実践「生産性改革」:Exa Enterprise AI 生成AI活用は全社導入が効果的

生成AIサービスの企画・開発・販売を手掛けるExa Enterprise AI代表取締役の大植択真氏は「実践『生産性改革』」の書面インタビューに応じ、生成AIを活用した企業における生産性向上の成功事例などを紹介した。この中で、大植氏は生産性改革のカギとして、生成AIを一部の部門に限定して導入するよりも、全社に導入するほうが、活用が促進されるとの考えを示した。また、業務の生産性を可視化してベストプラクティスを共有することの重要性を指摘した。

生産性を可視化 最適な方法共有

大植択真 Exa Enterprise AI代表取締役社長

Exa Enterprise AIは2023年10月にAIを利活用したサービス開発会社のエクサウィザーズの100%子会社として生成AIのプロダクトやサービスを企画・開発・販売するために設立された。大植氏は同社の代表取締役であり、エクサウィザーズの常務取締役も務めている。

同社の製品は企業や自治体など法人向けのチャットGPTサービス「exaBase 生成AI powered by GPT-4」と、IR業務のQ&Aの作成を生成AIで支援する「exaBase IRアシスタントpowered by ChatGPT API」を軸に展開している。

生成AIの導入によって生産性の向上につなげている企業の特徴について大植氏は「生成AIサービスの社内への導入形態が成否を分けている。全社で一斉に生成AIを入れたほうが、全体としての活用が進展する傾向がある」と指摘した。

同社が2023年12月に実施したセミナーでは、生成AIの活用施策をしていない企業を対象にしたアンケート調査で利用度を集計した。その結果によると、希望者のみ導入したり、対象部署を決めて導入したりした場合は6~7割が「ほぼ使われていない」と回答したが、全社的に導入した場合は「ほぼ使われていない」との回答が37%となり、利用率が大きく改善している。

大植氏はその理由について、「全社で導入することで、周囲の活用に長けた人に相談しやすく、社内での活用機運が高まるといったことが挙げられる。全社に導入し、さらに活用施策を導入することで、活用度を向上させることができる」と話す。具体的には、大規模に導入することで参考にできるベストプラクティスの数が増え、それらを特定して横展開していくことが可能になる。

同社は利用状況を把握するために、企業や自治体などの法人向けのチャットGPTサービスに、業務生産性の可視化機能を提供している。これは、ユーザーが入力しているプロンプトの内容から利用シーンとそれによる業務の削減時間を推定して自動で集計する機能で、ユーザーごとの削減時間を集計してランキングとして表示することができる。具体的な利用シーンは、アイデア出し、コードレビュー、コード解釈、コード生成、文章レビュー、要約、翻訳、原稿などに分かれている。

この機能により、社内で生成AIを使いこなしている、いわゆる「チャンピオンユーザー」を定量的に把握することができる。

大植氏は「生産性について、多くの企業では各ユーザーにどの程度業務が効率化したかをアンケートしていると聞く。ユーザーから聞き取った業務削減時間の集計と、当社の可視化機能の自動で集計した値は近いとの評価をいただいている」と話した。


(以下インタビュー詳細)

ベテランの知識、社内蓄積容易に 経営者自ら積極的に導入を
大植択真 Exa Enterprise AI代表取締役社長インタビュー

Exa Enterprise AIの主力製品の一つである企業や自治体など法人向けのチャットGPTサービス「exaBase 生成AI powered by GPT-4」は、2023年6月の提供開始以来、多くの顧客に導入していただいており、現在4万以上のユーザーが利用している。そうした顧客の声や利用状況から、生産性向上に役立つ機能を追加し続けている。

主なものは、業務ごとに便利なプロンプト例を集めたテンプレート集や、自社のドキュメントの内容をもとに対話できるデータ連携機能などがある。プロンプトとテンプレートはその名の通りひな型で、初期画面からユーザーが何をしたいのかを選択していく仕組みだ。

顧客企業を対象に生成AIを活用しているユーザーがどのような用途で使っているのかを複数回答で尋ねた2023年12月のアンケート調査によると、文書生成が50.1%で最も多く、要約47.9%、アイデア出し47.8%、調査41.4%、壁打ち相手39.9%、翻訳29.1%、プログラミング28.5%、分類14%の結果となった。

exaBase 生成AIを早い段階で導入した製薬会社が示した具体的な事例では、新商品のブレストや訴求メッセージ、アンケートの素案検討、中国語の翻訳、英語のメール作成、ExcelVBAの自動作成などが用途の上位に並んでいる。

競合調査や提案資料にも活用


データ連携機能は、exaBase 生成AIの標準機能として管理者が申し込めば無料で利用できるようにしている。社内にある自社データをアップロードするだけで、その情報を考慮した情報の生成が可能となる。

