コロナ危機に克つ:自動車関連サービス「ヤマヒロ」 東京スマート化へ貢献目指す

2021年度日本経営品質賞の受賞企業で、東京都内を中心に出光系のガソリンスタンド35店舗などを運営するヤマヒロの山口寛士代表取締役社長は、生産性新聞のインタビューに応じ、ポスト・コロナの新時代に向けて、「スマート東京」を目標に掲げ、新たなプロジェクトの実現に向けてアクセルを踏む考えを示した。地域住民に貢献し続けるため、新たな挑戦、課題意識、持続可能な発展に挑む考えだ。

移動ストレス解消/CO2削減に貢献 超小型EVカーシェアリングに挑戦

山口 寛士 ヤマヒロ代表取締役社長

山口氏は、「2021年1月に、菅義偉 前首相が2035年までに新車販売で電動車100%の実現を掲げたことが、コロナ後の新しい時代へ向けた準備を始める転換点になっている」と述べた。

菅前首相は2020年10月の臨時国会での所信表明演説で、国内の温室効果ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする「カーボンニュートラル」を目指す方針を掲げており、電動車への移行は、脱炭素社会の実現へ向けたマイルストーンを示したものだった。

山口氏は、2035年に新車販売で電動車100%が実現した場合、「ガソリンスタンドの経営は2040年から2045年には危なくなるだろう」と予測。「そのときは、子供の世代が主役であり、若い世代にとって魅力ある会社にすることが大きな目標になった」という。


ガソリンを取り巻くネガティブな環境変化に揺らがない強い会社になるために、環境対応については、10年から15年先を見据え、電気自動車(EV)や水素自動車などの環境対応車の普及に関する情報収集に力を入れる。さらに、早稲田大学の「スマート社会技術融合研究機構」の取り組みに積極的に参加し、「焦らずに先を見据え、少しずつ肉付けする」姿勢で対応を進める方針だ。

自動運転化社会における自社の役割についても考えている。

自動運転化社会ではタクシー、レンタカー、カーシェアリングは同じサービスになると考えられており、カーシェアリングがタクシーに近いサービスになれば、移動はリーズナブルに、さらに快適になるとの見通しを立てる。事業構想の実現に向けて、その世界に近づくサービスの位置づけとして、出光が進める「超小型EV乗り捨てカーシェアリング」などに取り組む。

山口氏は「自動運転化社会が実現するまでの間にも、移動にストレスを抱える人たちがいる。このプロジェクトは、西東京地区に多くの拠点を持つヤマヒロだからこそできることであり、身近にあるガソリンスタンドの立地を活かすことで、実現可能性を高めたい」と話す。

高齢化社会でのローカルな課題として、交通事故リスクの高まりや、免許返納による移動のストレスがある。こうした課題解決に貢献し、東京(経済圏)の街に暮らす人たちのQOL(Quality of Life:生活の質)向上を目指す。加えて、EV利用により、移動手段で発生するCO2の削減にも貢献することが可能だ。

山口氏は「未来を見据えながら、東京(経済圏)の街の暮らしをスマートにアップグレードするために、自らの強みを活かして新しいことに挑戦し続けたい」と話している。



(以下インタビュー詳細)


濃厚型営業戦略で収益伸ばす 顧客DB構築、タイムリーに活用
山口寛士 ヤマヒロ代表取締役社長

ヤマヒロのビジネスの強みは、「狩猟型」から「農耕型」の営業スタイルに変革することで、新型コロナウイルスの感染拡大など不透明な経営環境の中でも収益を高めることができていることだ。

規制緩和によってガソリンスタンドの競争が激化し、多くのガソリンスタンドは、洗車、車検、整備をはじめとする「油外サービス」を積極的に提供するなど、サービスステーション化を進めている。しかし、顧客より店の都合を優先した販売方法は、顧客に敬遠されるだけでなく、業界内外の競争によって、近年は収益性も伸び悩んでいる。

ヤマヒロも以前は、各店舗でさまざまなサービスを取り扱い、声掛けによるキャンペーン商品の販促を実施していた。しかし、顧客のニーズとかけ離れた「狩猟型」の営業を続けることで、店長をはじめ、現場の従業員は疲弊していると感じた。

そこで、一方的で無用なセールスを廃止し、店舗の立地と設備環境に合わせてサービスを特化するため、2015年から事業部制に移行した。第1事業部は点検・整備と車販・保険のサービス、第3事業部は洗車・コーティングと鈑金・リペアのサービス、そして、第4事業部はレンタカーとドライブスルー洗車のサービスを提供する。

事業部を構成する各店舗によって、訴求するサービスを絞りこむことで、社員は狭い範囲を深く学んで専門性が高まる。蓄積された知識・技能を事業部内で共有することで、事業部全体の成長につながった。近年、サービスステーション業界の収益が減少傾向にある中で、ヤマヒロは2016年度以降、サービス収益が増加し続けており、現在は16年度比で1.5倍となっている。

「油外サービス」専門性磨く


ガソリンの提供サービスが儲からないから、他のサービスによる収益で補完しようという考えで、ガソリンスタンドのほか、車検や洗車やレンタカーなどを同一の店舗で手掛けようとすると、強いサービスは生まれにくい。

