実践「生産性改革」:プラグ AIはマーケターの創造性を刺激する

1時間で1,000案のデザインをつくり、評価する「パッケージデザインAI」(第4回日本サービス大賞の「総務大臣賞」受賞サービス)を提供するプラグ(東京都千代田区)の小川亮代表取締役社長は、「実践『生産性改革』」のインタビューに応じ、「AIはコスト改革だけではなく、クリエーティビティ(創造性)にも寄与する」と指摘した上でAIを企業の生産性向上に活かすための方策などについて語った。

パッケージデザインのプロセス改革

小川亮 プラグ代表取締役社長

プラグが開発した商品デザイン評価・生成サービス「パッケージデザインAI」は、1,020万人の消費者調査の結果を学習データに使い、東京大学と共同研究したAIシステムで、従来のデザイン開発の時間とコストを大幅に短縮する世界初のサービスだ。

開発中のデザイン案をウェブにアップロードするだけで、消費者がデザインをどのように評価するかをAIが予測する。また、AIが評価と生成を繰り返し、1時間で1,000のデザイン案を作り出す。新商品やリニューアル商品の売上アップや、商品開発に携わる商品開発担当者やブランドマネジャー、デザイナーの業務効率化といったメリットを創出する。

小川氏は「これまでのAIの生産性向上への活用は、どちらかというとコストダウンの実現成AIなどの新しい技術の登場で、人間の創造性を刺激するツールとしても活用できることが分かってきた」と話す。

同社は主に商品デザインを評価するAIシステムを提供してきたが、画像生成AIの進化を取り入れた新しいデザイン生成のサービスを開発した。昨年9月には、この画像生成AIのパイロット版を活用し、伊藤園「お~いお茶 カテキン緑茶」のデザインを手掛け、好評だったという。2024年春以降に、同社の新サービスとしてリリースする。

新サービスは、テキストを入力するだけで、日本らしいパッケージデザインを自動生成する。打ち合わせの中でAIが描き出したデザインを見ながら、デザイナーがクライアントの意見を聞いて、その場でデザインを磨き上げる。これまでにない新しいスタイルのパッケージデザイン開発のプロセスだ。

AIを活用して生成したデザインは、時に突拍子のないものを描き出す。例えば、カップ麺に3本のフォークが絡まっているデザインなど、人が全く思いつかないようなデザインが生成されることで、そこから新しいアイデアの創出につながる。小川氏は「AIは参加者の創造性を刺激してくれる存在だ」と話す。

リサーチとデザインの両分野で築き上げてきた高い専門性を持つ人材もプラグの強みだ。中でも、デザインの評価やデザイン思考型の商品開発のノウハウにおいては日本のトップレベルにある。

小川氏は「プロフェッショナルで構成している今のチームが、最先端のAI技術を使いこなすことで、クライアントと面白いものを創り上げ、価値の最大化を図っていきたい」と話した。


(以下インタビュー詳細)

AI活用はトップダウンで推進 経営者があるべき姿を示す必要性
小川亮 プラグ代表取締役社長インタビュー

昨年末に日本マーケティング学会の西川英彦会長(法政大学経営学部教授)に声をかけていただき、同学会が発行するマーケティングに関する研究者と実務者向けの季刊誌「マーケティングジャーナル」に「AIの創造性寄与」をテーマにした論文を寄稿した。

論文の要旨は、生成AIが人の創造性にどのように貢献するかについて研究を行ったもので、マーケティング、心理学、認知科学における創造性研究レビューを行い、創造プロセスを考察した上で、生成AIの仕組みとの類似性から仮説を構築した。

特に、生成AIが経験年数の短いデザイナーの創造性を向上させることが発見できたことは面白い。

商品開発のプロセスを変革


もちろん、AIがコストダウンを図るためのツールとしても大変高い効果を発揮することは、プラグの「パッケージデザインAI」を導入している企業が示している。このツールによって、商品開発のプロセスは劇的に変わった。

「パッケージデザインAI」は、1,000万人以上の学習データと東京大学・山崎研究室との共同研究で作られた商品デザインに対する消費者の評価を予測するAIで、客観的な指標で結果が出せる。結果表示までわずか10秒しかかからない。今までの時間とコストを大幅に削減し、デザインの好意度スコア、さらには性別・年代別の評価も見ることが可能だ。