LLM(大規模言語モデル)自体を更新するのでなく、LLMがそれぞれの顧客の自社データの情報を参考書のように活用するイメージだ。必要に応じて複数のファイルをアップロードして、すぐに利用できるようになる。この仕組みはRAG(検索拡張生成)と呼ばれることもある。データ連携機能は多くの顧客が利用し始めている。現時点ではどのような業務で活用すべきか、どのようなデータが適切か、トライ・アンド・エラーをしている段階だろう。

ある商社ではデータ連携機能にいち早く取り組んで、成果を出している。その企業ではカタログ上の取扱商品が約5,000点あり、販売経路が多様であるため、営業社員の育成に10年近くかかっていた。カタログのデータを連携できるように読み込むことで、新人でも生成AIと対話しながらベテランと同様の知識を持って営業できるようになったと聞く。他社からの切り替え受注や、商談の進展に成功しているようだ。

また、多くの顧客が注目しているのが、社内規程の読み込みだ。例えば、各種の人事規程を読み込ませることで、人事担当者の問い合わせ対応の業務を削減することが可能となる。

生成AIの生産性については、各企業や団体は利用しながら指標を検討している段階だが、先進企業において、まずは業務時間がどの程度削減できたのかという点を指標にしているケースが多い。

例えば、2023年夏にexaBase 生成AIを導入した鉄道事業者では、導入後1カ月で300人が利用し、合計200時間の削減があったと聞く。2023年7月から24年1月までの累計で1,000時間の業務時間削減の効果が示された。

また、企業だけでなく自治体も生成AIの導入を始めている。生成AIサービスは文書に関連した仕事が多い自治体こそ導入してもらいたいと考えており、実際に提案すると興味を示してもらえている。

ただ、自治体で活用する際には、大きく三つの課題があるように思う。一つがセキュリティやコンプライアンスの確認や徹底。もう一つが予算の確保。そして最後は活用に向けた支援だ。民間企業でも課題となっていることもあるが、自治体では特に予算のハードルが高い。

都道府県レベルの自治体になると対象の職員が多い。このため、自治体を対象に、同時にアクセスするユーザー数をベースに課金する新しいライセンス体系を導入することにした。また、GPT-3.5での利用を無料とした。これによって、使用頻度から年間の予算を決めてもらえるようになった。

また、「自治体向けの専用ネットワークのLGWANで利用できないか」という声も少なくない。そこで2024年度にはLGWANからexaBase 生成AIを利用できるようにする。これはセキュリティやコンプライアンスを確保するうえでも重要だ。

現場の暗黙知を形式知に変換


もちろん規制やリスクを理解したうえで生成AIを利用すべきだが、これは生成AIに限った話ではない。金融系など多くの企業では、企業内の各ユーザーが生成AIサービスを使う際、所定の生成AIについての研修を受けないと利用できないようにしている。こうした取り組みが参考になるし、当社でも研修や利用ガイドの作成を支援している。

また、システム面からexaBase 生成AIでは、機微情報を検知して自動で入力を阻止したり、管理者がNGワードを設定したりできるようにしている。マイクロソフトが提供しているOpenAIのAPIを利用することで、プロンプトや回答を学習に使わないようにしているほか、データの処理も日本国内で完結するようにしている。

日本企業や日本のサービス業の生産性向上のためには、企業経営者は、まずは生成AIのような新しいツールを積極的に導入することだ。そして、経営者自らが使うようになれば、他の経営陣や社員も活用するようになる。

さらに重要なのは、経営として若手の知見の活用を徹底することだ。生成AIのような新しいテクノロジーは若手の方が上手に使いこなしている。私も若手エンジニアにいろいろと教えてもらったり、触発されたりすることが多い。

このほか、生成AIの適用範囲を広げていくことも考えていただきたい。例えば「現場力」の継承では、生成AIを活用することで、これまで社内のベテランに蓄積されてきた暗黙知を形式知に変えて、それを社内外に提供していくことが従来よりも容易になる。ベテランの大量退職といった課題の解決につながるのではないだろうか。

こうした取り組みを進めていくことで、生成AIが業務生産性の向上だけでなく、新事業の創出や、収益の引き上げ、企業や社会の変革に結びつくのではと思っている。エクサウィザーズグループでは年間350件以上のAI・DX案件を手掛けている。企業や自治体が生成AIを活用するうえで、これまでに培ったプロジェクトの知見も提供することができる。

さらに、もう一つの主力サービス「exaBase IRアシスタント powered by ChatGPT API」は、株主総会・決算説明会の想定問答集をAIと協働作成することができる。これもIR担当者がより付加価値の高い業務に集中できる環境を実現することを通じて、顧客企業の生産性向上を支援している。

*2024年3月21日取材。所属・役職は取材当時。

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