実践「生産性改革」:西精工 他社と協働、「複合多工程品」開発
2023年度「日本経営品質賞」を受賞した西精工の西泰宏代表取締役社長は、「実践『生産性改革』」のインタビューに応じ、ねじ部品などの金属製品を手掛ける地方企業の生産性改革について語った。顧客の要求が高度化する中で、自社だけでは実現が難しい製品ニーズに対応するため、ビジネスパートナーとの協働によって、互いの強みを掛け合わせた「複合多工程品」の取り組みを強化する方針を明らかにした。
部品の高付加価値化を実現 2度目の「日本経営品質賞」を受賞
2009年に経営ビジョンを策定し、「ファインパーツ創造によるお役立ち」へと顧客価値を転換した。2013年度以来2度目となる今回の受賞では、多くの社員への浸透を意図して、管理間接部門を含む各工程・部署全19チーム(係)が経営ビジョン実現に向けたチームビジョンの策定に取り組んだ。
同社が定義するファインパーツ(FP)とは、「高品質・高精度・極小」で「買い手も売り手も、双方にとって粗利の高い製品」のことを指す。同社はありたい姿として「10年後のFP割合70%以上(売上構成比率)」というシンプルで効果的なゴール「FP70」を設定し、現在、数字を50%まで上昇させている。
西社長は「自動車業界は100年に一度の大転換期と言われており、顧客からは軽量化、高機能、高品質、短納期の要請が一段と高まっている。ビジネスパートナーとの協働関係も新たな局面を迎えている」と話し、複合多工程品を強化する方針を示した。
ビジネスパートナーとの協働について、西社長は「複数社の品質保証を提供しなければならず、ステークホルダーをまとめる難しい作業であり、他社が簡単に踏み込める分野ではない。本来なら、お客様が取り組む仕事を、西精工がやってくれているとの評価をいただいている」と話す。
一方、地方の製造業が直面している喫緊の課題は、他の産業と同様に人材不足だ。とりわけ、西精工のある徳島県内の人口減少は深刻で、高校生や大学生は卒業すると県外に出るケースが多い。西社長は「外国人労働者に頼っている会社は多いが、大卒、高卒、中途人材の採用を強化している」という。足りない人材を外国人採用で埋めるやり方より、現在の路線で採用を続けながら、DXを通じて自動化を進めることで、モノづくりの改革を進める狙いだ。
冷間鍛造のモノづくりは、職人の「勘コツ」が物を言う世界だが、西社長は「頭の中にある『勘コツ』をできるだけ書き出してもらい、文章化する取り組みを続けた」と話す。その結果、特定の工程の「勘コツ」を磨くための練習メニューをつくり、「道場」で教育できるまでになったという。
西社長は「製造現場での『勘コツ』の継承を10年かけて強化したが、その副作用としてオペレーションの効率が悪化した。来期からの3年間はDXを使ってオペレーションの改善に取り組み、在庫を適正化し、生産性を高めたい」と次なる課題解決に意欲を示した。
(以下インタビュー詳細)
再受賞への挑戦、若手中心に審査対応 19チームごと対話を重ね
西泰宏 西精工代表取締役社長インタビュー
西精工は1923年の創業から100周年の節目の年に、2回目の「日本経営品質賞」を受賞した。2009年に経営ビジョンを策定し、それまでの大量生産から「ファインパーツ創造によるお役立ち」へと顧客価値を転換し、高付加価値経営へのシフトを目指してきた。
再度挑戦しようと考えた理由は、10年前にこの賞を受賞して、その後の10年間でどのような成長ができたのかを明らかにしたかったからだ。10年前は、私と経営幹部で審査に対応したが、今度は若手経営幹部で対応した。申請書を記述するメンバーを1人だけ残し、全て新しい人にすることで次の代へ継承する意味もあった。
日本経営品質賞を次の世代へ
また、必要な情報をインプットして、マニュアルに書かれた設計図に従って取り組めば、質の高い経営は成り立つのだと確認したかった。そうすることによって、私がいてもいなくても、社員たち自身でそれを回していけるという期待もある。
「日本経営品質賞」の展開の仕方として、半年に1回、私が19のチームと2時間程度の面接を行う。面接の資料として、8枚のシートを記入することで、質の高い経営についての考え方が腹落ちし、具体的に動き出すような仕掛けになっている。
申請メンバーはその内容を深く理解して、その他の社員はそれが「日本経営品質賞」であると意識しなくても、自然にできるようにしようという狙いだ。考え方や行動が浸透してきた時、私自身が、全体朝礼や会議で、「日本経営品質賞」のことを語るようにしている。
2度目となる今回の挑戦では、「これ以上は無理だ」というギリギリのところまで細部にこだわった。10年前の申請書に書いていないところに焦点を当てたほか、19チームに19通りのビジョンを示すように指示した。各チームが歴史から紐解いて、19通りの設計図を書き、ビジョンを示した。ここまでやっている会社はないと思うので、受賞できる自信があった。
