提言活動その他の調査研究・提言

新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)・政権公約(マニフェスト)の導入にむけた公職選挙法改正に関する緊急提言

2003年9月4日
公益財団法人 日本生産性本部

はじめに

われわれは、選挙から政党を立て直し、政治主導体制を確立して現在の政治の閉塞状況を打破する突破口になるものとして、先に政権公約(マニフェスト)の導入に関する提言を行った(平成15年7月7日「政権公約(マニフェスト)に関する緊急提言~新政治改革宣言・政党の立て直しと政治主導体制の確立~」)。

この提言は幸いにも、政党関係者や国民の幅広い支持を得、われわれがマニフェストの訳語として使用した「政権公約」という言葉も一定の普及をみるに至った。また、議論の高まりを受けて各党が次の総選挙にむけて真剣に政権公約を準備する取組みを開始し、国民の熱い関心がむけられていることも、おおいに歓迎すべき事態である。

われわれは、明年の6月までに行われる次の総選挙において、われわれが主張したように、政権公約が主役となる選挙運動が実現され、総選挙が政権公約にもとづく国民の政権選択の場となること、総選挙後においては、勝利した政党の政権公約を実施に移すための政治主導による国政運営が行われ、現在の日本の危機的状況が解決されることを強く望んでいる。

先の提言において、われわれが提起したテーマのひとつは、様々な規制を設けていて、政権公約による選挙運動の障害となる恐れがある現行公職選挙法の改正問題である。

このためわれわれは、先の提言においても次の総選挙にむけて最低限必要な法改正が行われるべきことを主張した。その後われわれは、自らその主張を具体化するために政治構造改革会議(西尾勝座長)の下に公職選挙法改正等特別委員会(成田憲彦委員長)を設置し、政権公約を中心とする選挙と現行制度との関係について詳細に検討を行い、必要な改正のための具体案のとりまとめを行ってきた。今般、成案を得るに至ったので、ここに発表する。

公職選挙法の改正に関するわれわれの提案は、次の総選挙に向けて、限られた時間の中でできるだけ容易に法改正が実現されるよう、必要最小限の改正に絞り、公正な立場からとりまとめたものである。各党がこの提案をベースに早急に話合いを開始し、公職選挙法の必要な改正を実現すること、そして、次の総選挙が政権公約を中心に行われ、わが国の政党政治に新たに画期的な一頁が開かれることを強く切望する。

1.基本的な考え方

政権公約に関する政党の活動と、現行公職選挙法の関係についてのわれわれの考え方、およびそれを踏まえた同法の改正についてのわれわれの基本方針は、次のとおりである。

  1. 1.選挙における有権者の政権選択の手がかりとしての政権公約

    政権公約は、政党が政権を獲得した場合に実施する具体的な政策をあらかじめ有権者に提示し、有権者がこれにもとづいて選挙において政権を委ねる政党を選択することにより、わが国の政党政治の活性化と国家運営における政治主導体制の確立をはかるものとして位置づけられる。
    このような意味での政権公約をめぐる政党の諸活動は、政党の最も本質的な政治活動であり、より長期的には、これを十分行いうるように現行の公職選挙法の体系そのものを根本から見直す必要がある。

  2. 2.政権公約の準備は選挙公示前の政治活動として可能

    ただし、現行公職選挙法の下でも、政党その他の政治団体は事前運動に当たらない限り、選挙公示前において自由に政治活動を行うことができる。従って、政党その他の政治団体がその内容や方法、態様等において事前運動に当たらないように配慮して、選挙公示前に上記の意味での政権公約の作成作業を行い、またその作業結果を公表する等のことを行うこと自体は、公職選挙法上特段の問題を生じないものと考えられる。

