コロナ危機に克つ:葉山国際カンツリー倶楽部 コロナ禍でデジタル化推進

神奈川県葉山町のゴルフ場「葉山国際カンツリー倶楽部」の上山吉秀支配人は生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染防止や生産性の向上を目指し、フロントの自動精算機などゴルフ場運営のデジタル化を進めたことを明らかにした。ポストコロナに向けても、必要な作業のデジタル化を検討する一方で、同倶楽部の強みであるキャディーによる接客については、人材の採用・育成を引き続き強化する。

アプリ予約や自動精算機、配膳ロボなど導入 従業員の業務軽減と働き方改革に

上山吉秀 葉山国際カンツリー倶楽部支配人

葉山国際カンツリー倶楽部では、30歳代から40歳代の会員が近年増加傾向にあることに対応し、時間に束縛されることなく、公式スマートフォンアプリから好きな時に予約できるシステムの導入を進めている。

メンバーとビジターは、それぞれ予約カレンダーから空き枠をチェックし、予約することができる。そのほか、お得なクーポンやオープンコンペの案内をはじめ、レッスン、コース紹介、オリジナル商品の案内などの最新情報を確認できる。

支配人の上山氏は「デジタル化によって若い層を取り込もうという戦略は、外資系のゴルフコースやパブリックゴルフコースの方が進んでおり、メンバーシップ運営をしているゴルフ場がこうした取り組みをしているのは珍しい。アプリで情報を友人とシェアするメンバーもいて、すでに大きな宣伝効果が出ている」と話す。

また、フロント業務の自動精算機は、新型コロナウイルスの感染防止のために導入した。メンバーは、予約をすれば顔認証によってチェックインすることができる。

シニアメンバーは対面でのチェックイン・チェックアウトを好む人が多いというが、すでに来場者の7割以上が自動精算機を使用しているという。上山氏は「当初は感染防止対策に重点を置いての対応だったが、自動精算機の利用者が増えることによって、フロントスタッフの業務が軽減するなどの効果があり、スタッフのシフトに余裕ができるなど、従業員の働き方改革にもつながっている」という。

同じような効果はレストランにも出ている。配膳ロボットの導入は当初、接客の際になるべく対面を避けることに配慮したものだったが、1台で4人分の配膳が可能なため、給仕するときは無人で、回収するときはスタッフがひとり付き添えば、4人分の給仕・回収が一度で済むメリットがある。

自動化を検討する業務は他にもある。レストランの注文・決済をタブレットで完結させるシステムのほか、人手不足感が強まっているコース管理についても、GPSを活用した自動芝刈り機の導入などによって、作業の軽減や効率化を図ることが可能になるという。 一方で、上山氏は「テラスでのゴルフバッグ積みや、玄関でのゴルフバッグ降ろしなど、接客対応は葉山国際カンツリー倶楽部の特徴であり、その最前線であるキャディー業務などは、今後も人手に頼る」と話す。

引き続き、キャディーの採用に力を入れるほか、自動化できる部分は自動化を検討し、接客にあたるスタッフの業務の軽減と働き方改革を進めることによって、従業員満足度の向上を目指している。


(以下インタビュー詳細)


コロナ禍で女性ゴルファーの参加加速 世代交代へ預託金分割や特別贈与
上山吉秀 葉山国際カンツリー倶楽部支配人インタビュー

葉山国際カンツリー倶楽部

葉山国際カンツリー倶楽部は、神奈川県南東の三浦半島中央部にある山岳コースのゴルフ場。標高200メートルを超える山岳コースは山側が多く、海を眺められるゴルフ場は珍しい。相模湾から東京湾を見渡せ、富士山も眺められるホールも風光明媚な景色が特徴だ。

会員数は3,500で、神奈川県三浦市、横須賀市、逗子市、鎌倉市、葉山町の4市1町のエリアのメンバーで7割を占めている。東京都や横浜市のメンバーは2割程度だ。

ホームタウンへの回帰進む


2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大によって、ゴルファーのプレースタイルにも変化が見られた。

感染拡大前は、ゴルファーは1コースに縛られることなく、周囲にある複数のコースを楽しむプレースタイルが多く、葉山国際カンツリー倶楽部では、メンバー5割、ビジター5割という傾向だった。週末は稼働率が高かったが、平日は職場をリタイアしたメンバーが利用し、空きがある状態だった。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、政府が県境を越える移動を制限するようになって状況が変わった。周辺のゴルフ場にビジターとして出かけていたメンバーが「自分のところでやるか」と思うようになり、ホームタウンである葉山国際カンツリー倶楽部に戻ってくるようになった。メンバー率は多い時で7割に達し、いまでも6割程度はある。

2020年の感染拡大初期、倶楽部内で新型コロナウイルスの感染を拡大させない対策は、最初は手探りの状態だった。夏場の感染拡大を防ぎながら、ゴルフを楽しんでもらうことに知恵を絞り、倶楽部発足以来初めてとなる「スループレー」の推奨に踏み切った期間もあった。

スループレーとは、休憩を挟むことなく18ホールをプレーするゴルフスタイル。これまでは、9ホールのプレー終了後に休憩時間があり、その後、残り9ホールをプレーするというスタイルだった。

