コロナ危機に克つ:楽天コミュニケーションズ 法人の携帯コスト最適化を支援

楽天グループでICT事業を展開する楽天コミュニケーションズの金子昌義代表取締役社長COOは生産性新聞のインタビューに応じ、楽天モバイルが2022年10月から提供する法人向け携帯電話サービスの独自性を高めるため、サービス開発を中心に貢献する方針を明らかにした。新型コロナウイルス感染症の拡大で需要が高まった「モバイルチョイス”050”」と法人向け携帯を組み合わせ、企業ニーズを広くカバーするソリューションを展開していく。

法人向け楽天モバイルの拡大に貢献

金子昌義 楽天コミュニケーションズ代表取締役社長COO
楽天コミュニケーションズの前身であるフュージョン・コミュニケーションズは2000年に創業し、基幹網をすべてIP技術で構築し、日本で初めて長距離電話に全国一律料金を導入するなど話題を集めた。2015年に楽天の100%子会社となり、商号変更した。同社は、経営品質向上の取り組みを続け、「2021年度日本経営品質賞大企業部門」を受賞した。

電気通信事業者として、「電話・インターネット接続」「モバイル・IoT」「コンタクトセンタープラットフォーム」「クラウド」の4事業領域を展開。コロナ禍においても、働き方の変化に対応したソリューションを提供してきた。

なかでも、「モバイルチョイス“050”」は、個人の携帯電話にビジネス用の電話番号を付与し、業務用の通話料金を自動的に会社へ請求する。そのため、法人用携帯電話の貸与が不要になるなどのコスト削減効果と、プライベートの電話番号を仕事相手に知られる心配もなく、携帯の2台持ちから解放されるなどの利便性が好評だ。

新型コロナ感染拡大の中で、オフィス勤務とリモート勤務の切り替えが頻繁となったことで、柔軟性の高い働き方を必要とする企業や地方自治体に「モバイルチョイス“050”」のニーズが高まっている。

金子社長は「フュージョン時代から培ってきた楽天コミュニケーションズの技術と、楽天グループの先端技術を融合させることで、サービスの独自性を高めていく」と述べ、楽天グループが力を入れている携帯電話事業での技術融合と用途の拡大を進める考えを示した。

一方、楽天モバイルは2022年5月、個人向けの新プランの発表会見の中で、法人向けの携帯電話サービスを同年10月から提供すると発表した。法人専用の料金体系を設定し、個人向けサービスと同様に“Rakuten Link”の無料通話も提供する方針だ。

“Rakuten Link”は、データ通信ができる環境でさえあればどこにいても通話料が発生しない。海外出張などで国境を越えて業務上の連絡を取る必要がある場面でも、アプリ同士での通話であれば、通話料金はかからないという。

金子社長は「法人向け楽天モバイルと『モバイルチョイス“050”』を組み合わせて利用することでお客様の選択肢が増え、最適なコストで柔軟な働き方が実現できる」と話している。

(以下インタビュー詳細)

「非接触」「遠隔」「製造業のDX」 顧客支援、三つのキーワード
金子昌義 楽天コミュニケーションズ代表取締役社長COOインタビュー

楽天グループには、インターネット通販が楽しめる総合ショッピングモール「楽天市場」をはじめ、金融サービスなどコンシューマー向けのサービスを展開する企業が多い中、楽天コミュニケーションズは特異な存在で、法人向けにITや通信サービスを提供している。

楽天コミュニケーションズのミッションは二つあり、「楽天グループ内で使われている優れた技術やサービスをグループ外のお客様に提供すること」と、「楽天グループ外の優れた技術をグループ内に提供すること」だ。

楽天グループは、新しい技術を次々と開発し、「これは良い」と思った技術をサービス化し、グループ外のお客様に提供する。一方で、グループ外で開発された技術をサービス化し、楽天グループに取り入れる枠組みも重要であり、数多くの法人顧客やパートナーを持っていることが強みになっている。

2015年から16年にかけて、楽天コミュニケーションズの強みや存在価値をより鮮明に打ち出すため、前身のフュージョン・コミュニケーションズから培ってきた技術と、楽天グループとしての優位性の双方を生かして、独自性を高めていくことを旗印に掲げた。

楽天コミュニケーションズにとっては、IP電話などの設備、技術者などの人材、パートナー企業などの財産をさらに活かし、販売力を高めることが課題だった。一方で、楽天グループは、ブランドや知名度、チャレンジ・スピードのカルチャー、先端技術など様々な資産を持っている。楽天グループ入りしたメリットを最大限に活用することができれば、ビジネスの可能性は大いに高まる。

例えば、海外からの技術導入においても、楽天グループの公用語が英語であることから、商社などを経由せずに直接、かつ、スピーディに有利な条件で行うことができる。

制限解除に合わせ出社を推奨


2020年から新型コロナのパンデミックが起こり、社内ではコロナ禍における働き方の対応を迫られた。

テレワークの場合の社内コミュニケーションに関しては、そもそもコロナ禍前からビデオ会議は当たり前のように使っていたので、オフィスへの出勤に制限がかかった場合も抵抗なくテレワークに移行できた。また、ソーシャルディスタンスの確保やワクチン接種も積極的に促進してきた。