  3. 3.政権公約の大量頒布は現行文書図画規制・事前運動規制に抵触する恐れ

    しかし一方で、現行公職選挙法においては、選挙運動の規制との整合性をはかるために政党の政治活動についても一定の規制が定められており、また、当該活動の時期・態様によっては選挙運動に該当して公職選挙法の選挙運動規制の対象となる。
    とくに、政権公約を冊子やビラなどの形で大量に印刷して頒布する行為は、政党または所属候補者のための投票獲得活動として選挙運動に該当し、公職選挙法の選挙運動における文書図画の規制対象となる。またもし、選挙の公示前にこれを行った場合には、事前運動に該当する恐れがある。

  4. 4.政権公約による選挙運動のために文書図画規制を緩和するのが適当

    選挙の公示前に政権公約を有権者に頒布する行為を事前運動の禁止の適用除外とする趣旨の公職選挙法の改正は、現行公職選挙法の体系の大幅な変更となる。従って、将来に向けての課題としてはともかくも、次の総選挙に向けての限られた時間にこれを実現しなければならないという制約の下では現実的な選択肢とは言えない。
    しかし、現行の文書図画の規制を一部緩和して、政党が政権公約による政党の選挙運動をより効果的に行うことができるように、公職選挙法を改正することは、比較的容易であると考えられる。

  5. 5.各党合意により次の臨時国会で必要最小限の改正を実現すべき

    公職選挙法の選挙運動における文書図画の規制に関する規定の改正は、選挙という各党共通の土俵の整備に関わるものであり、できるだけ多くの政党が合意できるものであることが望ましく、またできるだけ迅速に改正が実現される必要がある。
    従って、当面衆議院議員総選挙および参議院議員通常選挙にかかわる選挙運動について、上記の観点から次の臨時国会で必要最小限の改正を行うべきものと考えられる。なお、参議院議員通常選挙における政権公約の位置づけ等については、さまざまな議論があり得ることから、この点に関して、今後政党および国民の間で議論の成熟が求められる。

  6. 6.政権公約活動について、さらにコンセンサスが必要

    今回は必要最小限の改正に限るが、選挙運動の一層の自由化を実現するためのさらなる改正や、現行公職選挙法で政治活動の範囲内のものとして許容される政権公約活動の具体的な内容等については今後さらに議論を積み重ね、政党および国民の間でコンセンサスが形成されることが望まれる。

  7. 7.首長選挙の政権公約のための改正についても議論が必要

    また、地方公共団体の長の選挙への政権公約導入のための公職選挙法の改正についても、今後各党間で十分な議論を積み重ねたうえで、速やかに結論を得るべきである。

2.公職選挙法改正の要点

  1. (1)最小限実現すべき改正

    衆議院議員の総選挙および参議院議員の通常選挙において、政党その他の政治団体が政権公約の策定、頒布等を効果的に行うことができるよう、公職選挙法を次のように改正すべきである。

