実践「生産性改革」:新日本ビルサービス 汚れを防止する「清掃革新」へ

2023年度「日本経営品質賞」を受賞した新日本ビルサービスの関根一成代表取締役社長は、「実践『生産性改革』」のインタビューに応じ、清掃や設備管理などのビルメンテナンス業に関する生産性改革の取り組みについて語った。人手不足が深刻化する中で、AIロボットなどによる「清掃革新」を進めると同時に、人材教育を強化して、自ら考えて働くプロの集団を目指すことが重要であるとの考えを示した。

AIロボットも活用

関根一成 新日本ビルサービス代表取締役社長

清掃業務の生産性向上の取り組みを「清掃革新」と名付け、積極的に取り組んでいる。その代表的なものが、従来のワックス管理による「汚れの清掃」からコーティング施工による「汚れの防止」への転換だ。

メーカーとの共同研究を通じて、汚れが付きにくく、耐久性向上や長期間の美化維持を実現するコーティング技術を開発した。コーティング施工を導入した施設では、日常清掃の時間短縮や定期清掃の回数削減によってトータルコストを抑えることが可能になる。また、新日本ビルサービス側の作業負荷軽減や単価アップにもつながっている。

最近、2020年から導入を開始したAI清掃ロボットの需要が活発になっている。現在、同社が担当する23現場に107台のロボットを稼働させている。関根氏は「専属の社員を配置し、運転監視や設定などを担うことで、現場社員と連携協力体制を構築して、清掃現場の事情に合わせた最適な清掃サービスを提供できる」と話した。

ロボットは24時間いつでも最適な時間帯で、遠隔監視による床面清掃を行うことができる。一方、人は人にしかできない清掃領域を担うことにより、人とロボットの役割分担の効率化が進み、人手不足の課題解決につながっているという。

複数ロボット稼働時の制御技術などの独自ノウハウをもとに最適な運用を可能にしたことで、顧客のコスト削減にも寄与している。関根氏は、今後はロボットの管理運用ノウハウを生かし、ロボット派遣事業に力を入れる方針を示した。

また、現場パート従業員を「さわやか社員」と名付けた関根氏は「現場の最前線で働くパート従業員を含めた社員教育が会社の生命線であると考えている」と話す。

社長自身が「生涯青春!」をキャッチフレーズに熱い思いを語る「さわやか社員研修会」や、自ら考えることができる「考働する集団」を目指し、顧客の投票によって優秀な現場を表彰する「さわやかフォーラム」を実施している。様々な現場で活躍する「さわやか社員」を高く評価している主要顧客の紹介をきっかけに、プロパティマネジメントなどのビジネスへと業容を拡大させた実績もある。

現場起点での創意工夫が実に多いことも強みになっている。それは、直接契約・直営施工を通じて、顧客の課題を自分事と捉えて解決に取り組む姿勢が発想力を高めた結果だ。

関根氏は「社員が自ら考え、働くことを求めた育成の結果、社員から『挑戦したい』と多くのアイデアが届き、それがもとで様々な新サービスや人事制度改革などが生まれている」と話した。


(以下インタビュー詳細)

「考動する集団」づくりで成果 社員提案が新ビジネス生む
関根一成 新日本ビルサービス代表取締役社長インタビュー

新日本ビルサービスは、清掃や設備管理などのビルメンテナンス業を中心に建物の価値を高めるプロパティマネジメントなどを提供しており、お客様にとって無くてはならない「イコールパートナー」となるためにこだわっていることがある。

それは、建物や施設の権限者とダイレクトに契約すること、会社の理念や想いを共有した「人」が直接サービスを提供すること、清掃品質を高めるための技術革新、お客様の要望に真摯に応えようとする考働できる「人」の育成だ。

新日本ビルサービスが、多くのお客様の支持を受けて成長することができたのは、正社員だけではなく、最前線の「さわやか社員」も含めた育成に力を入れ、常にお客様の視点であるべき姿を追求してきたからだと確信している。

5S活動の優秀チームを表彰


新日本ビルサービスは、現場で働く「さわやか社員」による誠実な対応が強みであり、「さわやか社員」がやりがいを持って対応するための環境整備や対策に力を入れている。

例えば、職場環境を整えるための5つの要素「整理」「清掃」「整頓」「スマイル」「さわやか」を定着させる5S活動だ。毎年、新日本ビルサービスが手掛ける現場の中から、年間の5S活動の取り組みを発表し、優秀な現場を表彰している。エントリーした現場には、社員が現地で審査し、当日は会場でお客様にも審査に参加してもらっている。

5Sの一つの「整理」では、まだ使えるモノでも、全く使っていないモノはその現場には不要であるが、その判断を下すのはなかなか難しい。自ら考えてその判断を繰り返すと、自然に正しい判断ができるようになる。延長線上で、価値を生まない仕事を整理していくと、実にたくさんあることに気付く。現場での5S活動は、「考働する集団」の育成にもつながっていることを実感している。

