論争「生産性白書」:【語る】大山 健太郎 アイリスオーヤマ代表取締役会長

2022年のグループ売上高1兆円達成を当面の目標に掲げ、成長を続けるアイリスオーヤマの大山健太郎代表取締役会長は、生産性新聞のインタビューに応じ、製造業として国際競争を勝ち抜くためには、汎用機を活用して内製化率を高め、変化への対応力を磨く必要があるとの考えを示した。また、成熟市場においてイノベーションを実現するためには、マーケットインではなく、「ユーザーイン」の発想による商品開発が鍵になると指摘した。

ユーザーインの発想が革新生む 消費者も気付かぬニーズを見つけよ

大山健太郎 アイリスオーヤマ代表取締役会長
大山健太郎氏は、父親が1958年に設立した会社を、父の急逝を機に引き継ぎ、71年に株式会社化した。「三次下請け加工業から這い上がった」(大山氏)経験から、旋盤やフライス盤、プレス機、成形機などの汎用機を使いこなし、さまざまなモノをつくる技術がある。そこで「業態業」として、さまざまなモノづくりの内製化率を高めている。

大山氏は、「大企業から中小企業まで、ほとんどの製造業がプラスチックを製造するプラスチック業、金属を製造する金属業という『業種業』して経営しているが、当社は、変化対応型を中心とし、買い手目線で企業の体制を構築している『業態業』であることが強みになっている」と話す。

大手製造業の中でも垂直統合で内製化率を高める戦略は珍しくない。その場合、専用の製造装置を使い、自動化による大量生産で早期のシェア獲得と短期的な収益増を狙うケースが多い。しかし、中国や韓国メーカーが技術導入でキャッチアップし、またはイノベーションによって既存の技術が陳腐化してしまうと、その投資が重荷となるリスクを抱えている。


アイリスの垂直統合は変化対応型で、汎用機を使って園芸用品やペット用品、家電製品などさまざまなモノをつくる。大山氏は「ビジネスチャンス優先の経営であり、モノづくりの思想として、変化があったときに対応できるリスクの背負い方を常に考えている」と話す。

成熟市場である家電製品や生活用品の分野でも、後発ながらヒット商品を生み出すことができる原動力には、徹底した生活者目線によるユーザーインの商品開発がある。

大山氏は「プロダクトアウトに比べてマーケットインが良いという議論は間違っている。生活者は競争が激しい商品をつくってほしいのではなく、どのメーカーもつくってくれないような、ユーザーインの商品がほしいのだ」と話す。

ヒット商品のガーデニング用品シリーズは、大山氏自身が庭いじりをしていた時に、「あったらいいな」という発想で開発した。クリア収納は、「しまうのに便利な道具は多いが、しまった物を探すのには不便」という悩みを解決する発想で、中身が見える収納を世に送り出した。また、東日本大震災をきっかけに参入した精米事業では、かねて生産者側の都合による大きなポリ袋でのコメの販売に疑問を持っていたという。独自の低温製法による精米と、合単位の小分けパックでの販売は、「おいしい、簡単、便利だ」と好評だ。

大山氏は「これまで精米は第一次産業だった。東北の震災復興支援のためにアイリスがコメに参入し、ビジネス環境が大きく変わったと評価していただいている。プロダクトアウトの発想での農家の支援ではなく、消費者のライフスタイルで考えるユーザーインの発想が奏功したと思っている」と話した。

(以下インタビュー詳細)

業種業ではなく業態業、変化に機敏な対応 下から目線で「なぜ」を考える

日本の産業界が欧米にキャッチアップしているときは、海外に比べてサプライチェーンが整備されていることが強みになって、高度成長を実現した。しかし、今はそのサプライチェーンがあるがために小回りが利かず、コスト競争力も落ちている。

製造業は、一次下請け、二次下請け、三次下請けがピラミッド構造をつくっている。元請けと三次下請けを比べると、人件費が少し安いくらいで、コスト構造に大きな差はない。しかし、実際は三段重ねになることで、コストは倍に広がってしまう。それでは国際的にコスト競争力を高めることは難しい。

日本が輸出競争で韓国や中国に追われる立場になると、内製化率が高い韓国や中国企業には勝てない。今でも産業界の議論ではサプライチェーンの重要性を指摘する声は根強いが、それが競争力強化に繋がるかは疑問だ。

当社ではできるだけ内製化率を高くしている。他の大手メーカーのように専用の製造装置を使うのではなく、旋盤やフライス盤、プレス機、成形機などの汎用機を使う。業種業ではなく、業態業を展開しているため、コスト競争力も変化への対応力も高い。

大手企業の考える、内製化率を高める垂直統合型の戦略は、変化対応型とは言えない。専用機を使うがゆえに、ボタン一つで大量生産が可能で、短期的な競争には強い。しかし、その商品のブームが去り、別の商品が主戦場になると、その機械は全く役に立たなくなるからだ。

