コロナ危機に克つ:北海道中央バス 「地域の足」継続の危機

北海道中央バスの二階堂恭仁代表取締役社長は生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大がこれ以上長期化した場合、主力のバス事業の事業継続が苦境に陥るとの見通しを示した。燃料費や原材料費の高騰、この冬の雪害などが北海道経済を圧迫しており、同社のグループ経営も、観光や建設、不動産など他の事業によって、コロナ禍の移動自粛がもたらす需要減少をカバーすることが難しい状況で、国や地方自治体の更なる支援を求めている。

長期のコロナ禍で需要減少 国や自治体の更なる支援を

二階堂恭仁 北海道中央バス代表取締役社長
北海道中央バスグループの事業は、六つのセグメントに分かれており、バス事業を中心とする旅客自動車運送事業が収入の56%を占める(2019年度)。その他は、建設業が26%、清掃・警備業が5%などの構成比になっている。

コロナ禍で最も打撃を受けているのは、人流の抑制に伴い需要減に見舞われている主力の旅客自動車運送事業で、2020年度の売上高は前年度比36%の減少。また、観光事業も、稼ぎ頭のニセコスキー場のインバウンド(訪日外国人観光客)需要の消失等で60%減となり、グループ事業全体の収入でも26%減と大きく落ち込んだ。

二階堂社長は「当社グループの主力は公共交通サービスの提供であり、感染拡大防止対策としての人流の抑制の影響をまともに受けてしまう。利益が出せないからといって、事業を大幅に縮小してしまえば、コロナ後に公共交通機能を元に戻すことが極めて難しくなる」と危機感を示す。

建設業や不動産業など他の事業でカバーしていかなければならないが、原油高や原材料費の高騰などによって経営環境は厳しさを増している。この冬の大雪による雪害は、公共交通をマヒさせただけでなく、地域経済にも停滞をもたらした。

公共交通事業者としては、国や地方自治体からの要請もあり、コロナ禍でニーズがあるなしに関わらず、事業を継続しなければならない。それでも、公的資金を活用した赤字の補填についてはハードルが高い。

二階堂社長は「コロナ禍以前から赤字体質であった地方の公共交通は、公的支援等により何とか維持してきた。無利子融資を勧められても、民間企業としては返すあてもなく借りることはできない。『地域の足』をどう維持するかについて、国や地方自治体と話し合いを深化させることが必要だ」と話した。



(以下インタビュー詳細)

人の動き方、回復後読めず 構造的な問題も浮き彫りに
北海道中央バス 二階堂恭仁代表取締役社長インタビュー

コロナ禍が3年目に入り、北海道でも、テレワークやオンライン会議などの新しい働き方が広まっているが、人々の移動に関する考え方や行動がどう変わっていくかはまだ読めない。

2021年にはワクチン接種が切り札として実施され、10月から12月にかけて、需要は戻ってきたが、それでも、コロナ禍以前に戻りきることはなく、最盛期と比べると3割程度、少なかった。人々の外出に対する警戒感は簡単には解けないだろう。

首都圏や関西の人口集積地の公共交通サービスは需要が多く、通常では過密状態にあった。それに比べると、北海道の事情は全く違う。

札幌は200万都市で、朝夕のラッシュはある程度賑わうが、日中の利用客は少ない。しかも、日中に出かけていた高齢のお客様が、コロナ禍をきっかけに外出を控えるようになり、経営環境は更に厳しさを増している。

ウィズ・コロナで公共交通事業を継続していくために、多くの事業者が固定費の削減に取り組まざるを得ない状況だ。生き残っていくためには、需要に合わせた規模の事業に縮小することも考えられる。

しかし、一度体制を縮小してしまうと、コロナ後に需要が戻った場合に、すぐに受け入れ態勢を整備するのは至難の業だ。

現在、国の支援制度として雇用調整助成金制度(雇調金)があるが、たとえ社員を全員休ませてこの雇調金を申請しても、総人件費の半分にも満たない割合である。当然このままでは事業も雇用も継続できない。

公共交通を現在も、そして将来に向けても維持していくために、この100年に一度の災害と言われるコロナ禍の収入減による赤字を満たすだけの支援が必要だ。

乗務員と整備員が不足


コロナ禍の収束後に、人々の動き方がどのように変化するかは、もう少し行動変容を見定める必要がある。コロナ禍での生き残りへ向けた対応を最優先の課題としながら、地方の公共交通事業者が抱えている構造的な問題に対しても、対処していかなければならない。

コロナ禍で収入が大きく減少するなか、組織の見直し、管理部門のスリム化も含め、可能な限り対策を行っているが、バス事業はグループの中核であり、バスの乗務員を含めた現場の人員削減は難しい。

