コロナ危機に克つ:埼玉りそな銀行 地域の「こまりごと」解決へ

埼玉りそな銀行の福岡聡代表取締役社長は、生産性新聞のインタビューに応じ、全額出資で設立した地域課題解決事業を営む銀行業高度化等会社「地域デザインラボさいたま」を軸に、新型コロナウイルスの感染拡大の影響に直面する地元・埼玉県の発展に向けた取り組みを強化する方針を明らかにした。「こまりごと起点」でビジネスモデルを描き、銀行業務の枠組みを超えて、産学官金労連携のハブ機能を発揮、持続可能なまちづくりを後押しする。

「地域デザインラボさいたま」を設立 持続可能なまちづくりを支援

福岡聡 埼玉りそな銀行代表取締役社長
福岡氏は、国内でコロナ禍による混乱が著しくなった2020年4月に社長に就任し、「こまりごと起点」でのサービス提供を掲げた。

そして、未曽有の「こまりごと」であるコロナ禍に対応するため、初年度は銀行業務の深掘りによる顧客支援に力を入れ、2年目には銀行業の枠を超えて、地域課題解決を推進するため、「地域デザインラボさいたま(ラボたま)」を設立した。

2017年の銀行法改正で「銀行業高度化等会社」が定められ、金融庁から事前に認可を受けることで、これまでは銀行業法上認められてこなかった業務が、幅広に認められることとなった。

多くの地方銀行が、地域商社設立によって、顧客企業の物販の販路拡大等に乗り出す中で、埼玉りそなが設立した「ラボたま」は、「地域の自立的な好循環をつくり出す」ことをミッションに掲げ、まちづくりに力点を置いている。

福岡社長は「地域商社のほうが、銀行収益への寄与はイメージしやすいが、それよりも、地域に広く・深く・長く伴走支援するとともに、産学官金労連携のハブ機能を発揮し、日本一暮らしやすい埼玉県の実現を後押ししたい」と話す。


その背景には、埼玉りそなの前身、黒須銀行の設立時に顧問だった渋沢栄一の中心的考え「道徳経済合一」がある。企業の目的が利潤の追求にあるとしても、その根底には道徳が必要であり、国ないしは人類全体の繁栄に対して責任を持たなければならないという意味だ。

「ラボたま」の主な業務内容は、持続可能なまちづくりの実現に向けて、財源の確保や地域の担い手づくりをサポートすることだ。これまでも取り組んできた地方公共団体のまちづくりや賑わいの創出に関する企画立案や事業化までの計画策定に加えて、ラボたま設立後は事業開始後の自走化までを伴走支援する。

もうひとつは、産業創出支援を通じて、地域経済の活性化を後押しすることだ。

国の登録有形文化財である旧川越支店をコワーキングスペースや商談会・展示会の場として起業家育成を図ることを検討するほか、企業と自治体のマッチングイベントを開催するなどオープンイノベーションにも取り組んでいる。

福岡社長は「初の地域課題解決事業として飯能地区河川利活用検討業務を受託したほか、すでに40件ほどの案件を検討中だ。脱銀行を目指すラボたまの仕事には、外部人材のほか、地域課題解決に関心のある従業員を募って、参加してもらっている。埼玉りそなが求められる銀行へと変化するための原動力としても期待している」と話している。

(以下インタビュー詳細)

今は「正解」がない難しい時代 SXやDX、潮流への対応は必然
埼玉りそな銀行 福岡聡代表取締役社長インタビュー

2020年4月、新型コロナウイルスのパンデミックが起こったタイミングで社長に就任した。「こまりごと起点」をキーワードにしたグループの中期経営計画がスタートしたばかりで、コロナ禍はまさに、目の前にある未曽有のこまりごとであり、即座に動いた。

資金繰り支援を最優先


最初に力を入れたのは、顧客企業の資金繰り支援だ。4月に入ってすぐに、「経営安心応援チーム」を立ち上げた。先の見えないコロナ禍で、経営者に一日も早く安心してもらいたいと考えたからだ。

どこの銀行よりも早く、「資金繰りは大丈夫ですか」「資金調達をして、今の危機を乗り切っていきましょう」と声をかけて回った。この取り組みは、他の銀行の動きを加速させる一助になったのではないかと思う。

しかし、資金繰り支援を受けた顧客企業のバランスシートは変化しており、返済を据え置いても、いずれは返済を迎える。危機を乗り切った後の成長ステージに移行するため、新規の投資をするときに資本的な体力に不安を抱えてはならない。

こうした事態に対処するために、20年8月には経営改善等を提案する「営業店支援グループ」を作った。900件の顧客企業をピックアップし、本部で経営力や資本力を分析した。支店長たちにはエクイティを勉強させ、経営改善・財務改善に取り組んだ。すでに半分以上の企業に対し、具体的アクションを実施している。

すでに成果は出ている。もちろん、一定程度のデフォルトは避けられないが、これらの貸倒損失を、金額的にカバーするぐらい財務が改善しているお客さまもあり、当社の決算上も成果が表れている。

未来志向の企業が増加


そして、何よりも、未来志向で挑戦する企業が増えているのは嬉しいことであり、従業員も充実感を持って顧客企業に接することができ、モチベーションが向上している。M&A(企業の合併・買収)や事業承継の件数は増加傾向にある。「こまりごと起点」の活動がうまく回り始めていることに手ごたえを感じている。