「選択と集中」の落とし穴


ほとんどの製造業は業種業であり、大小に関わらず、鉄を作っている会社は製鉄会社で、化学品を作っている会社は化学会社だ。アイリスは変化対応中心の業態業で、さまざまな汎用機を持ち、園芸用品やペット用品、家電など、さまざまなモノをつくっている。

私たちは製造業を業態化した。モノづくりの原点は同じだが、三次下請けから這い上がってきただけに、上からの発想ではなく、下からの目線で、常に「なぜ」を考えて、ビジネスチャンス優先の経営を貫いている。上からの発想では、全部下請けに投げたり、いったん内製化すると注文を止めて設備を償却したりする。リスクをすべて下請けに寄せてしまっては、競争力を高めることはできない。

日本企業の多くはジャック・ウェルチ氏が掲げた「選択と集中」を経営改革の手本にした。無駄を削ぎ落とし、弱い部分は切り捨てた。しかし、その集中した一本柱が倒れてしまうとどうにもならない。

この差はビジネスを短期的に見るか長期的に見るかの違いだ。上場企業は四半期という決算期間で評価され、長期的視点が疎かになる。当社は上場していないので、物事を長期的視点で見ることができる。

当社は工場稼働率70%の経営を実践している。減価償却はあくまでも会計上の措置であり、ある設備の償却期間が5年とされていても、5年で機械が動かなくなるわけではない。長い目で見ると、稼働率は70%でも100%でも同じことだ。

1兆円企業への道のりは一足飛びではない。約40年間、着実に右肩上がりを続けてきた。設備投資は目先の受注ではなく、先を見ながら行ってきた。コロナ禍でマスクの生産体制を構築した際にも、建屋に余裕があるため、早急にクリーンルームに改造し、瞬発力のある対応ができた。私たちは常に変化対応の経営を目指し、その一部としてモノづくりをしている。

好不況の循環を言い訳にする経営はやめようと考えてやってきた。変化は常に起こるもので、その変化に対応することが重要であり、そのために稼働率70%経営をしてきた。短期で利益を出すのであれば、稼働率を100%に近づけて売り抜ければいいが、それでは成長を長続きさせることはできない。

ほとんどの企業が「顧客第一」を掲げているが、その「顧客」は「得意先」であることが多い。しかし、得意先は、誰かに売るためにその商品を仕入れている。流通はあくまで手段であり、当社にとっては、生活用品を買ってくれるエンドユーザーが本当のお客様だ。

私たちは、価格についても、ユーザーインを重要視している。エンドユーザーが納得する価格(値ごろ価格)を先に決めて、引き算で考える。エンドユーザーが買いやすくて便利だと思ってもらえる商品を家電製品においては「なるほど家電」と名付けていて、「引き算方式」で価格設定する。

「原価積み上げ方式」で価格を設定するのが、多くの企業が行っているモノづくりだが、それはユーザーインの視点が欠けていると言わざるを得ない。企業は原価計算で考えるが、お客様はその商品の原価を知らないからだ。

お客様は、店頭に並んでいる商品が高いか安いかはわかっている。だから、エンドユーザーの目線で引き算をして、もし、計算が合わなければ、合うためにはどうすればいいか、知恵を絞る。

末端価格を決めて、それをドラッグストアなのか家電量販店なのかによってマークアップし、それに基づいて納価を決めていく。従来の販売会社制度では、チャネルに合わせた価格設定は難しい。

企業の成長が社会に貢献


今や、何が起こるかわからない世の中なので、何かあったときに身軽に動くことができるように会社の体制をつくっている。不動産バブルの崩壊やリーマン・ショック、東日本大震災など日本経済が大打撃を受けた危機的な出来事も、当社の業績への影響はほとんどなく、かえって成長できたほどだ。何が起こるかわからないので予測はしないが、起こったときにちょっとだけ早く動くことが大切だ。

企業理念として、「会社の目的は永遠に存続すること」を掲げている。いかなる時代や環境においても利益を出せる仕組みを確立することが大事だ。企業の使命として、「健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る」ことと、「働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり」も大切にしている。

株式を上場していないので、株主への配当を支払う必要はなく、雇用や従業員への還元、そして納税によって社会的責任を果たしている。中でも重要なのは、従業員にとって良い会社をつくっていくことだ。当社は会社を良くするために、営業利益の5%を幹部社員に対する配当として分配している。

日本にお金がなかった時代は、間接金融では足りず、株式市場から資金を調達することで、成長できた企業は多い。しかし、今は、金融機関がほぼ金利がない条件でもお金を借りてほしいという金余りの時代だ。株式市場から資金を調達して、株主へ配当を支払う必要はない。

株式上場が悪いとは言わないが、短期間で利益が出せないと「モノ言う株主」から批判され、次の総会で役員に任命されないような仕組みは、企業経営にとって健全だとは思えない。

株主がいて、会社ができたとしても、業績を支えているのは株主ではない。業績を支えているのは間違いなく働く従業員であり、従業員あってこその会社だと思う。



*2021年11月18日取材。所属・役職は取材当時。

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