提言活動その他の調査研究・提言

新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)・政権公約(マニフェスト)に関する緊急提言

2003年7月7日
公益財団法人 日本生産性本部

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経済界、労働界、知事、学識経験者、ジャーナリストなど各界有志で構成する「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)は7日に記者会見し、1年以内に迫った総選挙と秋の自民党総裁選にむけて、「政権公約(マニフェスト)に関する緊急提言」を公表した。

■ 選挙から政党を立て直す

提言はまず、経済や国民生活の危機が進行する中で、国民は「日本政治の不透明さ」「問題解決能力の低さ」「指導力の弱さ」「説明能力の乏しさ」に絶望感を強めていると指摘。

ことに、国のビジョンを示し、改革を牽引すべき政党、その政党が組織する内閣、内閣が政策を決定し実行する仕組みそのものが、「最大の構造改革問題」となって日本の行方に立ちふさがっているとして、総選挙から政権運営に至る政党政治のサイクルを立て直し、責任ある政治主導体制を確立するためにも、起点となる選挙の段階に立ち戻って、根本的な「政党改革」を進める必要性を訴えている。

■ 政党は次の総選挙で「政権本位の公約=政権公約」(マニフェスト)の導入を

■ 自民党は「総裁マニフェスト」を基本に政権公約の策定を

その上で提言は、国政選挙のたびに政党が国民に示す「選挙公約」について、検証不可能な抽象的な目標や願望を総花的に羅列し、実現可能性は無視され、実行体制も構築されないなど、政党の公約が具体的な政権構想と結びついていない現状を厳しく批判。

政治主導を作動させるための起点である総選挙で、国民と政党がどのような契約を交わしたのかが曖昧であれば、「いかなる種類の構造改革であれ、政党が官僚機構に目標を与え指導・統制していくことも、政治家集団をまとめあげていくことも、改革の道程を国民と共有していくことも不可能に等しい」と指摘した上で、すべての政党に対し、「具体的な目標のはっきりした政治」「明確な評価が可能な政治」「具体的な政策執行を担保する政治」の実現にむけて、公約を担う主体も、選挙と政権との関係も曖昧なこれまでの「選挙公約」から脱却し、次の総選挙で、政権運営のための具体的な政策パッケージや実行体制を国民に示す「政権本位の公約=政権公約」(マニフェスト)を導入することを提案している。

また本年9月に予定されている自民党総裁選については、次の総選挙を政党による「政権公約」の競い合いとするための重要な試金石になると指摘。自民党の「政権公約」に実質を与え、党内指導体制を確立するためにも、総裁選に出馬する候補者は実現をめざす具体的な政策内容や実行体制を「総裁マニフェスト」として提示し、選挙の結果、総裁に選ばれた候補者のマニフェストが基本となって、次の総選挙の党の「政権公約」が策定されるべきだと提案している。

(提 言 要 旨)

  1. 1.国民は「選挙公約」から脱却を~選挙公約から政権公約へ
    1. <1>政権選択・首相選択の場である総選挙で求められるのは、候補者個人による「個人本位の選挙公約」ではない。政党の主義、主張を政権掌握の意欲や構想とかかわりなくただ羅列した「政党本位の選挙公約」でもない。総選挙後の具体的な政権構想にもとづく、「政権本位の選挙公約」、すなわち「政権公約」にほかならない。
    2. <2>政党に求められる「マニフェスト」とはまさに「政権公約」のことであり、国民と政党は、公約を担う主体も、政権と選挙との関係もきわめて曖昧なこれまでの「選挙公約」という言葉から脱し、次の総選挙にむけて「政権公約」という言葉を共有するところから始めるべきである。
  2. 2.すべての政党は次の総選挙で「政権公約」の提示を
    1. <1>政権公約(マニフェスト)は、政党または政党連合が政権任期中に推進しようとする政権運営のための具体的な政策パッケージであり、「国民と政権担当者との契約」である。
    2. <2>政権公約は政党と政府の質を変え、「具体的な目標のはっきりした政治」「明確な評価が可能な政治」「具体的な政策執行を担保する政治」を実現するための道具であり、政党をこうした政治の担い手として選挙の場に立たせるための手段である。
    3. <3>政党は次の総選挙において政権として取り組むべき具体的な政策パッケージを、国民による検証や自己評価が可能な具体的な目標設定(数値、達成時期、財源的な裏づけなど)、実行の体制、政策実現のための工程表とともに示し、政権公約を競い合うわが国憲政史上初の総選挙を実現すべきである。
  3. 3.自民党は秋の総裁選挙で「政権公約」の選択を
    1. <1>総選挙を目前にした本年秋の自民党総裁選挙は、次の総選挙を政党による「政権公約」の競い合いとするためのきわめて重要な試金石となる。
    2. <2>政権公約に実質を与え、力強い党内指導体制を確立するためにも、自民党総裁選挙に出馬するすべての候補者は、みずからが総裁となった場合に推進しようとする
      具体的な政策内容や実行体制を「総裁マニフェスト」として提示し、選挙の結果、新たに総裁に選ばれた候補者のマニフェストを基本にして、次の総選挙における自民党の「政権公約」が策定されるプロセスを国民に示すべきである。
  4. 4.公職選挙法を改正し「政権公約」主役の選挙運動を
    1. <1>現在の公職選挙法は公示・告示前の選挙運動を全面禁止し、公示・告示後も法律で認められた葉書やビラ以外の文書配布を厳格に禁じており、政党が「政権公約」を作成したとしても冊子などを自由に頒布することができない。次の総選挙を「政権公約」の競い合いとするためにも、政党が作成する「政権公約」については選挙の公示・告示の前後にかかわらず、自由に頒布できるよう最低限必要な法改正を速やかにおこなうべきである。また、文書図画の規制対象とされているインターネットも解禁すべきである。
    2. <2>また、現在の公職選挙法は、選挙運動を管理する側の発想を優先し、政党同士の本格的な政策論争が選挙でおこなわれることを前提としていない。
      むしろ現行法は候補者個人の選挙運動を中心とする発想で組み立てられており、それが候補者の「経歴放送」や候補者の名前の連呼が主役となるような日本独特の選挙風土を生み出している。次の総選挙にむけて最低限必要な法改正をおこなうと同時に、政見放送の見直しや戸別訪問の解禁などを含め、公職選挙法そのものの根本的な作り直しに超党派で取り組むべきである。
  5. 5.マスメディアは「政権公約」を精査する報道を
    1. <1>総選挙を「政権公約」の競い合いとするためには、マスメディアの果たす役割が今まで以上に重要であり、これまでにない工夫も必要となる。たとえば、小選挙区制時代の政権選択選挙は、「政権の実績」と「野党の将来ビジョン」とを対比して国民に選択を求め、業績投票を迫るものであるから、与党に対しては、現政権の実績の評価を踏まえて新しい「政権公約」を精査し、野党に対しては、その政権担当能力を評価する観点から「政権公約」を精査する報道が求められる。
    2. <2>また、政党間で選挙協力が成立し与党連合と野党連合による政権選択選挙となる場合には、個々の選挙区や政党ではなく政党連合の政権公約を報道の中心に据えるべきである。
    3. <3>政党の公約を横並び式に紹介する従来型の選挙報道は、選挙の公平、公正を担保するようでいて、国民による政権選択の妨げになっていた。「政権公約」を中心とした報道の必要性の高まりは、選挙運動期間に入るとかえって政治報道が低調になるという奇妙なマスメディアのあり方を克服し、マスメディアが新たな重要性を模索する機会を与える。