コロナ危機に克つ:オオクシ 危機バネに成長果たす

千葉県を中心に59店舗の理美容室の直営店を運営するオオクシの大串哲史代表取締役は、生産性新聞のインタビューに応じ、2022年6月期の決算が過去最高の売上高になる見通しを明らかにした。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けながらも、21期連続の増収となり、利益も前期比増に転じる見込みだ。コロナ禍でも休業せず、営業を続けつつ改革を進めるなど、危機をバネに成長を果たした。

休まず営業、研修で経営理念再確認

大串 哲史 オオクシ代表取締役
大串氏は、「2020年4月にコロナ禍を乗り切るための緊急対策計画書を作成し、従業員の生活を守ると宣言した。感染拡大でお客様の足が遠のいた期間を活用し、研修を徹底することで、経営理念や会社としてあるべき理想の姿を共有できた」と話す。

オオクシは、競争が激しい理美容業界において成長を続け、2020年度日本経営品質賞を受賞した。経営理念の徹底と独自のデータ分析を用いた経営を実践し、顧客の高リピート率と高い従業員満足度の両立を実現。離職率は、業界の平均を大きく下回る一桁台で推移している。

店舗数の拡大を続けるオオクシは、将来の100店舗規模に備え、コロナ禍前に直営店舗を支えるために本部の体制づくりに取り組んだ。間接部門である事業支援部門を新設・強化したため、会社全体としては減益になり、その直後にコロナ禍に見舞われ、減益が続いた。

大串氏は、「現場を支える部門の強化をしないと何か問題が起きた時に対応できないので、必要な措置だった。そもそも、東京五輪後の変化に備えた体制固めの意味もあったが、結果的にこの判断が奏功し、コロナ禍にも揺るがず、対応できた」と話す。

20年4月の緊急事態宣言の後、営業を継続する決断を後押ししたのは、安倍晋三首相(当時)が同年4月7日夜の会見で「理美容については国民の安定的な生活の確保のために事業継続することが必要なサービスだ」と述べたことだ。

「自分たちの業種が、スーパーと同じく必要であると言ってくれて、ものすごくうれしかった。休業した方が短期的には経営は安定したかもしれないが、その場合は経営理念に掲げた地域社会への貢献ができないと感じた」(大串氏)。自身や家族が健康不安を抱える従業員には休業してもらい、その補償をしたが、それ以外の社員やパート従業員は時短勤務にもせず、通常の勤務にした。マスクや消毒薬など感染防止対策に必要な物資が揃わない場合は休業やむなしと覚悟したが、「さまざまな方から協力を頂き、経営を継続できた」という。

ただ、顧客のリピート率はコロナ禍前に比べて低下した。大串氏は、「コロナ禍が終われば、元の客足に戻るとは考えず、『コロナ禍でお客様のニーズが急激に変化した』と捉えた」。そして、オペレーションや接客などを大幅に変えることで、リピート率は回復軌道に戻り、決算も増益確保のめどが立った。

大串氏は「コロナ禍の最初の半年間は従業員の健康を守ることを最優先にし、次の半年間は新しい顧客ニーズに対応した業務の改善に取り組んだ。その後は、コロナ禍前以上の成長軌道に戻したうえで、未来への投資をどこよりも早く始めることに取り組んでいる」と語る。

(以下インタビュー詳細)

助け合う企業文化が花開く 感染した従業員に箱いっぱいの食料
大串哲史 オオクシ代表取締役インタビュー

新型コロナウイルスの感染拡大による危機を乗り切るために、休業するのか営業を続けるのか、正直迷った。結局、営業を続ける判断の基準になったのは次の3点だ。

一つ目は、原理原則がどうかということだ。つまり、経営理念にも掲げている会社としてあるべき姿に沿っているかだ。地域社会に貢献することを大事にしているが、休んでしまってはそれができない。

二つ目は、長期的な視点で考えてどうかということだ。休業に伴う助成金など目先のことだけを考えるのではなく、長期的に考えれば、経営理念の実現に向けて、営業を続けたほうがいい。

三つ目は、多方面から見てどうかということだ。お客様から見た視点、社員から見た視点、そして、会社として見た場合はどうか。さまざまな視点に立って、営業を続ける決断を下した。公的な助成金はほぼゼロだったが、休まずに続ける決断があったからこそ、会社を強くすることができたと確信している。

経営者として大事なことは、どんな状況でもさまざまな変化に対応しつつ、結果を出し続けることだ。さらに人を育てることも大事だ。このどれが欠けても、会社は存続できない。

危機の中でこそ人は育つ


コロナ禍の2年間で取り組んだことを総括すれば、激しい変化に一丸となって対応したことであり、しかも長期の変化に向けて、将来のための種をまくことだった。コロナ禍の厳しい状況にあるからこそ、リーダーを育てるのにはもってこいの環境だと言える。

今振り返ってみると、会社としての理想の姿や原理原則を見失わず、これを共有することが会社として強くなる道であると実感した。そして、人材教育の強化や新しい事業へのチャレンジなど、さまざまな種をまくことができた。来期以降に結果が出て、もっといい会社になると思っている。

