コロナ危機に克つ:豊田合成労組 労使協議で職場の課題を解決

職場単位の労使関係を基軸に 帰属意識、徐々にアップ

2019年6月に創立70周年を迎えた豊田合成労働組合は、労使一丸で働きがい向上に向けた取り組みを進めている。

職場役員と部門長で行う協議体である部門労使協議会を核に、職場の課題を職場の労使で解決する取り組みが効果を上げている。新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも、職場の労使が解決策を話し合うことで、機動的な対応策を導き出し、職場の不安解消に役立っている。

豊田合成労働組合は、5年ごとに国際経済労働研究所に依頼し、全組合員を対象にアンケート調査を実施している。その結果、組合員の会社への関与が他社と比べて低く、会社やその事業に社会的意義を感じていないことが明らかになった。

後藤靖 執行委員長は「組合員が生涯にわたって豊かな人生となることが大事で、人生で多くの時間を過ごす会社が、楽しく、生き生き働ける場所であってほしい、というのが基本的な考え方だ」と話す。

後藤委員長が労組の専従となったのは15年ほど前のことだ。「当時は、今よりも職場の雰囲気は良くなかった」と振り返る。コミュニケーションを活性化していくために、組合費で菓子代を負担するなどして、互いが心の中に持っている不満や不安を話せるような環境をつくるように心がけたという。

2018年のアンケート調査で明らかになったのが、愛社精神や帰属意識の低さだ。後藤委員長は「自動車のボディメーカーではないので、自分がつくっている製品全てが市場で目に触れるわけではない。仕事の意義が感じられる職場への改革が必要だ」と考える。

「従業員の帰属意識が低いままでは、会社の持続的成長はあり得ない」という危機感を会社側とも共有したうえで、働きがい向上を労使一丸で取り組むことで合意した。労組が、愛社精神を高めるためには働きがい向上が重要であるとの考えを提言する一方で、会社側も働く側に目線を合わせて、組合員の仕事の意義に対する理解度を高める「マネジメント宣言」を各職場から発信した。

働きがい向上に向けた取り組みのポイントは、活動の基盤を整えることだ。その中心となるのが職場会と部門労使協議会で繰り広げる「声のサイクル」と呼ばれる好循環の実現だ。

職場会は、組合員が参加する場であり、すべての職場で毎月実施している。一方の部門労使協議会は、職場役員と部門長で行う協議体で、隔月で実施し、職場の課題を労使で解決を図っている。

職場会で働きがいを高めるための意見や職場の問題点を吸い上げ、部門労使協議会で話し合う。現場レベルでの解決が難しい場合は、中央の労使協議会に解決の場を移す。部門労使協議会での話し合いの結果は、職場会にフィードバックされる仕組みだ。

19年春から始まった働きがい向上の取り組みが浸透し、20年1月のアンケートでは63%が職場の使命に「理解」を示したという。さらに半年後の20年8月には「理解」を示した割合が94%、12月には98%%にまで上昇した。

職場の使命への理解が浸透したことを受けて、組合側は「意志カード」の取り組みをスタート。組合員一人ひとりが、マネジメント宣言に対する理解をベースに、自律的に考え、行動する意志を示すのが狙いだ。

後藤委員長は「労使協議会を軸に職場の問題を職場で解決しようとする試みは、当労使の強みの一つである。今後も定期的にアンケートなどを実施し、進捗・現状を把握し、PDCAを回しながら、前進感を共有し、仕事が楽しい、生きがいを感じられるような職場をつくっていきたい」と話している。

変化を楽しみながら挑戦
豊田合成労働組合 後藤靖執行委員長に聞く


豊田合成労働組合の後藤靖 執行委員長に、職場の問題を職場の労使で解決を図る仕組みを機能させる工夫や、コロナ禍の問題解決に、その仕組みをどう生かすのかなどを聞いた。

後藤靖 豊田合成労働組合執行委員長

――働きがい向上のポイントは

「活動の基盤を整える、みんなで取り組む、労使で取り組む、打ち上げ花火にしない、この4点が重要であると考えている。特に、活動基盤の整備では、部門労使協議会で職場の問題を解決しようという試みが効果を上げていて、課題も尽きないが多くの部門で、小さな渦が沸き起こっており、手ごたえを感じている」


――部門労使協議会を機能させるためにどんな工夫をしているのか

「部門労使協議会では、職場役員と部門長が議論を展開する。人事異動をきっかけに議論がうまくいかなくなることを回避するため、職場役員には新任研修会を実施し、模擬の労使協議会を体験してもらう。会社側も、新任の部門長などには、部門労使協議会の重要性を理解してもらう機会を設けていると聞く。コロナ禍では開催できていないが、これまでに、本音で議論するための入り口として、部門長と職場役員によるオフサイト懇談会を実施した」

――コロナ禍では、労使協議会でどのようなテーマを取り上げているのか

「職場によって、コロナ禍の課題もさまざまである。事務職はテレワークをテーマにした議論が多く、仕事の進捗や仕事の割り振りなど、ニューノーマルに対応した働き方に関することを話す。生産現場では感染リスクに関する不安などがメインになる。さらに、生産現場では海外のロックダウンなどの影響を受けて生産変動が激しく、それに対する対応などを議論した。職場ごとの課題は、中央で解決しようとするとスピード感が出ない。職場で解決する場を機能させてきた効果で、コロナ禍の厳しい中でも、何とか踏ん張れていると自負している。今後、コロナの長期化で、職種の違いによる職場間の不公平感を、どう解消するか、職場・全体の一体感をどのように醸成していくかが課題だ」


――自動車業界は100年に一度の大変革期と言われる

「大変革期に直面し、変化のスピードが速くなり、どこで、誰と、どうやって、モノをつくっていくのかについて柔軟に対応していかなければならない。人が常に軸足である労働組合としては、働きがい向上を入り口として、変化に対応できるように、やる気を持って楽しく仕事ができる職場をつくっていくことに貢献したい。限られたリソースで変革期を乗り切るためには、現有勢力をどう活用していくかが問われる。職場の変化や、一人ひとりに起こる変化にフォーカスし、変化を恐れず一歩踏み出せるように、労使が協力して、一人ひとりの意識改革を後押ししていく。職場の問題を自分事として捉えて、業務に向き合えるような人財が求められている。変化を楽しみながら、厳しい状況をチャンスに変える。そういうマインドで働く、活気にあふれる職場が理想だ」


――今後の新たな取り組みは

「昨年の春の取り組み以降、働きがい向上に向けた労使委員会を立ち上げ、シニア層や監督者、若手・中堅のそれぞれにスポットを当てた労使での議論を加速している。これまでの取り組みに磨きをかけて、PDCAを回して、実効性を高めていく。また、組合独自でもワクワクワーキングスタイルという取り組みを新たに企画しており、意識改革へ向けた活動も強力に推し進めたい。人間が主役であり、人を軸とした活動を展開するという労働組合の原点を忘れず、カーボンニュートラルやデジタルトランスフォーメーションなどの新たな課題に対しても、当事者意識を持って向き合いたい」

*2021年8月17日取材。所属・役職は取材当時。

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