新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)・公務員制度改革に関する緊急提言
2002年5月20日
公益財団法人 日本生産性本部
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経済界、労働界、学識者、ジャーナリストなどで構成する新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調亀井正夫会長)は20日に記者会見し、「公務員制度改革に関する緊急提言~政官関係のあるべき姿と公務員制度改革に関する手順」を公表した。
提言は、現在、政府与党が、昨年末に閣議決定された「公務員制度改革大綱」にもとづき、本年夏を目途に法案化作業を進めている一連の公務員制度改革について、各省の分立割拠体制(セクショナリズム)がこれまで以上に強化され、政治家の官僚人事への介入や、公正・中立に執行されるべき許認可・契約などの個別の行政決定に介入する余地を無制限に広げる可能性があると指摘。このまま作業を進めれば、「首相を中心とする内閣主導体制」(政治主導体制)の確立を困難にするばかりか、「政と官」のあるべき正常な関係を根底から揺るがし、「誤った政治主導」が定着しかねないとして、大綱をはじめとする一連の作業方針の根本的な再検討を求めている。
- 各省セクショナリズムを強化し政治家の個別介入を許す大綱方針を批判/各省庁別採用制こそ見直しを
- 審議官級以上の高級官僚の人事管理権は総理大臣に移管/人事担当の政務副長官と人事考査室を新設
- 個別行政決定に従事する課長級以下の人事に大臣、副大臣、政務官は不介入
具体的には、「大綱」が人事院が所管していた各種の人事管理権を人事院から奪い、各省大臣に分担管理させ、各省大臣の権限をこれまでの任免権から「人事管理権」にまで拡張しようとしている点を批判。これでは、各省セクショナリズムが過剰に強化される一方、政治家による官僚人事への介入や個別行政決定への介入が無制限に広がるだけだとして、方針の撤回を主張。これに代わる改革の方向として、<1>官僚の「省庁別採用制」を抜本改革するとともに、<2>官僚の任免権者を分け、政策形成に従事している審議官級以上の高級官僚の人事管理権を内閣総理大臣の権限に改め、内閣官房に人事担当の「内閣官房政務副長官」と「人事考査室」を新設する(なお、高級官僚の身分は政治任用職ではなく、従来同様一般職とする)、<3>個別行政決定に従事している本省課長級以下の官僚の任免は従来どおり各省大臣の権限とし、この階層に属する官僚の採用や人事異動はこれまで同様、大臣官房人事担当部局の自律的な決定に委ね、これには大臣・副大臣・政務官といえども原則として介入しない慣行を堅持することを提案している。
- 天下りの事前審査を各省大臣の権限とする大綱方針を批判
- 本省庁課長級以上の再就職を審査承認し斡旋する事務は「内閣官房」に移管を
また、提言は以上の改革を前提に当面緊急に取り組むべき課題として「天下り」問題を指摘。本省庁課長級以上の官僚の民間企業への「天下り」について、「大綱」が人事院による事前承認制を廃止し、各省大臣の権限としている点を批判。かりに人事院による事前承認制を廃止するのであれば、定年前の早期勧奨退職後の特殊法人、独立行政法人、公益法人等への再就職をも含め、広く再就職を審査承認し、斡旋する事務を内閣官房の所管とすることを提案。この措置を実施するだけでも、高級官僚の忠誠心を各省官僚機構から内閣に移す効果がある上、新設される「国家戦略スタッフ」の充実にも役立つと指摘している。
- 早期勧奨退職慣行こそ廃止を/閣議決定で定期異動を数回にわたり一年半周期に
- 将来は国家公務員の定年年齢を65歳にまで引き上げを
さらに提言は、天下りを含め、国民から厳しく批判されている官僚の退職後の再就職問題について「大綱」が抜本的な改善策を講じようとしていない点を批判。
「大綱」が定年前の「早期勧奨退職慣行」を維持しながら、再就職をこれまで以上に「自由化」する方針を打ち出していることに反対し、<1>高級官僚の6割方を52~53歳で退職させる「早期勧奨退職慣行」こそ廃止する方針を打ち出すべきだと主張、<2>そのためにも当面は、全省庁で毎年一度定期的に実施されている人事異動を閣議決定によって1年半周期で実施する方式に改め、これを臨時に数回繰り返すことで在職年限を57~58歳にまで引き上げることを提案している(その場合には、人件費の高騰を招かないように年功序列型の給与体系や年金支給算定方法を是正する)。また、より長期的には、<3>公務員制度調査会が答申したように、国家公務員の定年年齢を65歳にまで引き上げるべきだとしている(天下りについての人事院による事前審査を廃止し、各省大臣の権限に移管する大綱方針に対する反論と対案は上述のとおり)。
- 「キャリア・システム」の廃止に着手を
- 当面はキャリア官僚の「横並び昇任人事慣行」を廃止、ノンキャリアからの抜擢人事拡張を
- 将来はI種、II種を統合、「幹部候補を選抜・育成する新システム」の構築を
- 国家公務員試験合格者を現状の2倍にする方針は撤回を
さらに、提言は、「大綱」が国家公務員試験の合格者を平均して採用予定者のほぼ2倍としている現行方式を平均4倍にまで倍増させる方針を打ち出していることを批判。これでは、試験の魅力が薄れ、有能な人材を官界以外の世界に向かわせるだけでなく、合格者の採用に政治家が介入し、仲介斡旋に励む事例を増やすことになるとして、方針の見直しを提案している。