当初は、コロナ禍がこれほど長引くとは思わなかった。調達したキャッシュを使っているだけでは、ポスト・コロナを見据えた成長にはつながらない。

ウィズ・コロナでの人々の行動変容や、地球環境問題、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の加速などの新たなこまりごとに対して、広く、深く、そして、時間軸を長く捉え、お客さまに伴走し、価値を共創することが大事だ。

DXに関しては、2025年に自治体のシステム標準化の実現を目指す、ガバメントクラウド移行へ向けたサポート等を行う「行政DXチーム」を設置。県内自治体のDXの後押しを進めるべく、AGSやNTTデータと連携。また、民間の法人向けのDXについては、りそな総合研究所やIT企業を紹介し、サポートできる態勢を整えている。さらに、りそなHDでは、中堅・中小企業の多様なDX推進ニーズにお応えするために、「りそなデジタルハブ株式会社」を今年4月に設立する予定であり、グループ一体で取り組んでいく。

地球環境に関するサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の取り組みについては、1万3000の取引先にアンケートを実施し、多くの企業がカーボンニュートラルを重大な課題として認識していることが分かった。

主に中小企業のSDGsの取り組みを後押しするため、21年10月1日から、「ESG目標設定特約付融資TryNow(トライ・ナウ)」の取り扱いを開始した。「売上高に占める燃料費の比率を前年比減少させる」など、把握しやすく行動に移しやすい目標を共に検討し設定する。定期的に達成状況の検証を行い、達成した場合には借入金利を優遇する。

22年1月4日には、国際的な指針に即したSX商品として、「埼玉りそなSXフレームワークローン」の提供を開始。大企業向けには、オーダーメード型のSLL(サステナビリティ・リンク・ローン)やグリーンローンと併せて、お客さまのSXの取り組み状況に応じた商品ラインアップを揃えている。

今後、SXに対する危機感はさらに高まるだろう。メーカーにとっては、自社製品のCO2排出量がどのくらいあるのかを原材料や部品の段階からすべて測定される。中小メーカーであっても、グローバルなCO2管理の枠組みで国際競争をしなければならない。

グローバル競争を勝ち抜くために、少しでも先駆けてSXに取り組めば、アドバンテージになる。その一方で、変化に乗り遅れてしまうと、ディスアドバンテージになるどころか、競争の枠組みから排除されてしまう。「アドバンテージか、排除か」の選択の中で、銀行は地元のお客さまの持続可能性の実現に向けてSXを支援するしか地域との共存共栄の道はない。

1989年、埼玉銀行に入行し、協和埼玉銀行、あさひ銀行となるなど、金融再編の嵐の中で、銀行員としてのキャリアを積んだ。人事部や企画部などを歩んだが、りそなショックが起こったときは、お客さまと関係を持つ融資企画部に所属しており、辛い思いをした。

金融危機の中で、りそなショックが起きたのはなぜなのかを考えると、国際的な資本規制の強化や国内の主要行の不良債権処理を通じ経済再生を目指した金融再生プログラムの実施など、経営環境が激変する中で変化の波に乗り切れなかったことが失敗につながったと思う。

りそなの常識は世間の非常識


ビジネス環境の変化に対応できずに死んでしまう「茹でガエル」になってはいけないという教訓だ。JR東日本の副社長からりそなグループのトップへと転身し、改革を推進した細谷英二元会長の「りそなの常識は世間の非常識」との言葉が当時の状況をよく表していた。

「銀行だから」「規制業種なので仕方がない」などと自らに言い訳をして変化に目をつむり、変わり切れなかった私たちは非常識だった。変化への行動を起こそうと起こすまいと、歴史は見逃してはくれない。

あれから20年近くが経過したが、世の中の変化はスピードアップしている。今、私たちがやらなければいけないことは変化することだ。もちろん、渋沢翁が唱えた「道徳経済合一」の精神は守るが、それを実現するための方法やスタイルを変えることに迷いはない。

目指す銀行像は、埼玉県の皆さまに信頼され、地元埼玉とともに発展する銀行であり、そのベースになっているのは「道徳経済合一」の教えである。ここがぶれると、私たちの存在価値はない。

私たちは今、「正解」がない難しい時代を生きている。正解があった時代の生き方や仕事の仕方はもはや通用しない。昔は成功して当たり前で、失敗したら大変なことだったが、それはある程度先を予見できたし、他のビジネスモデルをまねるだけでも価値が認めてもらえる時代だったからだ。

情報化社会が進んだ今、まねたものは価値を生まず、すぐにコモディティ化してしまい、お客さまから選んでもらえる会社にはなれない。失敗を恐れずに、創造的に変化に挑む人材をどう育てるかが問われている。

10回の懸垂に挑戦したが、5回で落下してしまったとして、これは失敗なのか。練習したら次の日には6回できた。練習を続けたら、いつかは10回できるかもしれない。失敗は変化に挑むことを諦めることだ。成功の裏側は失敗ではなく、失敗を続けることで人は成長できる。

次の時代を担う従業員、株主、お客さま、地域社会に対し、明るい未来が実現できるように、果敢に変化に挑む組織をつくっていきたい。



*2022年1月18日取材。所属・役職は取材当時。

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