当社を含めバス事業が抱えている最大の構造的な問題は、バスを運転する乗務員及び、バス整備員の高齢化と「成り手」不足である。

自動車業界では、自動運転技術が開発され、実証へ向けたテストが行われているが、人命を預かる「バス」の自動運転となると、実用化までには、まだまだ課題が多い。特に、北海道の場合は雪が多く、インフラ整備が難しい。

コロナ禍以前は国をあげて、外国人の人材を積極的に活用する案も検討され、整備員は技能実習生の活用もできる仕組みとなった。乗務員については、大型二種免許取得のハードルが高く、実現はかなり厳しいと言わざるを得ない。

事業継続のために、車両更新などの設備投資を先送りにしている。今の時期に設備投資をしないことが、後々になって、大きな負担となることも予想される。バリアフリー対応の車両や環境対応の車両などの導入が遅れると、乗客に対するサービスの低下につながる。

デジタル化に向けた取り組みと課題


デジタル化に関しては、事業者側と利用者側の双方にメリットがなければ進まない。キャッシュレス決済推進のためのICカードや、GPSなどを用いてバスの位置情報を収集し、バス停の表示板やスマートフォン、パソコンに情報提供するバスロケーションシステム(バスロケ)などは配備を進めている。

MaaS(Mobility as a Serviceの略称)への対応も準備を進めていかなければならない。地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外のサービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行うサービスの導入が検討されている。

ただ、懸念材料もある。例えばこのようなシステムが、障害や事故などによって使用できなくなった時、緊急避難的にアナログでの対応に戻す必要がある。運賃が決済できなくなる等のケースに備えて、リスク管理や社会的な負担をどうするのか、関係機関と連携して、ルール決めを行う必要がある。

また、コロナ禍によって公共交通に対するニーズが多様化してくるだろう。交通事業者が個々の需要に合わせようとしても無理がある。MaaSの活用等、利用客がそれぞれのニーズに合ったサービスを自由に選べる環境をつくっていく必要があるが、そのためには、交通事業者をはじめとした関係機関が連携し、効率的で便利な移動手段を提供していかなければならない。

雪害の教訓生かした連携も


ポスト・コロナで、北海道にインバウンドが戻ってきた場合に備えた、地域の受け入れ態勢の整備も課題だ。この冬の大雪では、交通機能が維持されず、大きな教訓を残した。

新千歳空港と札幌市は約40キロ離れている。このルートが動かなくなると、たいへんなことになる。12月以降、札幌市を中心とした地域が記録的な大雪に何度か見舞われ、JR北海道は除雪が間に合わず、札幌駅を発着するすべての列車で数日間運休する事態に追い込まれた。降り積もった雪の影響で市内各所では渋滞が発生し、生活路線はもちろんのこと、札幌と各都市を結ぶバスも運休に追い込まれた。

今回はコロナ禍で観光客が少ない状態でも、大きな影響が出た。コロナが収束後、インバウンドの流れが回復し、飛行機の発着が通常に戻った状態で同じことが起こると、輸送手段の供給は難しくなる。関係者間で課題を共有し、対策を話し合っておく必要がある。

北海道の公共交通の在り方


北海道は、人口減少によって、徐々にバスの利用者は減少してきており、コロナ禍によりその状況は更に進むと考えている。一方、国内外からの観光客の流入に伴う交流人口は、コロナ前も増えていたし、コロナ後に外国との交流が正常化したら、どれほど回復するのかも含めて、対応を考えなければならない。

北海道は魅力のある観光資源が多い。しかし、土地が広大で、何百キロも離れた場所にあるので、移動のための乗り物が果たす役割は大きく、その連携も含めて考える必要がある。2020年1月、新千歳空港を含む北海道内7空港の一括民営化がスタートし、広大なエリアの連携について模索を始めた矢先にコロナの脅威に見舞われた。

このように、先を見ると解決しなければならない様々な課題がある。しかし、この解決のためには、民間企業だけの連携では限界がある。交通政策基本法では、「『地域の足』を維持するのは地方自治体の責務」となっており、今こそ、地方自治体が主体的に、地域の公共交通サービスを構築することが重要だ。

とにかく今はコロナ禍で減収になった部分の赤字を埋めながら、どのように事業を継続していくかという足元の課題に向き合うことが先決だ。

当初はコロナ禍の大きな影響がこれほど長く続くと思っていなかった。この状況がまだ続くとなると、事業の継続はますます難しくなる。



*2022年3月1日取材。所属・役職は取材当時。

関連するコラム・寄稿