実践「生産性改革」:藤原 加奈 フジワラテクノアート代表取締役副社長インタビュー

今年7月に第67回軽井沢トップ・マネジメント・セミナーに登壇したフジワラテクノアート代表取締役副社長の藤原加奈氏は、「実践『生産性改革』」のインタビューに応じ、中小企業が持続的に成長するためには、「特色を突き詰める」ことによって競争力を高めることが重要になるとの考えを示した。また、自律的な社員の育成やエンゲージメントの向上のためのユニークな取り組みなどを紹介した。

中小企業は特色突き詰め成長へ 社員自律化へビジョンマップ作成

藤原加奈 フジワラテクノアート
代表取締役副社長

藤原氏が改革への旗印として策定した2050年に向けたビジョンでは、「『微生物のチカラを高度に利用するものづくり』(=微生物インダストリー)を多様なパートナーと共創し、新たな市場や産業を創出する」と掲げている。

藤原氏は「お客様との信頼関係を守り続ける使命や、日本の食文化の大事な部分を支える責任感を果たしながら、醸造業界にもっと価値を提供するためにも、社会や未来に目を向けたイノベーションに果敢に挑戦したいと考えた」とビジョン策定の狙いを語った。

ビジョン策定に際し、これまで培ってきた技術の棚卸しを行った。その結果、フジワラテクノアートは、醸造工学、微生物培養などのバイオプロセスと、製缶溶接、機械加工、仕上げ組み立てなどのものづくりの技術を両方持っていることが唯一無二であることを再確認できたという。

藤原氏は「中小企業の持続的な成長のためには、自社の特色を突き詰めることが重要であり、当社の場合で言うと、バイオプロセスとものづくりの技術を掛け合わせた『微生物のチカラを高度に利用するものづくり』が強みであり特色だ」と語った。

自社の技術を再定義することで、醸造機械メーカーという従来の枠を越えて、社会課題を解決するソリューションプロバイダーという新たなフィールドを見出した。藤原氏は「未来に向けてあるべき姿をしっかり描くことも大事であり、食糧問題や環境問題など世界的な社会課題を共創によって解決できる企業を目指している」との考えを示した。

ビジョンの実現のためには、自律的に考え、行動する社員がスペシャリスト集団として成長していくことが欠かせない。そのためには、社員一人ひとりが特性に応じた専門性を磨くことが重要だ。個人の得意なことややりたいことを示し、会社のビジョン実現のために生かしてもらうため、社員一人ひとりの5カ年ビジョンマップ(専門性向上の取り組み)をつくり、オープンにした。

また、ビジョンを実現していくカルチャーを生み出すには、そのカルチャーにフィットした言動の積み重ねが必要であり、それを言語化した行動指針として「フジワラウェイ」を策定した。

こうした人的資本経営推進の結果、地方の中小企業として苦心していた採用状況は大きく改善した。キャリア採用応募者数は年間700人超(今年度見込み)になった。年間のキャリア採用の平均人数は5人で、直近1年の採用倍率は100倍超だ。

藤原氏は「大手勤務経験のある高度人材の採用が増加し、DXの取り組みも急伸している。3年で21個のITツール・システムを導入し、内製でDXを推進する体制が構築できている。社員とのワークショップの中で導き出したビジョンの策定作業が改革の原点だ」と手ごたえを示した。


(以下インタビュー詳細)

人的資本経営で多様な「個」が躍動 微生物のチカラで価値共創
藤原加奈 フジワラテクノアート代表取締役副社長インタビュー

フジワラテクノアートは創業者である曽祖父が1933年に創業した老舗の機械メーカーで、今年91年目を迎える。日本酒、醤油、味噌などを製造する醸造機械が主力で、同様のビジネスモデルの会社は日本に2社しかない。
フジワラテクノアートは醸造の各プロセスに対応する技術や装置を確立し、「醸造プロセスを産業化する」ノウハウを強みとしている。特に醸造食品製造の肝とされる麹造りに関する技術が得意だ。蒸した米や大豆、炒った小麦に麹菌という微生物が生えることで麹となり、麹のもつ酵素の作用で醤油や日本酒などがつくられる。産業規模で微生物を均一に培養するには高度な制御が求められるが、挑戦の積み重ねでそれを実現した。
主な販売先は、日本全国の日本酒、焼酎、醤油、味噌などの醸造食品メーカーを中心に約1,500社。納豆、甘酒、酵素などの製造設備の納入実績も増加しており、アルファ化米(非常食)や製粉設備など一般食品業界にも展開している。国内の機械製麹能力シェアは80%に達している。
57年前の1967年から醸造機器の輸出を開始しており、現地ローカル企業との直接取引や、日本企業の海外工場など海外27カ国に設備を納入し、海外比率は3割から4割に上る。
提供価値を向上させるために実践しているのはフルオーダーメードのものづくりで、お客様の設備改善ニーズや最新の技術を柔軟に採用している。効率を求めるならば標準品が適しているが、長く使ってもらう設備としてはお客様のニーズに沿った注文品のほうが良い。また、単品からプラント一式、エンジニアリングにも対応するトータルエンジニアリングも特徴だ。品質と耐久性にも優れているほか、安定稼働までの伴走、トラブル時の緊急対応などアフターフォローも徹底している。これらの複合的な要素が価値になって、お客様に評価いただいている。

