コロナ危機に克つ:石川 幸德 日本郵政グループ労働組合(JP労組)中央執行委員長インタビュー

日本郵政グループ労働組合(JP労組)の石川幸德 中央執行委員長は、生産性新聞のインタビューに応じ、日本郵政グループ関連企業の労使関係や、JP労組の職場がポスト・コロナ時代の変化にどのように対応するかなどについて語った。石川氏は、JP労組の組合員が新時代に向けたアイデアや創意工夫を集約し、会社側に提起した「JP労組が考える事業ビジョン(案)」と組織の活性化を図る「JP未来創造プラン」を強化し、充実させることが重要だとの考えを示した。

「未来創造プラン」を充実、強化へ 運動と事業の再生を両輪で進める

石川 幸德 日本郵政グループ労働組合(JP労組)中央執行委員長

新型コロナウイルス感染症の感染防止をきっかけに普及した「新しい生活様式」をはじめ、少子高齢化による急速な人口減少に伴う生産年齢人口の減少や、ロシアのウクライナ侵攻などによる物価高騰、団塊ジュニア世代が65歳以上になり、より人手不足が深刻化する2040年問題など、社会情勢は大きく変化しており、日本郵政グループを取り巻く経営環境も複雑化している。

石川氏は、ポスト・コロナ時代への対応について、「まさに私たちは歴史の転換点に直面しており、この問題に取り組んでいかなければならない。JP労組としても、新しい時代に前向きに向き合っていく」と述べた。

JP労組の取り組みのエンジンとなるのは、「運動の再生」と「事業の再生」をクルマの両輪とした「JP未来創造プラン」だ。

「運動の再生」では、労働運動の原点である職場の活動を核とするアプローチに焦点を当て直す。最優先事項は、現場で直面する問題や課題の解決と、各職場での適切なマネジメントの実践だ。会社の施策の実施状況を含む職場の具体的な状況を迅速かつ正確に把握し、中央本部・地方本部・支部・現場間で「時差」や「誤差」が生じることのないよう、能動的に常日頃から意見提案を行う。

石川氏は「時差や誤差のある情報をもって会社との交渉に臨めば、JP労組の情報の信頼性の低下はもとより、誤った判断となりかねない」と危機感を示す。このほか、計画では、デジタルツールを活用した支部・職場活動の活性化や組織拡大行動の推進、人材発掘・育成方針などのアイデアが盛り込まれている。

一方、日本郵政グループの事業の特性上、郵便料金の値上げだけで中長期的な事業の持続性を見出していくのは困難な状況だ。石川氏は「組合員の生活を守るためには、会社の事業がうまく回らなければならない。組合員の創意工夫をもって、自分たちが目指す明るい未来の姿を会社に提起している」と話す。

「事業の再生」については、JP労組がこれまで職場の意見やアイデアを集約し会社に提起してきた「JP労組が考える事業ビジョン(案)」を充実させることなどによって、新規事業の開拓など、新たなビジネスにチャレンジしていく事業の持続性の確保に取り組む考えだ。

石川氏は「退職所得課税制度等の税制や労働法制の見直しなどが行われる可能性も視野に入れておく必要性がある。日本郵政グループ自体も、郵便料金の見直し検討などの政治的な課題を抱えているため、政治力の強化を図ると同時に、政治への関わりを強めていかなければならない」と話している。



(以下インタビュー詳細)

リモートやSNSをフル活用 多様な人材との接点増やす

JP労組は、日本郵政グループ関連企業で働く仲間で構成され、単一の労組としては国内最大の組織だ。2020年初めから本格化したコロナ禍の中で、全国の仲間が力を合わせて乗り切ろうと活動を続けたほか、日本郵政グループ関連企業の労使と協議するなど、さまざまな対応を行ってきた。

政府の方針に従い、2020年4月から、いわゆる「アベノマスク」の世帯への配送を担うため、指定された地域の配達可能なすべての箇所に荷物を届ける「タウンプラス」を実施したほか、特別定額給付金の申請書類の配送も行った。

郵便局窓口ではビニールシートの設置や消毒液などの配備をしたほか、従業員のマスク着用も徹底した。また、郵便局の窓口営業時間の短縮も行った。

お客様からの、ゆうちょ銀行への投資信託の資産運用の相談については、オンラインで自宅からできるように仕組みを整えた。ゆうパックや書留郵便物などのサービスについても、要望に応じて置き配もできるようにした。

また、郵便局アプリによって、荷物の配送や集荷依頼ができる仕組みを整えるなど、オンラインでの取引を強化した。

混乱の中、サービスを継続


コロナ禍の初期は社会が混乱した。お客様が新型コロナウイルスに対して敏感になる中で、配達員が配達先で消毒液を吹きかけられ、暴言を吐かれたこともあった。また、窓口においては、ビニールシートやマスクなどの影響により、お客様の声が聞き取りにくくなり、お叱りをいただいた。従業員が感染したことで出勤できず、営業を停止した郵便局があったほか、配達員の集団感染により、郵便配達ができなくなるという事例もあった。