ビルメンテナンスは典型的な労働集約型の仕事なので、人によって品質のバラつきが出やすい。「日本経営品質賞」の審査過程でもらったアドバイスをもとに、標準作業手順書や動画マニュアルの作成、情報システムの構築などの仕組みづくりに取り組んでいる。

また、現場起点での創意工夫が多いことも強みの一つだ。それは直接契約・直営施工を通じて、顧客の課題を自分事と捉えて解決に取り組む姿勢によって自ら考える力が身に付いたことが大きい。

若手社員も年齢や経験に関わらず、活躍できる環境がある。現行の人事制度は入社4年目(当時)の女性社員からの提案をきっかけに改定したものだ。ES調査の結果に問題意識を持ち、人事制度の改定を会社に提言した。一度は却下されたものの、社長への直談判などを経て、全社プロジェクトが組まれ、彼女はプロジェクトの中心メンバーとして活躍した。

マネジメントとスペシャリストに分けて行う人事評価制度や、先輩社員と面談し、目標を決めていく制度など改革は進んでいる。これまでは新卒採用に頼っていたが、最近はキャリア採用にも本格的に取り組んでいる。ビルメンテナンス業界の人手不足は深刻だが、嘆いてばかりはいられず、しっかりと取り組んでいく。

BIM活用へゼネコンと連携


AI清掃ロボットの活用も、人手不足の課題に対処するためには重要なプロジェクトだ。デジタルやロボットに詳しい社員を専任としたほか、元自動車システム会社の人材も招聘するなど体制を強化し、実績が出始めた。ビルメンテナンス会社として、ビルのことは誰よりも詳しいので、ロボットメーカーと協力しながら、ビルオーナーのニーズに応えていきたい。

コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報の属性データを追加した建築物のデータベースであるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用がゼネコン業界で進んでいる。しかし、建物の維持管理には全く活用されていないことが課題になっている。

顧客である中堅ゼネコンや同社グループの不動産会社と一緒になり、清掃、設備、警備をデジタルでつなげる実証実験を始める予定だ。人を介さなくても維持管理できるシステムの開発に取り組んでいきたい。今は清掃ロボットが先行して普及しているが、今後は、修繕の予測・メンテナンスにつなげていくデータの収集にも取り組む。

ホテルのロビーなどで使用される大理石の研磨技術や厨房にあるグリストラップ石鹸化工法は、鹸化剤を使用して高速でミキシングすることで廃油を石鹸化する仕組み。グリストラップ内の油分を含んだ汚水をバキュームで引き抜いて産業廃棄物として処理するのではなく、汚水を石鹸化できる環境配慮型の工法だ。

この石鹸化工法の技術導入も社員の発案によって生まれたものだ。最初はゴーサインを出すのを躊躇したが、「どうしても挑戦したい」という熱意に押された。今ではこの工法を採用するお客様が増えている。

地域活性化でも重要な役割


2008年から、埼玉県の商業施設「ウニクス上里」で、ジャズフェスティバルを企画運営するようになった。当時、新日本ビルサービスから派遣されていた社員が「ここでファーマーズマーケットをやりたい」とアイデアを出し、デベロッパーにも認められた。50数店舗が軒を並べて地域の色と文化を発信し、賑わいを演出することができた。

この成功例がメディアなどで注目された後、この社員は本社に戻り、「NPO法人 彩の国地域活性化協会」の設立に取り組んだ。2年ほど前から、「彩の国マルシェ」を埼玉県各地で展開するようになった。野菜やベーカリーやクラフトなどを自分で作っている人たちに、マルシェの場を提供する仕組みで、予想を超える反響を呼んでいる。例えば、地域創生や街づくりを専門分野とする大学生や大学院生の関心を集めるきっかけとなり、優秀な人材が入社するケースも増えている。また、店を持たない小規模事業者のビジネスを支援することで、外部企業や地域社会との繋がりが強固となり、新たなビジネスのきっかけ作りにもなっている。

2040年のありたい姿として「ファシリティに集う人々が愛と笑顔に包まれた躍動する世界の実現」というビジョンを掲げた。当社だけではなく、お客様や外部企業、行政、地域社会と連携・協業して、はじめて成り立つ未来像だ。

全ての利害関係者が人材の多様性を受容し、それぞれの価値観や強み弱みを認め合い地域の問題解決に貢献することで、互いが尊敬し、感謝しあえる「コミュニティの場」を創出し、街づくりに貢献することを目指している。

ビジョンを実現するために、私たちはビルメンテナンスの先を見据えるプロ集団でありたいと思っている。業界の最先端の技術力や知識・マナーを追い求め続け、業界の変化や将来性を常に見極め、ビルメンテナンスの先にある新規事業の限りない可能性を追求していきたい。

*2024年6月13日取材。所属・役職は取材当時。

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