コロナ危機に克つ:クボタ 「社会に役立つ商品を」創業者精神を継承

インドの合弁工場へ、日本から遠隔で技術指導

クボタは、インド北部のハリヤナ州に新設したトラクタの合弁工場の稼働を本格化させている。新型コロナウイルス感染拡大の影響で全土がロックダウンされた中でも、現地農機メーカー・エスコーツとの合弁工場において、ウェブカメラなどを活用し、日本からのオンラインでの技術移転を成功させた。

クボタの木股昌俊代表取締役会長(関西生産性本部副会長)は「コロナ禍で厳しい状況が続く中で、現地にカメラを設置し、リモートによる丁寧なコミュニケーションを心がけ、クボタグループのDNAを継承することができた」と述べた。

インドのトラクタ市場は台数ベースで世界最大規模であり、今後も市場の拡大が見込まれている。クボタは資本金約42億円(30億ルピー、出資比率クボタ60%)の合弁会社、エスコーツ・クボタインディアを設立。また、エスコーツ社に対し、約160億円を出資するなど、インド市場の攻略にむけて力を注いできた。

新工場では、農作業以外にも牽引や運搬など多目的に使用できる「マルチパーパストラクタ」を生産している。現地での製造ノウハウを持ち、高い調達力を持つエスコーツ社との協業を通じて、インド市場での事業展開を加速している。

しかし、ここまでの道のりは平たんではなかった。新工場を設立した矢先に、コロナ禍に見舞われたからだ。日本から技術指導のために派遣したメンバーを全員すぐに帰国させたが、新事業の勢いを止めないよう、ロックダウン中もオンラインで会議を続けた。

インドの外出禁止令が解除されたタイミングで、工場内に200台のカメラを設置し、日本からのリモートによる指導を強化した。出来上がった試作品を日本に送ってもらい、技術部門の総力を挙げて、肝心な品質のチェックとフォローを行ってきた。

2020年9月にインドの現地スタッフが手掛けた記念すべき量産1号機が市場に投入され、その後、1年で出荷台数1万台超を積み上げている。木股会長は「ここにたどり着くまでには多くの苦労を乗り越えた。日本の技術陣は、現地や現物に触れられないジレンマを感じ続けた。不安定な通信環境や時差なども壁となった」と振り返る。

しかし、リモートでの現地指導を根気強く行ったことが現地スタッフの自信につながり、多くの人材が育った。「現地のスタッフが自分たちで工場を立ち上げるのだという責任感や挑戦意欲が高まった」。

工場施設は感染拡大防止対策を徹底しているものの、ロックダウン解除後も出勤率を低くして、徐々に出勤率を上げるように配慮した。一気に立ち上げを急ぐのではなく、工程ごとに順次日程を決め、人材の配置をコントロールすることで、密を避けたという。

「エッセンシャルビジネス企業」と自覚
クボタ 木股昌俊代表取締役会長に「教訓」を聞く


ライフラインを支える企業であるクボタが、コロナ禍で得た教訓とは何か。木股昌俊代表取締役会長に聞いた。

木股昌俊 代表取締役会長/関西生産性本部副会長

――コロナ禍で起こった変化とは

「新型コロナの感染拡大で世界中の生活環境は一変したが、食料・水・環境を扱う、人々の暮らしに欠かせないエッセンシャルビジネス企業として、世界各地のお客様に必要とされている事業を継続できていると実感した。市場環境の変化への対応では、2020年の新型コロナの感染拡大の兆候を受けて、生産計画を下方修正したが、想定を超えた市場の冷え込みは起こらなかった。逆に、北米向けトラクタや建設機械は生産が追い付かず、物流や部品調達も足りず、人材不足も重なり、大変な在庫不足でお客様にご迷惑をかけた。今年から急ピッチでキャッチアップしているが、まだ十分とは言い切れない」

――今後の対応は

「どのような不測の事態が起きようとも、必要としているお客様にご満足いただける生産体制、サプライヤーの部品の供給体制を強固に継続できるレジリエンスをはじめ、トータルのサプライチェーンの再構築を重点項目として改めて取り組んでいる。コロナ禍の教訓として、企業がレジリエンスを高めるには、コミュニケーションが重要であると再認識した。グローバルに展開している当社は、事業活動を行う上で、海外各拠点との日々の連携が欠かせない。従来は社員が出張する、または訪問を受けることによる対面で、密な連携を深めてきた。コロナ危機で往来ができなかったことを教訓に、オンラインで海外拠点とのコミュニケーションを活性化させる必要がある。ウェブツールの利用浸透で、時間や場所にとらわれないコミュニケーションが可能になった。今後もスピード感のある連携を進めていく」


――サプライチェーンの見直しへの取り組みは

「北米の生産拠点で生産量がひっ迫している背景には、出勤率低下の影響がある。北米、東南アジアなどのサプライヤーにおいても、コロナ禍で出勤率が低下した。このため、供給不足を招き、最終的には当社の供給力が落ちた。東南アジアでは、完全にロックダウンされたベトナムで、農業・建設機械の心臓部である油圧部品・機器やエンジンの部品が全般的にひっ迫した。この問題は、一社だけで対応すれば解消するものではなく、全体に対応力を上げていく必要がある。今まではコストや品質を優先し、一部品一社の体制だった。しかし、自然災害や感染症の拡大、さらに地政学的なリスクも増えてきていることから、特定の国の一社ではなく、その近辺の国にも安全網としての複数ルートを持つべきだ。既にそういう体制を取り始めたが、まだ一次サプライヤーに手をかけただけだ。二次、三次でも取り組まなくてはならない。強固なサプライチェーンを築くのは大変な仕事だ」


――農業機械や建設機械の市場動向をどう読むのか

「世界人口は増えているが、耕作面積は限られている。限られた農地当たりの生産性を上げることで、食料の付加価値を上げることは、今も、そしてこれからも続く課題だと思っている。今後はアフリカやインドにおける人口増・食料の増産の要請が高まっていくだろう。先進国は人手不足でスマート農業やロボットの活用が進むだろうが、アフリカやインドなど一部の食糧難のような課題を抱える国では、安い農業ができるような農業機械側からのサポートが必要なケースもある」


――地球環境問題への貢献も求められている

「1890年の創業以来、食料・水・環境の社会課題の解決に取り組んできた。創業当時は伝染病が流行った。水道の整備が急務であると考え、創業者の久保田権四郎は、水道用の鉄管の量産化に成功した。当社はそれ以降、現在まで、安心・安全な水の提供に対する貢献を続けている。権四郎が残した『世の中の発展に役立つ良い商品を、全身全霊を込めて作らねばならない。技術的に優れているだけでなく、社会に役立つモノでなければならない』という創業者精神は、130年経った今でもクボタグループに受け継がれている」



*2021年10月11日取材。所属・役職は取材当時。

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