また画像をアップロードするだけで注視される箇所をヒートマップにした出力結果を得られる。

画像のアップロードと必要な項目を選択することによって、すぐに予測スコアとグラフが表示される。画像を消費者に見せないのでデザイン案が外部に漏洩するリスクが減る。さらに、情報漏洩防止のため、1カ月たつと画像は消去される。

月額プランなら何度でもデザイン案の評価を利用できる。今までの消費者調査では時間や費用の制約から回数に限界があった仮説検証を何度も繰り返すことができるので、完成度の高いデザインの作成が可能だ。

さらに、今春にリリース予定の画像生成AIを使ったデザインサービスによって、テキストを入れるだけで商品パッケージを迅速につくることが可能になる。

これまでのパッケージデザイン作成は、クライアントの依頼があって、デザイナーが制作する。2~3週間の期間をもらい、10~20案のデザインを提案する。その打ち返しをもらって、意見や要望を取り入れてデザインを再考していた。

新サービスの画像生成AIを活用したパッケージデザイン開発では、クライアントの依頼が来たら、まず、AIで大量のデザイン案をつくる。3日後には数十のデザイン案を提案できる。イラストの描き起こしなど、人間が行うと時間がかかる作業も、AIならすぐにできてしまうので、大量のデザインの創出が可能になる。

提案したその場で、クライアントの意見を反映したデザイン案をAIで示すこともできる。短時間で大量のアイデアが出てくるので、デザイン開発の初期から具体的なデザインを見ながらデザイナーとクライアントがすり合わせをすることが可能になることで、合意形成がスムーズになる。その結果、デザインの開発期間を大幅に削減できる。

トップが率先してAIを学ぶ意味


日本企業が生産性向上を実現するためには、トップダウンでAIを取り入れていくしかない。AIを活用すれば、間違いなく生産性は向上する。しかし、そのことによってホワイトカラーは仕事がなくなることを懸念するので、DXの実現はボトムアップでは難しいだろう。

例えば、自社の経理部にAIを活用した業務改革を指示した場合、エクセルで行っていた仕事をAIに変えることによって、100倍のスピードで処理ができるようになったとする。それは人の仕事をAIに置き換えただけで、DXの意味するトランスフォーメーションは実現していない。トランスフォーメーションとは仕事の進め方を、組織を超えて劇的に変革することであり、ボトムアップで実現することは難しい。

今、このようなインパクトがある技術が目の前にある時に、経営者は、いち早くそれを取り入れることが重要になる。他社に先駆けてそれをやれば、同じ価格で売っても、利益は格段に上がる。どうしたら新しい価値を生み出すことができるのか、AIに代替した分、社員に何をしてもらうかといったことも含めて、あるべき姿を描かなければならない。

リーダーが「AIを使って変革しろ」「イノベーションを起こせ」と号令をかけるだけでは、組織は動かない。しっかりとした絵を描き、どうすればそこに到達できるのかという道筋を示すべきだ。

そのためには、DX部門にAIを取り入れるよう指示して任せるだけではなく、経営者自らも、技術的なことを含めてAIのことを学ぶ必要がある。目指すゴールや組織の変革などを具体的に指示できる力がないと、変革のスピードは上がらない。

例えばAIの技術的な側面と、経営の両方が分かる講師を招き、都心の喧騒から離れた場所に缶詰になって数日間の合宿を行ってはどうか。数時間の講座では「分からない」と諦めてしまう。

少子高齢化がさらに進み、生産年齢人口が減っていく中で、AIを使った仕事の効率化は欠かせないが、AIの発展はそんな生易しいスピードではなく、一気にやってきている。ドラスチックに変革の図を示し、全社員のマインドを変えてやっていかないと取り残される。 規模の小さい新興企業であれば、AIが起こす変化を先取りしてスピード感を持って吸収すれば、売上高を3倍や5倍に伸ばすことも可能かもしれない。

トップの舵取りが極めて重要になっている局面であり、AIを前提にした変革の青写真をつくる作業を急ぐ必要がある。インターネットの登場から20年が経ち、証券業界では新興のネット証券が既存の大手証券会社の牙城を侵食している。AIでも様々な業界に新しい企業が誕生し、イノベーションを起こしてマーケットを席巻するだろう。

*2024年1月25日取材。所属・役職は取材当時。

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