角」から「スクエア」へ

ちばぎん総合研究所の前田栄治社長は生産性新聞のインタビューに応じ、千葉県の新産業育成を本格的に推進する「千葉イノベーション・スクエア構想」を提言した。新型コロナウイルスの感染拡大を機に加速している世界のデジタル化・グリーン化に対応し、脱炭素、ヘルスケア、農業のICT化、ドローン・ロボットを重点分野に据え、千葉県の特徴や強みを生かした新分野の育成やイノベーションの促進を目指す。

「千葉イノベーション・スクエア構想」は、1983年に策定された「千葉新産業三角構想」で拠点地域となった「幕張」「上総」「成田」と、三井不動産が新産業拠点として開発を進めている「柏地域」を加えた4拠点を軸にイノベーションの創発を目指す。「スクエア」には「四角」や「広場」の意味を込めているという。

「千葉新産業三角構想」では、人、情報、知識、物などが交流する新しい産業としてのコンベンション機能を持った「幕張メッセ」のほか、日本の玄関口であり、物流機能を持った「成田空港」、バイオテクノロジーを中心とした先端技術産業に特化した研究開発拠点「かずさアカデミアパーク」を中心に、農林水産業と工業がバランスよく発展する産業県づくりを目指した。

三井不動産が開発を進める柏市の新産業施設では、大手企業の新規事業部門やスタートアップ企業の入居を誘致しており、周辺に大学や多様な企業が集まる立地も生かした産学共創の拠点を構築する狙いだ。前田社長は「千葉新産業三角構想の考え方を引き継ぎ、進化・発展させる形で『千葉イノベーション・スクエア構想』を明示し、新産業育成を推進するべきだ」と話す。

この構想では、千葉の特徴・強みを生かし、ヘルスケア、農業のICT化、ドローン・ロボットといった分野をさらに強化する。その中でも、豊富な自然と工業地帯を持つ千葉県として、特に力を入れているのが脱炭素社会の構築だ。

欧州が主導する形で始まったグリーン化の動きは、米国バイデン政権による後押しもあって世界的に加速している。日本でも、2050年までの脱炭素(ゼロカーボン)社会実現を明記した「改正地球温暖化対策推進法」が成立し、政府は過去に例のない2兆円の「グリーンイノベーション基金」を設立した。

千葉県は、CO2排出量のうち産業・エネルギー部門が5割を超え、全国を1割程度上回っており、湾岸工業地帯の排出抑制が脱炭素に向けた課題の一つだ。前田社長は「エネルギー関連では、太陽光や風力など千葉の自然の利を生かせるものに加え、素材産業の製造過程で生じる水素も重要なクリーンエネルギーになるため、湾岸地域をグリーン地域に転換する発想もあり得る。オール千葉として、他県に遅れない程度の意識ではなく、先行して『グリーン県ちば』を目指してもらいたい」と話している。

千葉の人口増、地域に光明
ちばぎん総合研究所の前田栄治社長に聞く


前田栄治社長との主なやりとり(新産業構想以外)は次の通り。

前田栄治 ちばぎん総合研究所社長

――千葉県内の足もとの経済状況は

「2020年春の経済の落ち込みやその後の戻りは、消費関連指標、企業マインド、指標や有効求人倍率などから見る限り、概ね全国並みだ。他の首都圏と比較すると、感染状況の違いを反映して人の動きはやや活発で、百貨店や自動車販売を含め、消費活動もやや活発な感じだ。感染が拡大し、緊急事態宣言などが出されるたびに対面サービスを中心に経済が弱くなる、ということを繰り返してきてはいるが、世界的な製造業の活動活発化に伴う輸出の増加と財政支出の拡大が、千葉県経済全体を支えている」


――県内経済の先行きは

「20年冬以降の感染拡大局面における経済活動は、停滞しつつも大きな落ち込みは回避されるようになってきている。千葉県では4月下旬以降、まん延防止等重点措置が適用され継続しているが、人の動きは6月に入り、徐々に回復している方向だ。今後も変異株の動向などに注意が必要で、感染が拡大すれば経済活動は抑制されるが、基本的にはワクチン接種の進捗に伴い感染は抑制される方向だろう。接種が5割を超える秋以降には、世の中の雰囲気はかなり明るい方向に変化すると期待を込めて見ている。米国では『コロナはほぼ克服した』という雰囲気と聞くし、世界経済見通しも上振れ方向だ。昨年来、人々はお金を使いたくても使えないため、『強制貯蓄』が全国で30兆円程度増加している。これがどのように解放され、どの程度経済を押し上げるか期待をもって見ていきたい」

――コロナ禍の県内経済への影響は

「千葉県は、首都圏の中で重要な機能を有しながら、製造業、農林水産業やサービス業などを含め、多くの産業がバランスよく発展している。こうしたバランスの良さがコロナ禍の影響を和らげる方向に作用している。また、コロナ禍によって千葉県に移り住む人口も増えている。他都道府県からの人口移動は、20年度が1万3346人と19年度の9658人から大幅に増加。東京都では7537人と8万3455人から大幅に減少している。相対的な感染抑制やテレワークの広がりによって、都心部からの移住のほか、地方から首都圏に人が来る場合でも東京都ではなく千葉県といった例も増えている。住宅・不動産関連を中心に、経済を支える要因になっている」


――観光産業への影響は

「成田空港周辺やディズニーランドを中心としたインバウンド関連産業には大きな打撃だ。東京オリンピック・パラリンピック開催を含め成長期待が高かっただけに、心理的にもマイナスに作用している可能性がある。ただし、長い目でみれば成田空港は拡張される計画で、将来の千葉県経済を支えるものであることに変わりはない。国際航空運送協会(IATA)の5月見通しでは23年に旅客数が19年レベルまで戻るとしており、ワクチン効果を主因に、従来の24年から1年前倒しを予想していることには勇気づけられる。観光業は、昨秋の回復局面では、県民が県内観光地を訪れる『マイクロツーリズム』が大幅に増加している。インバウンドが回復するまでの間、マイクロツーリズムで県内観光を支えるとともに、観光地の魅力を高めるための取り組みが必要だ」


――企業に求められるものは

「コロナ禍でも経済活動は持ち直し方向だが、業種や企業によって濃淡は大きい。企業はコロナによるビジネス環境の変化を的確にとらえ、長い目でみた生産性向上や企業価値の拡大に取り組んでいく必要がある。その中で必要に応じて、事業再構築も求められる。国も、従来の誰でも救うというモードから、事業再構築補助金制度などメリハリをつけた対応へとシフトしつつある。企業は昨年度の守りから今年度は攻めの年へとシフトすべきだろう。ちばぎん総研の企業アンケートでも、経営課題として挙げられたのは、昨年度のコスト削減に対して、今年度は生産性向上、販路拡大、デジタル化、新商品開発などが増加している。コロナ禍を機に、従来、の付けられなかったことを行おうとする動きが広がり、デジタル化の遅れやサービス産業の生産性の低さを含め、日本の弱みが克服されていくことを期待している」

*2021年6月29日取材。所属・役職は取材当時。

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