それよりも、それぞれの専門性を高めた専業店をしっかり開発していけば、そこにノウハウが蓄積される。ヤマヒロの強みは、店舗が持つ特徴的で専門的な要素をアピールしながらサービス力を高められていることだ。

ガソリンを補給するために来店したお客様に車検を勧めるのはいいが、1台当たりの粗利を高めるために、「ここがダメ、あれもダメ」と声を掛けてしまうと、結果として「ガソリンスタンドは押し売りが強い」というイメージが出来てしまう。ディーラーも同じような提案をしているが、ディーラーのほうが、信用力が高い。

点検整備は予防のためであり、何かトラブルが起こっては困るが、その措置を本当にやる必要があるのかグレーな部分もある。やったほうがいいと思う措置については勧めるが、それ以外の措置についてはお客様に決めていただくのがいい。その時に返事が「ノー」であっても構わない。「半年後にもう1回状況を見せて下さい」と言えば、お客様の納得度が上がるだろう。

このほか、事業部による縦のラインと、スタッフ部門による横のラインのほか、社員主体の部門横断型の六つのワーキンググループ(WG)を設置し、現場目線で全体最適の改善活動も推進している。

WG活動は、顧客の声に基づく改善提案件数の増加や、社員満足度調査結果を踏まえた働きやすい職場環境づくり、社員・アルバイトスタッフの能力開発などに貢献しており、会社の戦略策定にも欠かせないものとなっている。 

また、1998年の解禁にあわせて、セルフ式ガソリンスタンドをいち早く展開している。現在は35店舗中33店舗がセルフ式だ。

業界のセルフ式ガソリンスタンドでは、スタッフ数を減らしているケースが多い。しかし、顧客との継続取引を目指すために、顧客接点を形成する場として店頭接客は重要だ。このため、各店舗に社員と、クルーと呼ばれるアルバイトスタッフを配置し、サービス力の向上に取り組んでいる。

車両情報管理システムによる顧客データベースを、市販のアプリケーションやシステムなどを使って、独自に構築することができた。このシステムには、約5万人分のお客様のデータが蓄積されている。顧客属性や車両情報だけでなく、前回入庫時の提案内容やヒアリング内容、お客様が気にしている点など、さまざまな情報が詳細に記録されている。

この情報を活用し、次回入庫時に、過去の履歴や顧客の意向に配慮した接客が可能だ。車番認証システムと連動させることで、入庫車のナンバープレートを認識し、瞬時に履歴や次回来店時のテーマなどの情報を表示することができるようにした。

こうした取り組みにより、店舗側の都合ではなく、お客様のカーライフに寄り添った提案ができるようになった。次の車検まで顧客とコンタクトをとらない整備工場やガソリンスタンドが多い中で、顧客と継続的に接点を保ち、関係性と信頼性を高めることができている。

買い替え客に引退レンタカー


2008年にFC契約によって、レンタカー事業を開始した。格安レンタカー業界では、古い中古車を限界近くまで稼働させた後、廃車または格安で売却することが一般的だが、ヤマヒロでは、カーナビやドライブレコーダーを装備した新車を購入し、格安レンタカーとして提供することで顧客満足度を高める戦略を取り、それがうまく機能している。

また、レンタカーと中古車販売を組み合わせた高収益のビジネスモデルが特徴だ。一定の走行距離を超えた車両について、買い替えを検討しているお客様へ直接販売している。車検・点検などの顧客接点を通じて得られた顧客情報によって、高年式で比較的安価な中古車を希望するお客様を探し出せる。

車両情報管理システムでこうした情報を管理し、お客様のニーズにマッチした車両が出てくるタイミングで、タイムリーに買い替えを提案する。それによって、平均10日程度という高い在庫回転率での成約につながっている。

新車を持っている人は、購入したディーラーで車検をするが、ガソリンスタンドで車検をするお客様は、古い車を持っていることが多い。そうしたお客様に装備の揃った買い得感のある中古車を提供できる。

35店舗中29店舗が石油元売りからの要請を受けて統合、開発した店舗だ。クレジットカードやポイントカードを活用した顧客固定化施策でも、他社を圧倒するスピードで達成し、石油元売りから不採算店の立て直しや、開発案件を任されるケースも多い。2021年春にオープンした立川通りサービスステーションは、出光興産の新ブランド「アポロステーション」の全国第1号店として選ばれた。

不採算店を引き受ける際には、従業員も受け入れ、当社が掲げる顧客本位の経営理念と価値観を学ばせ、ビジネスマンとして再教育している。目標設定についても、達成することが目的ではなく、大きな目標に向かって努力するプロセスを重視している。アルバイトスタッフにも資格取得を奨励しており、価値観共有のための研修受講も義務づけている。

自動車業界では、整備士など技術者の成り手不足が深刻だ。ヤマヒロは大学の新卒を採用し、入社してから整備士などの資格取得を推奨している。有資格者を中途採用するより、育てがいがあるし、人を大切にする会社であることが伝わると思っている。



*2022年6月6日取材。所属・役職は取材当時。

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