楽天グループでは、感染状況が落ち着けば、出社を推奨している。その背景には、グループの成功のコンセプトの一つである「スピード‼スピード‼スピード‼」の重視がある。スピード感を持たせようとすれば、顔を合わせて、「パッ」と話をすることが非常に大事だ。

テレワークでは、一緒に仕事しているメンバーに少し話をするだけでも、ミーティングを設定しなければならないなど、オフィス勤務と比べてアジリティ(機敏さ)に差が出る。

また、テレワークよりも、出社した方がミスを防ぎやすくなる。伝えたはずが伝え忘れたなど、横で電話を聞いていたら分かることもある。お客様に迷惑がかかるようなミスが出るリスクは極限まで減らしていかなければならない。

一方で、楽天コミュニケーションズが提供しているソリューションやサービスが、お客様のコロナ禍の働き方を支援しているという側面もある。これらのサービスのキーワードは、「非接触」「遠隔」「製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」の三つだ。

「非接触」に関しては、飲食店などの食品衛生管理を支援するクラウドサービス「あんしんHACCP(ハサップ)」がある。食品衛生法などの改正で、HACCPに沿った衛生管理が制度化された。中小の飲食店などに対し、紙で行っていた衛生管理の計画書や免許更新に必要な日々の記録のクラウド化を支援している。

また、宿泊事業者向け民泊運営支援サービス「あんしんステイIoT」は、インバウンドの旅行者が宿泊所に訪れた際に、電子ロックやカメラでの本人確認など非接触のデジタル技術を活用した管理支援サービスを提供している。

コロナ禍では、飲食店や観光事業者は営業制限を強いられ、こうしたサービスを活用する段階ではないお客様が多かった。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が沈静化し、飲食店や観光のビジネスが動き出すにつれて、これらのサービスへの関心も高まっている。

二つ目の「遠隔」では、クラウド型コンタクトセンターソリューションの「楽天コネクト Storm」がある。急速に感染拡大が進む地域で、コンタクトセンターで働く従業員のソーシャルディスタンスを確保できる場所が不足するなどの緊急事態にも、クラウドを使えば、感染が落ち着いている地域に席を分配するなどの対応が簡単にできる。また、全国に感染が広がった場合も、Wi-Fiルーターを持ち込むことで、自宅勤務にスムーズに対応できる。

また、個人の携帯電話を業務の通話に活用できる「モバイルチョイス”050”」や、クラウド型ファイルサーバー「楽天クラウド ファイルストレージ」についても、遠隔作業に柔軟に対応できる利便性が好評で、需要が拡大した。

さらに、「製造業のDX」を後押しする「Ubisense(ユビセンス)」は、位置情報を活用した工場のDXや人員配置の最適化を支援するIoTソリューションだ。

このソリューションは、産業用IoTやデジタルツイン、スマート工場ソリューションのリーディングプロバイダーである英国のユビセンス社が提供しているUWB(超広帯域無線通信)を採用している。

高精度の位置測位機能を使って、工場の製造ラインや物流倉庫などで、従業員の作業時間を把握し、ボトルネックを分析することで生産効率の向上を図ることができる。位置データを可視化し、動線を分析することにより、非効率な時間の削減や柔軟なレイアウト変更にも役立つ。

楽天コミュニケーションズはユビセンス社と日本国内における独占的再販売契約を結んでおり、自動車業界や航空宇宙業界、各種製造業など幅広い産業のDXを推進することを目指している。

変化の先を見据えた技術開発


ポスト・コロナでは、コロナ禍でテレワークをして良かったと感じて継続する企業がある一方で、元に戻そうという企業もあるだろう。しかし、実際はケースバイケースで、状況に応じてフレキシブルにテレワークを活用することが重要になってきている。今後もテレワークに対応した新しいソリューションの開発を進めたい。

楽天モバイルのネットワークを使えば、モバイルビジネスはさらに様々な可能性が広がる。場所を問わない働き方をもっと快適にできるソリューションを提供したい。アバターを使ったバーチャルオフィスでコミュニケーションが取れるソリューションも試してみたが、なかなか合格点は取れない。もっと一人ひとりの心に寄り添って、モバイル環境でのコミュニケーションの快適性を追求していく必要がある。

また、AIを使って、コンタクトセンターの業務の生産性は大幅に向上した。例えば、こうした経験を、救急車の緊急搬送の最適化など他の分野にも生かせないかと考えている。

楽天グループの先端技術力を活用すれば、可能性は無限に広がっており、コロナ禍で起こった変化の先にある変化を読み、新しいソリューションの提供を通じて、社会課題の解決に貢献する取り組みを継続していきたい。

*2022年5月24日取材。所属・役職は取材当時。

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