具体的な活動としては、19チームは、「ハグルマ印」の百年企業ブランドとして、会社の歴史を振り返り、自分たちの強みを洗い出してチームビジョンを定め、実現に向けた成功のシナリオを作成した。チーム・メンバー全員の納得を重視するため、完成までに1年以上をかけて、チームによっては200回を超える対話を重ねてきた。
チームビジョンをもとに、各チームが毎期の経営方針を踏まえてチーム目標を設定し、それを個人目標へと落とし込むことで、全社ビジョンからチームビジョン、個人目標へと整合性と一貫性を持って結びつけることができる。
この活動を通して、社員の働きがいが高まっていくのを感じた。当社はねじの製造業であり、「当社が持っていて、同業他社が持っていないものは何か」や、「ユーザーである自動車メーカーが持っていて、当社にないものは何か」などの疑問を突き詰めた。
「失敗してもええぞ」の精神
西精工の「創業の精神」は、「人間の尊重」「お役立ちの精神」「相互信頼関係の精神」「堅実経営の精神」「家族愛の精神」の5つを柱としており、これらを強み・価値観として、企業風土を築いてきた。
2つ目の「お役立ちの精神」では、お客様の価値を創造するため、独自の技術力を研鑽し続けていくことを誓っている。これは、現在のファインパーツ創造においても、その強みを発揮している。
地理的ハンデ克服のため、先人たちが「設備開発と保全」「金型製作」「材料加工」の社内体制を構築した。また、「失敗してもええぞ」という創業者、西卯次八のチャレンジ精神を100年間、脈々と受け継ぎ、お客様への価値提供において発揮している。
経営理念に掲げる「人づくり」重視の姿勢を実践するため、子育てをはじめとする家庭と仕事の両立を実現するための各種支援制度の整備や働きがいのある職場環境づくりにも取り組んでいる。2017年には、中国・四国地方の製造業で初めて、厚生労働省が優良子育てサポート企業を認定する「プラチナくるみん」も取得している。
「創業の精神」「経営理念」を共通の判断軸として社内に浸透させるとともに、社員の相互理解を深める上でも「対話」を重視している。毎日の朝礼をはじめとする様々な場における本音の対話や、全社員が人生の目標を記した「ミッションステートメント」の共有などを通じて、社員の相互理解が進み、仕事におけるフォローや連携がしやすい関係性を目指している。
こうしたことは、ファインパーツ創造に全社一丸で取り組む上で不可欠なチーム力の向上の基盤となる。そして、チーム活動を通じて、チーム・メンバーの研鑽・成長が促され、それがさらなるチーム力向上につながる好循環によって、組織力が高まる。
FP比率20%から50%へ
ファインパーツなど製品の高付加価値化への取り組みは、大きな波及効果が期待できるグローバルな自動車業界をターゲット市場としている。顧客にとっても、社員にとっても、安全・安心な工場にするためのFFPJ(ファインパーツ・ファクトリー・プロジェクト)や世界基準の品質管理システムであるIATF16949認証取得を目指した活動もしており、これらを組織横断的課題として経営方針に盛り込んでいる。
さらに、ファインパーツ創造の新しい形として当社がコーディネート役となり、ビジネスパートナーと連携し、技術力を掛け合わせた価値ある製品を創出することで、顧客の課題解決の面でも貢献している。
ビジネスパートナーとの協働による代表的な成果としては、電気自動車(EV)向けの複合多工程品の開発がある。複雑な形状のため、全て切削加工によって成型する場合、試作段階で1個当たり2,000円以上のコストがかかっていた。
そこで、自社とビジネスパートナーの強みを照らし合わせて、パーツを後から一体化する工法を考案した。試行錯誤を重ねながらも、ビジネスパートナー10社の技術力を掛け合わせ、当社を含む11社が「材料加工」から「本体鍛造(成型)」「ねじ加工」「ヘッド鍛造」「ヘッドトリミング(2社)」「ヘッドバレル研磨」「ヘッド検査」「ヘッド銅鍍金」「本体とヘッドブレージング」「錫鍍金」「最終検査」の11工程を分担している。
11工程のうち、当社は「材料加工」と「本体鍛造」のみを担当する。ビジネスパートナーとの協働によって、各社の独自技術を結集したことで開発に成功した。
最終的に試作段階から大幅なコストダウンでの製品化を実現できた。長年の付き合いを通じて、ビジネスパートナー各社が持っているそれぞれの独自技術を熟知し、その知見を生かし、コーディネート役を果たすことができている。
ビジネスパートナーとの協働による複合多工程品の開発実績は順調に伸びており、他社では開発が困難な製品でも、顧客の要望に応えるコスト・納期で開発できる体制を整えている。
こうした取り組みを進めることで、FP比率は前回受賞時の20%台から、10年の歳月を経て約50%へ上昇した。今後も「FP70」の実現に向けて取り組んでいきたい。
(注)西精工株式会社は2013年度にも「日本経営品質賞」を受賞している。2013年度表彰の詳細はこちら。
*2024年6月6日取材。所属・役職は取材当時。