経営への共感で生産性向上

経営を承継する覚悟を決めた時、まず手を付けたのが人事制度の刷新だった。フジワラテクノアートの新人事制度基本方針は、資格級ごとに定義を明確化し、成長ステップを提示、会社の戦略と人の成長を結び付けることを目指している。資格定義、目標設定、評価、処遇を一貫させ、市場競争力のある報酬に向けて見直しを行った。

人的資本経営が多様な「個」の躍動を実現すると考えている。フジワラテクノアートの人的資本経営のキーファクターは、経営への共感の醸成だ。ミッション・ビジョン・バリューの浸透に力を入れている。社員が腹落ちするまで経営への共感を浸透させることが生産性向上にもつながる。

多様性を生かしたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの取り組みについては、公平であり、マイノリティーが意見を言えるレベルまで突き詰めることが大事だ。内発的動機(内面に湧き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態)の最大化により、やらされ感ではなく、自分事として会社のことを考えて、動ける社員を育てることを意識している。

経営の専門家の方々から「150人の組織でよくここまでやっているね」と言われるが、社員一人ひとりが自律的に動くことが大事で、そういう社員がいる会社が伸びている。専門性(得意を発揮する)、利他心(思いやる)、挑戦心(失敗を恐れない)、貫徹心(最後までやりきる)、研鑽心(常に成長する)を持っているのが当社にとっての自律的な社員だ。

自律した「個」がバラバラにならず、組織として連結していることも重要だ。そのために企業風土の深化にも取り組んでいる。挑戦の歓迎、部門を超えた団結、寛容性のある助け合いの風土を醸成していく。さらに、業務改革アクションを実施し、ボトムアップでより職場・業務が良くなるよう改善行動を起こす社員を育成している。

成長力に危機感


改革は、人への投資と経営戦略がしっかりつながるように意識して進めている。2016年に経営理念を刷新し、守るべきことと変えていくべきことを整理した。シェアが8割を超えたことで、逆に、危機感が高まっている。シェアは先代までの努力であり、私の代で、どのように成長すればいいのか頭を悩ませた。

2018年に「2050年に向けたビジョン」を「微生物のチカラを高度に利用するものづくり」として掲げた。ビジョンを絵に描いた餅にせず、一人ひとりが個人のビジョンにつなげていくことが重要だと考えている。

ビジョンを推進するために、四つの委員会を発足させた。技術イノベーションをさらに活性化するための「未来技術革新委員会」や、部門横断でイノベーションが行える環境づくりのための「業務革新委員会」、一人ひとりの成長を目指した「人財育成委員会」、理想と現実のギャップを埋めるためデジタル化を進める「DX委員会」だ。委員会に参加していないメンバーに浸透させるため、ビジョンに向けた各部のあるべき姿も落とし込んだ。web_fujiwara.workshop.jpg

会社が大きく変わることに抵抗感を感じたベテランから反対の声が上がったこともあった。社員向けに自社の提供価値を考えるワークショップを開催し、私がファシリテーション役となり、それぞれに自社の特徴などについて意見を聞いて回った。(=右手写真)

若い人たちは自社の製品・サービスに対する機能的価値を挙げる声が多く、ベテランは「お客様の期待以上、期待を超えてやってきた」「感動してもらえた」など情緒的な意見が多かった。

未来を描き新たな価値共創

社員の意見を聞き、確信したことがある。価値をしっかりつくっていくことや、喜びと感動を提供できる会社にすることを目指すべきだということだ。「喜びと感動」という言葉は、ミッションの中にも入っている。ワークショップを通じ、自分たちの仕事に対する誇りややりがいを再認識するきっかけになった。

改革の成果によって、やりたかったイノベーションも進んでいる。例えば、既存の醸造プラントシステムを次世代化し、AIやICTも積極的に取り入れている。

そして、「棄てる」から「醸す」へと微生物のチカラでアップサイクルする新事業の開発も進める。食品の副産物や未利用資源を微生物のチカラで高付加価値化し、機能性飼料、機能性食品、機能性素材へとアップサイクルする仕組みづくりに様々な企業との共創で取り組んでいる。

ステークホルダーからも共感していただくことが増え、社員も集まり、情報も入ってくるようになった。未来の姿を描くことによって、企業価値が高まってきていることを感じている。

*2024年10月28日取材。所属・役職は取材当時。

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