労働時間短縮の雇用効果に関する調査研究 中間報告
1999年5月26日
公益財団法人 日本生産性本部
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財団法人 社会経済生産性本部は、労働時間短縮による雇用機会創出効果を推計した。産業別に推定された労働需要関数をもとに残業時間をゼロにするケースとサービス残業をゼロにするケースについて、生産量を維持するために必要な雇用者数を推計したものである(毎月勤労統計、事業所規模30人以上・1997年第IV四半期ベース)。
- 1.社会経済生産性本部は、98年7月に発表した「雇用政策特別委員会」緊急提言において、雇用創出の必要性など当面する雇用失業情勢への対応策を示した。そのひとつとして「ワークシェリング」の活用による雇用創出の検討を提言したが、この問題についての基礎的な資料も乏しく、その可能性について労使間の議論や具体策の検討は進んでいない状況にある。連合も「98雇用対策方針」のなかで時間外労働削減による雇用創出の取組みを提起している。
- 2.このため、これらの議論を活性化するとともに今後における検討に資するため、労働時間短縮の雇用機会の創出効果に関する調査研究を行ってきた。労働時間の短縮を雇用拡大につなげるための条件はどのようなものであるか。またこれをどのように進めていくのか。労使で意見が分かれる可能性が高い対策であるだけに、まず議論材料の整備を図ったものである。
- 3.今回の中間報告は、産業別に労働需要関数を推定し、生産量一定の条件の下で2つのケースを想定して直接的な雇用への置き換え効果を推計したものである。1つは、残業抑制や職場風土などにより発生していると言われるサービス残業をなくした場合、もう1つは残業(所定外労働時間)をすべてなくしたと仮定した場合である。実際にそのような施策が行われた場合に、これがこのまま雇用増につながるものではない。
- 4.ワークシェアリングの議論としては、労働時間を短縮する場合の給与の取り扱い、あるいは消費や投資を媒介とした生産量への影響などマクロ経済のメカニズムを通じた雇用への波及効果を考慮した実証分析が必要である。今後はこれらの作業も含めた研究を進めたい。
なお、推計作業は雇用政策特別委員会樋口美雄専門委員長(慶應義塾大学商学部教授)の指導の下に実施した。
労働時間短縮の雇用効果に関する調査研究
中間報告
(毎月勤労統計(規模30人以上)を使っての推計結果)
〔要約〕
〔1.問題意識〕
深刻な雇用失業情勢と雇用創出の可能性
わが国の完全失業率が毎月のように過去最悪の記録を更新している(本年3月、4.8%)。しかも、雇用者数は98年1月以来1年以上にわたって減少を続け(本年2−3月、対前年比72万人−62万人減少)、完全失業者数は339万人(本年3月)に達している。いわば小さくなるコップから水が溢れてくる状態にある。政府をはじめ諸機関から様々な政策が提言され、またその多くは実行に移されているにもかかわらず、失業率は一向に改善の兆しをみせていない。
従来の延長線上にある諸施策では、こうしたかつて経験をしたことがないほど深刻な雇用問題を解決することができないのであれば、「成否の議論の分かれる対策」であっても検討する意味がある。いまや、それを事前にタブー視し、検討しないで避けて通るだけの余裕は日本経済になくなっている。考え得る一つの施策が、労働時間短縮とくに残業削減による雇用創出あるいは雇用安定の可能性である。
労働時間短縮--残業削減が雇用に及ぼす影響
労働時間の短縮が雇用を拡大するのかどうか。あるいは雇用拡大につなげるための条件はどのようなものであるのか。またこれをどう具体的に進めていくのか。労使で意見の異なる可能性が高い対策であるだけに、まず冷静な分析が必要である。
そもそも労働時間の10%の増減と雇用の10%増減では生産量に与える影響は異なる。ましてや労働時間の短縮は、消費や投資を媒介として生産量に影響を与えずにはおかない。さらに時短が、従前の給与を維持して行われるのか、給与削減をともなうのかによっても、労働需要への波及効果は異なってくる。
こうした労働時間短縮が雇用に及ぼす影響は、先験的でなく極めて実証的な問題である。今回は、サービス残業を削減する場合あるいは残業(所定外労働時間)をすべて削減する場合を想定して、推計を行った。
〔2.シミュレーション結果〕
最小自乗法(OLS)により推定した雇用弾力性(労働時間が1%変化した場合に雇用者数が何%変化するかを表わす係数)を用いたシミュレーション結果は、整理すれば以下の通りである(推定方法は後掲3)。
ただし、労働需要関数の推定結果に一部統計的に有意でない部分もあり、シミュレーション結果は十分幅をもってみる必要がある。