コロナ危機に克つ:総菜店「日本一」 中食ブームを追い風に

全国に280店舗展開
客足に変化、迅速対応 お客様+従業員満足度も重要

総菜店「日本一」と「銀座 縁」を主力ブランドとして東日本を中心に店舗を展開している日本一(本社=千葉県野田市)は、生活に密着した「食」を通して、従業員とお客様への「あったか家族のお手伝い」という価値の提供に力を入れ、出店ペースを加速している。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で苦境に立たされたが、テイクアウトサービスの向上を図り、店舗網を拡大している。

創業は嘉永年間、野田市で川魚問屋を始め、1981年に株式会社化。85年に鰻蒲焼テイクアウト専門店「日本一」を東武百貨店船橋店に出店し、小売り事業に参入した。89年に鰻・焼き鳥を中心とする総菜店「日本一」を野田ショッピングセンターノア店に出店したのをきっかけに多店舗化を加速し、中食産業へと展開した。

染谷幸雄代表取締役会長は「当時の東武船橋には全国からたくさん視察に来るような、北辰水産やニュー・クイックなど生鮮三品(青果・鮮魚・精肉)のそうそうたるメンバーが集まっていて、多くの知見を得た」と話す。

生産者へのダイレクトな食材発注、品質管理の徹底、物流ラインの整備を図った上で、デベロッパーとの信頼関係と安定した商品供給体制を軸に、全国各地へ出店を進めている。

総菜店は「日本一」と「銀座 縁」というブランドが主力。東日本を中心に、北海道から大阪まで店舗展開している。ほかにも「赤坂ふきぬき」というブランドでレストラン事業を展開しており、新宿高島屋タイムズスクエア、赤坂Bizタワー、大阪大丸心斎橋店等9店舗に出店している。

染谷幸男 日本一代表取締役会長

染谷会長は「従業員とお客様に、『あったか家族のお手伝い』という価値を提供することに力を入れてきた」と言う。「CS第一主義」「価値の創造」の二つを使命とし、「健全な経営(信用と社会責任を重んじる)」「進化する経営(お客様本位の、お客様のために)」「清廉な人材育成(高い見識・技術・専門性と知識創造力を共有)」「自由闊達な社風(人間尊重・自助努力・価値観の共有)」「進取経営(先見性・独自性・合理性を重視)」の五つを経営理念としている。

お客様満足の向上だけではうまくはいかない。従業員満足の向上も重要だ。総菜は現場で作るものであり、お客様に提供する際に、従業員が「自分がおいしい」と感じることができなければ、お客様に自信をもって商品を勧めることはできないからだ。

染谷会長は「当社の総菜を従業員が買って帰り、自分の子供に食べてもらうことが増えたらいいと思っている。こうした理念が浸透し、当社のファンが少しずつでも増えていくことが理想だ」と話す。

昨年は、コロナ禍の外出自粛や経済活動停滞などの環境変化への対応に追われた。コロナ前の平日は、夕方から夜にかけて来店ピークがあったが、コロナ禍では、午前中にも来店ピークが来るようになった。

環境変化に対応するため、店舗外にセントラルキッチンを設け、安定した商品供給体制を整えるとともに、午前中の来店客にも潤沢に商品を提供できるように工夫した。テレワークの普及により、家庭で食事をする機会は増えると考え、一部の店舗で冷凍ケースを設置し冷凍商材の販売事業に乗り出した。

コロナ以前はデベロッパーや同業のテナントから、店舗の賑わいを褒められることもあったが、コロナ禍ではいかに密にならないようにするか、行列しなくても買い物ができるかが重要になる。このため、事前決済サービスを導入するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)を意識するようになった。

染谷会長は「コロナ禍におけるお客様と市場の新しい価値観、いわゆるニューノーマルに対応したことで、販売方法は変わったが、お客様に提供する『あったか家族のお手伝い』という価値は変わらない」と話す。

さらに、コロナの対策本部を速やかに立ち上げ、染谷会長自らが本部長を務め、危機管理の陣頭指揮を執った。毎日、本部にコロナに関する社内の全情報が集約される体制をとり、24時間体制で対応した。感染が確認された際は、管轄行政(保健所)の指導を仰ぎ、テナントとしてデベロッパーと協議し、適切な対策を行い、速やかに営業が再開できるようにしてきた。

従業員に安心して働いてもらうため、感染症の脅威が報道されて間もなく、消毒液やマスク、飛沫拡散防止のためのスクリーンを確保し、物理的な感染防止対策を徹底した。抗原検査キットを各支店に常備し、店舗内や家族・近親者に感染が確認された場合は抗原検査を実施している。

染谷会長は「従業員が安心して働ける場を提供し続けることは、社会的役割の一つと考えていたが、このことをコロナ禍で改めて実感した。従業員にとって収入を得る場があるということは、安定した生活を送る上で大切なことではないだろうか。コロナ禍でも頑張ってくれている従業員に報いるため、一般的な休業補償等とは別に、当社独自で従業員に対し『特別手当』の支給も早期から行っている」という。

感染拡大防止の下で直接の交流が難しい中、さまざまな会議や会合は滞ったが、東京から各地をウェブでつなぎ情報共有をできる仕組みを整え、相互にコミュニケーションがとれているという安心感を醸成した。感染者が出た翌日にも、売り場が再開できるように危機対応の手順も整えた。

こうした対策には、ITツールの活用が欠かせない。毎朝定刻に各支店をウェブでつなぎ、画面上で顔を合わせてミーティングを行っている。これにより、情報をタイムリーに集約・チェックし、何かあれば迅速に対応することができるという。

また、コロナ禍ではどうしても人流を抑える必要があるが、各売り場と本部をウェブカメラでつなぐことにより、商材の陳列方法をアドバイスし、供給状況を把握できるようにするなど、売り場を見守り、何かあった際も迅速かつ適切に支えることができるようになった。

自社の新規出店の情報や、どんな商材が売れているかなどさまざまな取り組みや、他の従業員の活躍などを知ってもらい、働きがいを感じてもらえるように、社内報「Message(メッセージ)」を2020年4月から毎月発行している。

一方で、近年相次いで発生している自然災害に対応した事業継続計画も整備している。東日本大震災などの経験を踏まえ、コーポレート部門を地元の野田市と東京支店に設置し、各部署の機能を分散させ、ITツールを活用することにより、企業経営が継続できるようにしている。

食材供給に関しても、北海道・秋田・岩手の計3カ所に工場を分散させ、1カ所で何かあっても全国の配送に支障が出ないようにしていた。これらの事業継続計画への対策・考え方が功を奏し、どこかで問題が発生しても補完し合い、経営や商材の製造・物流という面でコロナ禍を乗り越えてきた。

日本一は、コロナ禍でも新規出店を続けている。中食ブームという追い風もあり、お客様(市場)から評価を得ている。21年度も複数の新規出店を予定しており、全国約280店(7月末現在)へと拡大している。

染谷会長は「今後も、従業員には安心して働ける環境を、お客様には生活に密着した食を、安全に安定して提供し続けることにより、『あったか家族のお手伝い』という価値の創造を通じて、お客様と従業員の双方から支持を得られるよう努力していきたい」と話している。

*2021年8月6日取材。所属・役職は取材当時。

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