マスクやビニールシートなどの感染防止策を徹底しながら、お客様へのサービスをいかに続けるか、また、感染者が出た時、サービスをいかに維持するのか難しい対応を迫られた。

組合の役割は、従業員の生活と安全のために労使交渉を重ねることだ。その結果、いくつかの対策を実施することができた。職場環境の整備については、新型コロナウイルス感染防止策として、200万枚のマスクを各支社へ配布したほか、一部従業員にフェイスシールドを配布した。

郵便局などの営業時間短縮も実施した。緊急事態宣言が発出された地域以外の店舗においても、全国的に営業時間を短縮したほか、事務センターにおける土曜日出社を廃止した。テレワークが可能な従業員には、テレワークの実施を勧奨した。お客様とのオンライン面談を可能とする環境も整えた。

出勤抑制などの対策が継続していたため、通常の営業活動が困難であることから、その営業目標を変更するなどの措置を取った。

新型コロナウイルスや猛暑への対策を目的とし、合計で20億円の経費を各支社・郵便局へ配布するなど、社員慰労などを目的とした経費の追加措置を行った。

子供が通う学校施設などの臨時休校により、育児のため出勤できない従業員への対応として、特別休暇を付与した。また、従業員の結婚に係る特別休暇について、その取得期限の延長を実施した。ワクチン接種を事由とする欠勤については出勤扱いにした。

期間雇用およびアソシエイトへの生活支援金として、該当従業員が新型コロナウイルスに感染した場合は、その生活を支援することを目的に一律5万円を付与した。感染リスクと向き合いながら、日々医療業務に従事する逓信病院に所属する医療従事者の従業員に対して慰労金として5万~20万円を付与した。

コロナ禍において、お客様から厳しく接せられることがある従業員に対して労使で力を合わせて従業員を保護するよう努めた。

目に見えないウイルスに対する恐怖心に対して社会は予想できない方向へと反応し、現場は振り回された。今振り返ると、この時期が最も苦しかった。

ウィズ・コロナで変化の兆し


コロナ禍を経て、JP労組や職場には、新しい仕事のやり方や組合活動に適応しようという変化が見られている。

コロナ禍におけるJP労組の活動の中で、非対面で実施されるものが増えた。担当者会議などは原則オンラインで実施した。各地方を結び、オンライン旅行を実現、組合専従職員についてもリモートでの勤務を推進した。

スキルアップを可能とする自宅での通信教育講座の提供を始めた。その一方で、対面による活動は、感染防止に気を配っていた。各種フォーラムなどにおける大規模な集まりを自粛し、3密に注意しながら小規模単位での対面開催を実施した。同じ職場の身近な先輩などとのやり取りは、組合員が個々で行った。

参加者同士の一定の距離を保った勉強会、もしくは魚釣りやハイキングなど、アクティビティは密になることをなるべく回避する術が身についている。このほか、支援活動については、各支部間、組合役員間で、コロナ禍でもできる活動について情報交換を継続した。食料品やマスク、古書などを各団体へ寄付をする物的支援を実施した。

オンラインを原則としつつも、組合活動の基本である人と人とのつながりの大切さを改めて実感している。

「新しい生活様式」への適応ということで、会議やレクリエーションなどでの大規模な集まりは徐々に再開し、対面での活動も増えてきた。オンラインでもできるゲームなどの新たなレクリエーションを現在も行っている支部もある。会議など、引き続きオンラインでできるものについては継続している。

働き方については、テレワークが可能な従業員は引き続き実施している。郵便局に消毒液を設置するなどの感染対策のほか、お客様が金融商品などについてオンラインで問い合わせができる制度も継続している。

子育て世代などが仕事と家庭を両立しやすいように、積極的にテレワークを活用するべきだと思っている。テレワークを導入しやすいオフィスワークと、簡単にはテレワークできない窓口業務や配達業務などとの不公平感が問題となるが、その解消にはテレワークが難しい職場に対する支援が欠かせない。勤務時間の短縮やシフトの工夫、不安・不満の解消に努めることが重要だ。

会社の業務だけではなく組合活動でも、リモート会議の積極的な活用は多様な人材の参加に道を開くと思っている。JP労組は全国で約23万人が加入する組織だが、他の労働組合と同様に、組合員の減少や役員の成り手不足という課題に直面している。

組合活動が「滅私奉公型」になっていて、とりわけ専従者には負担が重く、子育て中の人はほとんどいないなど参加できる人材の属性が限られてしまっている。もっと多様な人材が参加しやすい組合にするには、会議の回数を減らしたり、時間を短縮したりするほか、リモート会議やSNSをフル活用することが重要だ。多様な人材との接点が増えれば、やりがいが増えると思う。

また、JP労組では非正規雇用者の組織化にも取り組んできた。「同一労働同一賃金」の実現をはじめ、正社員との待遇の格差を是正していくことが課題だ。正社員の組合員にとっては納得がいかない面もあると思う。しかし、組合活動と会社の事業の持続可能性を確保するために、組合員の理解を求め、妥協点を見出し、格差を縮めていきたい。



*2023年7月24日取材。所属・役職は取材当時。

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