    1. <1>衆議院議員の総選挙にあっては候補者届出政党及び衆議院名簿届出政党等、参議院議員の通常選挙にあっては確認団体は、次の文書を選挙運動のために頒布できるものとすること。
      1 本部において作成した国政運営に係る政策を記載した冊子
      2 前号の政策の要旨を記載したリーフレット又はビラ
      (解説)
      今回の改正は、衆議院総選挙と参議院通常選挙のみを対象としている。補欠選挙、再選挙については今回は対象にしていない。新たに許容されるのは、後述する者が選挙運動期間中に所定の文書を頒布することである。対象となる文書は、「本部において作成した国政運営に係る政策」を記載した冊子(パンフレットなど綴じたもの)と、その要旨を記載したリーフレット(一枚の紙に印刷して折ったもの)またはビラ(一枚の紙に印刷して折っていないもの)である。
      「本部において作成した国政運営に係る政策」であるから、各候補者や政党の選挙区支部で作成したものや、本部で作成しても単に所属候補者を紹介したものなどは許されない(なお、後掲<3>からも、候補者名を記載する等により既存の候補者中心の選挙運動を補完するにすぎないものは許されない)。あくまでも各政党の本部で政権公約を作成し、その全文を記載したパンフレット等と、その内容を簡単に紹介したリーフレットやビラを頒布(有償・無償を問わない)することを想定している。
      頒布が許される者は、衆議院総選挙にあっては小選挙区で候補者を届け出た政党と比例代表選挙のために名簿を届け出た政党その他の政治団体、参議院通常選挙にあっては確認団体(比例名簿を届け出たか、または所属候補者10人以上を有して、総務大臣から確認書の交付を受けた政党その他の政治団体)である。ただし、公職選挙法は、誰が上記政党等の運動員であるかについて制限を設けていないので、候補者の運動員が頒布して、この政権公約の実現のための候補者の当選を訴えることは、差し支えない。
      頁数や部数、頒布の方法については、規定していない。後掲するように、党首以外の所属候補者の氏名の記載を禁じているので、選挙運動の公正を害する使われ方はされないものと考えている。
    2. <2><1>1、2の文書は、各政党等ごとに全国を通じてそれぞれ一種類に限るものとし、中央選挙管理会等の所定の機関にあらかじめ届け出るものとすること。
      (解説)
      頒布できる文書は、各政党等ごとに前掲の冊子1種類と、リーフレットかビラどちらか1種類のみである。衆議院総選挙にあっては小選挙区選挙と比例代表選挙を通じてそれぞれ1種類、参議院通常選挙にあっては選挙区選挙と比例代表選挙を通じてそれぞれ1種類に限られる。
      文書はあらかじめ届け出たものに限られる。届出先としては、中央選挙管理会、当該選挙の事務を管理する選挙管理委員会(衆議院小選挙区選挙の場合で言えば都道府県選挙管理委員会)、総務大臣などが考えられる。いずれの機関にすべきかは、法案化の段階で関係機関の意見も参考にして決定すべきものと考えられるので、本案ではあえて触れていない。
    3. <3><1>1、2の文書には、当該政党その他の政治団体の代表者一人のほかは、所属候補者の氏名又は氏名が類推されるような事項を記載することができないものとすること。
      (解説)
      文書には、代表者(通常は党首)のほかは、所属候補者の氏名や氏名が類推される事項(候補者が特定されるような選挙区や肩書きに関する事項や、写真や似顔絵など)の記載を禁止するものとする。政権を獲得した場合の閣僚名簿の記載を許すべきとする意見もあるが、その者が候補者となっている選挙区の選挙の公正を害する恐れがあり、また記載された候補者の選挙区で大量に頒布される等の弊害も予想されるので、禁止するのが適当と考えられる。ただし、当該文書に記載せずに、政党が政権を獲得した場合の閣僚名簿を公表するなどの行為は、現行制度においても可能である。
      代表者一人のみ可能としたのは、政権を争う選挙は有権者が次の総理大臣を選ぶ選挙でもあるから、党首については氏名を記載したり、「○○内閣を実現しよう」というような表現を用いたり、写真等を掲載することを許容するのが適当と考えられるからである。
      所属候補者でない候補者の氏名等を記載することは差し支えない。「××内閣打倒」や、連立相手の政党の首班に関して「今後も△△内閣を支えて」などの文言を記載することも可能である。
    4. <4>その他必要な規定の整備を行うこと。
      (解説)
      その他必要な規定の整備については、各党の話合い、および法制当局の判断に委ねたい。
  2. (2)改正することが望ましい事項

    各党間で合意が得られる場合には、併せて次の事項についても改正を求める。

    1. <1>政権公約の普及のためのインターネットの利用の解禁
    2. <2>政権公約の普及、頒布等のための戸別訪問の解禁
    3. <3>政権公約をテーマとした第三者主催の公開討論会の解禁

    (解説)
    今回の案では早急に改正を実現するように最小限の事項に限定した。しかしながら、政権公約を中心とした選挙運動がより効果的に行われるためには、さらに改正することが望ましい事項も少なくない。それらの例として3点を挙げたが、これらに限る趣旨ではなく、政党本位・政策中心の選挙を実現するために、各党の合意が得られる場合には、今回又は将来においてより抜本的な改正が実現されることが望まれる。

平成15年9月4日
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