コロナ禍で取り組んだもう一つの課題に「働き方改革」がある。指紋静脈認証技術を使って、1分単位で残業時間を算出している。「サービス業で、それだけ徹底して管理することは難しいのではないか」と指摘されたが、全従業員の指紋と静脈をパソコンに登録してもらって、どこの店舗に行っても労働時間がわかるようにした。

その成果として、無駄な残業時間を大幅に削減することができた。最後のお客様が帰ってから、従業員が仕事を終えるまで、それまでは1時間かかっていた。それを「20分で帰宅しよう」と目標に掲げて、全ての作業を棚卸し、可能な限り無駄な仕事を省いた。 研修による技術力の向上と、働き方改革など、コロナ禍での取り組みが奏功し、一人当たりの売上高はコロナ禍前に比べて大きくアップしている。その結果、平均年収は理美容業界平均より100万円近く多くなっている。

「ダメだ。できない」と思い込むのではなく、まず、やってみることが大事であり、コロナ危機を乗り越えることで、従業員に自信がついた。確かに、新型コロナの感染リスクは懸念材料であった。その一方で、まとまった時間を利用して、人材育成ができたし、組織構築など経営システムとビジネスモデルも強化することができた。

日本には、さまざまな自然災害があり、そのたびに人々は強くなってきた。コロナ禍に直面した時、「負け惜しみであっても、強くならないといけない」と言い聞かせていた。だから、この危機から何かを学ぼうと考えた。滝に打たれて、修業をした気持ちになって、強靭な会社を目指した。

リーダーは後ろを振り向いていてはいけない。強い意志を持って、明るい未来を示し、「必ず良くなる」と言い続けることが大事だ。どんな変化にもひるむことなく対応し、意地でも結果を出し続けることが求められている。

リーダーの姿勢は、有言実行でなければならない。ビリヤードをするときに、どう仕留めるかを宣言し、狙い通りに的中させたのと、偶然、入ったのとでは、結果は同じでも全く違う。まず宣言し、その通りに結果を示さないと、従業員からの信頼は得られない。

新型コロナの感染拡大が始まった2020年4月、どのように危機を乗り切り、コロナ禍前以上の成長軌道を実現するのかについて、緊急計画書をしたためて、従業員に約束した。あれから2年が経ち、まだコロナ禍前以上にはなっていないものの、増収増益が確実になったため、5月にオンラインでみんなをつないでささやかなお祝いをした。

「この会社で働いて、危機を乗り越えることができて良かったです」と喜ぶ従業員を見て、うれしかった。従業員との信頼関係を強くし、人材を育てるのは、こういう危機を一緒に乗り越えることが一番だ。

目に見えないものを大切に


東日本大震災のときも、「全員の生活を守る」と宣言して、実際に、給料を下げることなく、危機を乗り切った。その時の従業員は8割以上が辞めずに残っている。

コロナ禍の危機に際し、東日本大震災の時の会議の議事録や映像を見返し、コロナ対策の参考にした。研修で私が話している最中に余震が起こり、従業員が帰ろうとする中で、「余震は何回もあるから」と冷静に対応するように求めた映像があった。

コロナ禍と震災の最も大きな違いは時間だ。東日本大震災の時は、半年から一年で地震は落ち着くだろうと予測ができたが、コロナ危機は終わりが見えない。短期決戦の災害対応と、長期間にわたる感染症危機の対応は違う。先の見えない長距離走では、全従業員の心が折れてしまうことが心配だった。

このため、「自分たちは絶対大丈夫だ」と安心させることが大事だった。不安になって離職率が上がるのが最大のリスクだったので、会社が盤石であることを示すため、金融機関からお金を借りられるだけ借りて、みんなに安心して働いてもらえる環境をつくった上で、「お客様にも勇気と元気と安心を与える言葉をかけよう」と呼びかけた。

コロナ禍で「やって良かった」と思っていることがある。従業員が感染した時に、段ボール箱いっぱいの食料を詰めて、自宅に送ったことだ。感染した従業員に家族がいれば、家族の分まで、1週間分以上の食料を送った。

意図したわけではないが、食料を送り続けたことで、従業員の会社への信頼は高まり、家族的な企業文化がさらに強固になった。感染を経験した従業員たちから「会社に恩返しをしたい」と手紙をくれたり、家族そろって会社にお礼に来てくれたりすることもあった。「コロナは分断を招く」とよく言われるが、オオクシではコロナ禍を経て、従業員の絆は強まった。

東日本大震災の時、会社で「震災だからと言い訳しない」を合言葉に、危機を乗り切った。コロナ禍では、新たに「目で見えるものは失っても、目で見えない大切なものを手に入れよう」という合言葉をつくった。

コロナ危機で店舗閉鎖に追い込まれるかもしれないし、会社の資産など目で見えるものを失うリスクは覚悟した。しかし、「仲間の絆」とか、「お客様との信頼」とか、目に見えない大切なものだけは失わないようにと、みんなで言い続けて励まし合ってきた。

「イライラしても、喧嘩はやめよう」「つらくても、仲良くしよう」……。そういう声かけが、感染者が出た時に食料を送る行動へと自然につながっていき、助け合う企業文化が強くなったのだと思っている。



*2022年5月31日取材。所属・役職は取材当時。

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