コロナ危機に克つ:段ボール製造「FUJIDAN」のダメ元戦略

段ボールケースの製造・販売などを手掛けるFUJIDAN(本社=香川県東かがわ市)は、「おもしろい会社」を社是に掲げ、特徴のあるデザインや設計などパッケージのファッション化で競争力を高めている。新型コロナウイルスの感染拡大によって市場環境が変化する中で、新型コロナ対策関連商品として飛沫感染防止パネルを開発し、ヒットを飛ばした。危機を乗り越える製品開発力の源泉は、「ダメ元」精神で失敗を恐れず挑戦を促す企業文化だ。

「おもしろい会社」社是 スピードとデザイン力で勝負

本田展稔 FUJIDAN社長
「段ボール業界は大企業と中小企業ががっぷり四つで組み合って勝負している。資金、人材、設備力や情報力で優位な大手に勝るには、『おもしろさ』と『スピード』が必要だ。『あの会社、あの人、あの商品はおもしろいね』と言われるのは、最高の褒め言葉である」とFUJIDANの本田展稔社長は話す。

地方の段ボール製造会社としては、群を抜くデザイン力や設計力を誇っている。「中身の商品を保護するパッケージはファッションでもあり、保護している中身のモノの高付加価値化やイメージアップに寄与する」と考え、デザイン・設計力を強化してきた。

また、設計力はコスト競争力にも直結する。FUJIDANの段ボールを使うことで、顧客の作業性や保護性、物流を改善するなど単なるパッケージ以上のメリットを提供することを目指している。非価格競争を徹底し、「営業担当者には辛いだろうが、一切安売りはしていない」という。


デザイン・設計力を支えるひとつに、関係会社の「hacomo」(ハコモ)がある。元々は包装設計部署だったが、分社化した。デザインや設計は安定的に受注があるわけではなく、空いた時間を活用して、段ボール派生商品の開発や、関連するイベントなども手掛ける。本田社長は「事業は好調に推移しており、当社を支える心強い存在に成長している」と話す。

さらに、小回りの利くスピード感ある経営もFUJIDANの強みだ。「小さい規模だから、決済や報告、情報伝達などをタイムリーにすることで、大企業に勝てるのではないかと考えた。あっと驚くスピードには、顧客は対価を支払う。付加価値としてのスピードを実現している」という。

大企業が強い大ロットの生産は狙わず、小ロット多品種の生産へのスピーディな対応力を武器にする。一般段ボールから、何トンもの重さに対応する特殊強化段ボール、プラスチック段ボール、貼箱(和菓子箱のように和紙を貼ったもの)など、商品のラインナップを広げ、顧客の相談にワンストップで対応する。

市場からの高い要求に応えられる「品質」にも自信を持つ。「大ロット高品質は当たり前であり、小ロットの品質をどう高めるかが大事だ」と本田社長。小ロットの製品の品質を安定化するための社員の意識改革を進めている。

このほか、他社との差別化を図るために特徴のある設備を積極的に導入している。「装置産業として、新たな設備投資を進めることが競争力向上に欠かせず、特徴のある商品を生み出せる希少性の高い設備の導入を進めている」。

おもしろい商品をいち早く市場に投入できる組織の原動力となるのは何といっても人材だ。同社が育成しているのは、「自分で起きて自分で動く人」という「自起自動型」の人材。

「自起自動型」は本田社長の造語で、「人から言われてから動くのではなく、自分で考えて動くこと」を意味する。大企業に対抗するには、組織のセクショナリズムを捨て、「会社の中で起こることは、全社員が担当者である」という心構えが重要になるという。

製造現場においても、さまざまな装置のオペレーションや工程を担当できる多能工社員を育成している。コロナ禍で商品ごとに需要が大きく変動した時にも、忙しい場所に人を集中させて、サポートできる態勢を整えていたことが奏功した。

「柔軟性があり、対応力の高い組織が生き残れる。企業の競争力の源は、人材のレベルである」と話す本田社長。市場の変化に対応するには、一歩先、二歩先を読む力が必要で、チャンスを見いだせば果敢に挑戦する姿勢が重要だ。

本田社長は、「チャレンジして失敗しても、とがめることはしない。しかし、チャレンジしなかった罪は重い。失敗しても元に戻るだけで、それよりも下に落ちていくことはない。『ダメで元々のダメ元精神』が変化への対応力を育てる」と話す。

コロナ禍の影響に関しては、輸出関係のユーザーの生産が急激に減った。特に特殊強化段ボールは3割から4割減だったという。ところが、海外の経済活動の再開を受けて旺盛な輸出が戻り、現在は需要が急速に回復している。

「輸出向けはコロナ前の一昨年比を上回っている状態で、山谷が大きく、先が読みづらく、設備投資計画や人員の採用が難しかった」と振り返る。

県境をまたぐ移動の制限で、出張ができなくなったことは大きな痛手だった。東京にいるユーザーに訪問営業ができない。こうした事態は、東京を拠点とする段ボールメーカーには有利に働いた。

「今後は、営業スタイルを変えなければいけないと思っている」と本田社長。東京の顧客へのアプローチを抑え、自社が得意とするエリアに市場を集中する戦略だ。「段ボールは運送コストが高く、当社得意の提案営業は、やはり訪問営業でないと効果が薄くなる。しばらくは足場固めをしたい」という。

その一方で、コロナ対策関連商品として、アクリル板と段ボール製の感染防止パネルのスピード開発を成功させた。「数千万円の売上高を稼ぎ、コロナ禍の影響であいた穴を埋めた」。

パッケージ以外の商品開発への挑戦は初めてだが、従来の設備でつくれるように設計を工夫した。「ダメ元」精神のスピード開発で、タイムリーに市場に投入したことがヒットにつながった。

今後、段ボール業界は、大手企業のM&A(買収・合併)によるグループ化や寡占化が進むと見られている。中小メーカーにとっては、設備能力の強化やデジタル化に取り組むために、人材や情報力が不足し、低収益化する恐れもある。

DXを着実に進めることも大きな課題だ。営業担当者はリモートワークや在宅勤務を続ける。600種類を毎日生産しているが、工程管理や指示出しのための仕組みづくりを急ぐ。新市場の開拓を見据え、ECサイトの拡充にも取り組むなど、デジタル化に本腰を入れる構えだ。

本田社長は「今後、我々が考えなければならないのは生産性だ。同じ労働力とエネルギーを費やした中で、どれだけ付加価値を高めることができるかが勝敗を分ける。生産性の優劣によって企業の存続が決まる。価格競争の中では生産性の向上はできない。非価格競争の中で戦略を練っていかなければならない」と力を込める。

脱炭素社会やSDGs(持続可能な開発目標)の実現へ向けて世界が動く中で、地球環境に優しい段ボールへの注目度はますます高まるとみる。本田社長は「顧客からは従来、プラスチック、木材、金属でつくっていたものを段ボールでつくれないのか、という問い合わせも増えてきている。これにうまく提案していけば、ビジネスチャンスがさらに広がるだろう。リサイクルや再利用がしやすい段ボールの需要は高まっていく」と将来を展望している。



*2021年10月13日取材。所属・役職は取材当時。

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