グループだけで回れるようにして、人と人の接触を少なくすることと、レストランを閉鎖することで、感染を広げる原因と疑われていた会食を避けた。ただ、夏の暑い時期に食事も休憩も取らずに回るのは大変なので、テイクアウトのランチボックスの提供を始めた。

体温測定や手指の消毒、飛沫防止のボードの設置、ソーシャルディスタンスの徹底や会話を慎むことなどのマナーを呼び掛けた。ロッカールームが密になりやすいため、ゴルフウエアのままでの入場受付や、風呂や脱衣場の人数制限も行ったが、最初の頃は風呂に入らずに帰宅するゴルファーも多かった。2021年に入ると、政府の要請や協会のガイドラインなどに従い対策を強化し、今の感染防止対策が確立された。

感染防止対策については、どのゴルフ場関係者も頭を悩ませていたので、湘南地区のゴルフ協会の支配人会などで情報交換を行い、効果的な対策については共有した。

感染防止対策の知恵を共有


多くのゴルフ場が抱えていた悩みは、キャディーの感染防止対策だ。フロント業務は透明な飛沫防止カーテンでお客様との間を隔てることができるが、キャディーはお客様との接触機会が多く、感染を余儀なくされるリスクは高い。情報交換のなかで、カート内にも飛沫防止カーテンを付ける方法を聞き、取り入れた。

葉山国際カンツリー倶楽部はコロナ禍前から、海外からのビジター客は多くなかった。外国人は横須賀の米軍基地からの受け入れが中心で、パンデミックの初期は来場が止まった。最近は予約が入るが、マスクやソーシャルディスタンスなど日本の感染防止対策を守っている。

団塊世代が年齢を重ねていく中で、30代、40代の経営者などを中心に新しいメンバー層が増えており、コロナ禍を境に加速している。若い世代がメンバーになるのを後押しする取り組みとしては、分割預託金制度がある。倶楽部入会申請時の年齢が満60歳以下で個人会員として入会する人を対象に、追加預託金の分割納入が可能となる。

例えば、曜日を問わずメンバー料金でプレーが可能となる正会員として入会するには、6万500円の年会費と300万円の追加預託金、さらに、200万円の会員権購入費や名義変更にかかる費用が95万円(10月1日から変更)となる(預託金以外は税込)。一度に支払うのが厳しいと考える人のために、300万円の追加預託金を3年間で分割払いする。

これらの意見は、貴重な現場の声として厚生労働省に伝えた。その結果、雇用調整助成金の要件緩和が行われるなど、問題を改善する方向につなげることができたと思っている。

これなら、月額数万円の負担で済むので、「入ってみようか」という若い世代が増えると思われる。さらに、彼らは女性を連れてくることが多く、また、夫婦で入会するケースもあり、相対的に女性のゴルファーが増えているようだ。

もともと、葉山国際カンツリー倶楽部は、女性の入会率が高い。日本ゴルフ協会(JGA)が、女性にゴルフを楽しんでもらう環境を整えるように推奨するずっと以前から、2割の女性会員比率を達成している。

さらに、コロナ禍になってからは、男性会員が自宅でテレワークをするケースが増えると、夫婦や子供を連れてゴルフの練習に出かけることが多くなったと聞く。腕前が上達するのを確認した後で、一緒にコースに出るようになるケースも増えてくるだろう。。

育成出身の3人がプロ合格


女性の会員権の数は限られているので、「クラブ・アゼリア(平日会員・祝日会員)」という会員相互の親睦とゴルフ技術の向上を図ることを目的とした同好会に入会し、会員権の空きが出るのを待つ女性が増えている。年間を通じてお得な料金でプレーすることができるほか、「クラブ・アゼリア親睦ゴルフコンペ(年4回開催)」へ参加できる魅力もある。

葉山国際カンツリー倶楽部は約20年前から、「ジュニア育成委員会」を立ち上げて、子供たちにゴルフのマナーやルールを教えている。メジャー大会を制した松山英樹選手や渋野日向子選手にあこがれて、上達したい子供たちが集まっているが、中でも女性の関心は高まっている。ジュニア育成委員会で学んだ原英莉花選手、鶴岡果恋選手、佐藤心結選手の3人がプロテストに合格した。

メンバーの世代交代をさらに促進するための制度として、「特別贈与制度」がある。満50歳以上で、かつ入会後2年を経過した個人会員が、生前に三親等以内の親族の方を受贈者と定め、会員権の名義変更ができる。

現会員の贈与者は、会員権の贈与後は、受贈者の会員権に連なる「シニアサポーター」として登録することができる。シニアサポーター登録期間中のプレー料金はメンバー料金適用となり、ハンデキャップ取得および競技会への参加も可能となる。

この制度をうまく利用して、夫から妻へ「特別贈与」する夫婦もいる。夫が入会後に2年間在籍した上で、妻に譲ると、一代限りではあるが、女性の会員として在籍できる。

世界のゴルフ場の歴史の中で、長く女性を取り巻く環境整備は遅れていた。葉山国際カンツリー倶楽部では女性用ロッカールームを拡張する改修工事を行ったが、環境改善の余地はまだある。ゴルフ振興を進めていくためには、日本のゴルフ場も、新たにゴルフを楽しむ女性に対する環境整備を加速していくことが必要になるだろう。



*2022年9月27日取材。所属・役職は取材当時。

関連するコラム・寄稿