最後に提言は、「大綱」が現在のI種試験合格者から本省庁が採用した者をキャリア官僚とするこれまでの非公式な人事慣行(キャリア・システム)を今後も引き続き維持しようとし、メスを入れていない点を批判。大卒の多くがII種試験に合格し採用されている現状や、I種試験合格者がその資格で採用されなかったがためにII種試験合格者の資格で採用されている事例まで現れていることを踏まえ、これまでの「キャリア・システム」を維持することは早晩困難になると指摘し、<1>当面はキャリア官僚の「横並び昇任人事慣行」を廃止する一方、ノンキャリア官僚からの抜擢人事を拡張するとともに、<2>現行の「キャリア・システム」そのものの廃止に着手し、将来的には、I種試験とII種試験を統合して一本化しながら、その採用者の中から将来の幹部候補職員を選抜し育成する新しいシステムを構築する方向で早急に検討を始めるべきだとしている。
提言要旨(大綱方針との比較対照表)
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- 1.各省セクショナリズム
(大綱方針)
- <1>人事院が所管する人事管理権を各省大臣に分担管理させ、大臣権限をこれまでの任免権から人事管理権にまで拡張。
(問題点等)
- <1>首相を中心とする内閣主導(政治主導)の実現を阻む各省庁割拠制(セクショナリズム)が今まで以上に強化。
- <2>政治家による官僚人事への介入や、許認可・契約・箇所づけなど個別の行政決定への介入が無制限に広がる恐れ。
(臨調提言)
- <1>官僚の「省庁別採用制」こそ抜本改革すべき。
- <2>官僚の任免権者を分け、政策形成に従事している審議官級以上の高級官僚の人事管理権は内閣総理大臣の権限に移管する。内閣官房に人事担当の「内閣官房政務副長官」と「人事考査室」を新設する(なお、高級官僚の身分は政治任用職ではなく、従来同様一般職とする)。
- <3>個別行政決定に従事する本省庁課長級以下の官僚の任免は従来どおり大臣権限。ただし、この階層に属する官僚の採用や人事異動は従来同様、大臣官房人事担当部局の自律的決定に委ね、大臣・副大臣・政務官も介入しない慣行を堅持。
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- 2.天下りについて
(大綱方針)
- <1>人事院による事前承認制を廃止し、各省大臣の権限とする。
(問題点等)
- <1>天下りを事実上緩和し、自由化につながる恐れ。
- <2>各省セクショナリズムが今まで以上に強化される恐れ。
(臨調提言)
- <1>人事院による事前承認制を廃止するのであれば、各省大臣の権限とするのではなく、本省庁課長級以上の官僚の民間企業への「天下り」をはじめ、定年前の早期勧奨退職後の特殊法人、独立行政法人、公益法人等への再就職をも含め、再就職を審査承認し、斡旋するすべての事務を内閣官房の所管へと移す。
- <2>上記措置は、高級官僚の忠誠心を各省官僚機構から内閣に移す効果がある上、新設される「国家戦略スタッフ」の充実にも役立つ。
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- 3.早期勧奨退職問題について
(大綱方針)
- <1>定年前の「早期勧奨退職慣行」を維持しながら、再就職をこれまで以上に「自由化」する方針を打ち出す。
(問題点等)
- <2>天下りを含め、国民から厳しく批判されている官僚の退職後の再就職問題について、「大綱」が抜本的な改善策を講じようとしていない。
(臨調提言)
- <1>高級官僚の6割方を52~53歳で退職させる「早期勧奨退職慣行」こそ廃止すべき。
- <2>当面は、全省庁で毎年一度定期的に実施されている人事異動を閣議決定によって1年半周期で実施する方式に改める。これを臨時に数回繰り返すことで在職年限を57~58歳にまで引き上げる(ただし、人件費の高騰を招かないように年功序列型の給与体系や年金支給算定方法を是正する)。
- <3>より長期的には、国家公務員の定年年齢を65歳にまで引き上げるべき。
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- 4.採用について
(大綱方針)
- <1>国家公務員試験の合格者が採用予定者のほぼ2倍としている現行方式を平均4倍にまで倍増させる。
(問題点等)
- <1>試験の魅力が薄れ、有能な人材を官界以外の世界に向かわせる。
- <2>合格者の採用に政治家が介入し、仲介斡旋に励む事例が増える恐れ。
(臨調提言)
- <1>平均4倍とする方針の撤回を求める
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- 5.キャリア・システムについて
(大綱方針)
- <1>I種試験合格者から本省庁が採用した者をキャリア官僚とするこれまでの非公式な人事慣行を今後も維持。
(問題点等)
- <1>大卒の多くがII種試験に合格し採用されている現状、I種試験合格者がその資格で採用されなかったがためにII種試験合格者の資格で採用されている事例を踏まえ、これまでの「キャリア・システム」を維持することは早晩難になると判断。
(臨調提言)
- <1>当面はキャリア官僚の「横並び昇任人事慣行」を廃止する一方、ノンキャリア官僚からの抜擢人事を拡張。
- <2>現行の「キャリア・システム」そのものの廃止に着手し、I種試験とII種試験を統合・一本化し、その採用者の中から将来の幹部候補職員を選抜し育成する新しいシステムの構築について早急に検討開始を。
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