提言活動その他の調査研究・提言

新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)・政治倫理の確立と政治腐敗防止に関する緊急提言

2002年4月26日
公益財団法人 日本生産性本部

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経済界、労働界、学識者、ジャーナリストなどで構成する、新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調亀井正夫会長)は26日に記者会見し、「政治倫理の確立と政治腐敗防止に関する緊急提言~政治家と国民との新たな契約」を公表した。提言は、ここ一連の政治スキャンダルにより、「政治家という存在や仕事がある種の胡散臭さとともに語られる」など、「政党政治や代議制民主主義をそのものの信頼性を揺るがしかねない事態」が進行しているとして、日本政治の現状に強い危機感を表明している。

  • 若手議員は政治活動の実態公開を
    その上で、政治腐敗を解決するために規制の強化が叫ばれていることに対し、政治腐敗は構造的な場合が多く、対症療法的な規制の強化は「抜け道探し」など新たな腐敗を誘発したり、本来自由であるはずの政治活動を過剰に制約する危険性もあると指摘。問題の核心は、「国民からすれば、政治家という仕事をまじめに務めあげるためにはどれほどのコストがかかるのか皆目見当がつかないことであり、政治家の側はそのために必要な情報の公開、説明責任をこれまで国民に果たしてこなかった」ことにあるとして、各党の若手議員に対し、かつてリクルート事件の際、ユートピア政治研究会が全政治活動費を公開したように、党派を超えて、<1>政治活動の実態、<2>政治活動にかかる支出(総額と細目)、<3>収入(総額と調達方法)、<4>必要な秘書、政策スタッフ、<5>有権者から持ち込まれる陳情の内容や処理を正直に公開し、悩みを率直に吐露することから始めるべきだとして、「国民の側にボールを投げ返す勇気」を求めている。
  • 衆参議長は会期末までに全国会議員を対象に「政治家と秘書とカネ」の実態調査を
    また、国会は現職の参議院議長が辞職に追い込まれるという前代未聞の事態を深刻に受け止め、<1>衆参両院議長は「政治家と秘書とカネ」の問題について、今国会中に全議員を対象にヒアリング調査を行ない、<2>実態の解明と事態是正にむけたさ改革案を会期末までに報告書の形で国民に示すべきだと提案。情報の共有化をすべての出発点として、「国民と政治家が新たな契約」を結ぶべき時期を迎えていると指摘している。
  • 「政治倫理3原則」「行為規範3原則」の確立を/政治倫理審査会の抜本改革求める
    その上で提言は、今回の一連のスキャンダルでは、日本政治における「政治とカネ」をめぐる問題の根深さ以上に、「政治家と官僚の関係を含め、そもそも政治家は何をし、何をしてはならないかといった、政治家という仕事や政治倫理の基本的な考え方」を再確認することの緊急性が浮き彫りにされたとして、すべての政治家が遵守すべき「政治倫理3原則」と「政治倫理を担保する行為規範3原則」の確立を提案。これを実効あるものとするために、国会の政治倫理審査会を抜本改革することを求めている。
  • 政治資金の透明性確保と政策秘書制の見直しを提言/公認会計士による外部監査を
    さらに提言は、政治という営みが国民から信頼され、政治家の側も誇りをもって日々の活動を行ないうる環境の整備にむけて、「政治家の活動にかかわる既存の諸制度、法律をトータルに見直して、政治活動法のようなものを検討すべき時期を迎えている」と指摘した上で、国民の不信を払拭する上で当面必要と思われる最低限の制度改正として、<1>政治資金の現金授受の禁止と指定口座制の導入、<2>政治資金の受け入れが可能な政党支部を都道府県ごとに一つの支部に制限、<3>政党から組織活動費等の名目で政治家個人に支出されている政治資金はすべて資金管理団体を経由することとし、その使途を政治資金収支報告に記載することを義務づける、<4>資金管理団体分を含め政治家個人の政治資金収支について公認会計士による外部監査を義務づける(そのための経費は国が負担してもよい)、<5>中央と地方とに分かれて報告されている政党、政党支部、政治家の資金管理団体等の政治資金収支報告を一元化し、報告書作成の定型ソフトを国が配布し、電子化してインターネットで公開する、<5>政治家個人に帰属している現在の政策秘書制度を会派単位に帰属させる方向で見直す。立法事務費と政策秘書制度の予算を一元的運用し「会派が抱える政策スタッフ」として再構築する。<6>企業・団体の政治家に対する秘書の派遣は政治献金にあたることを再確認し、「研修名目」での秘書の受け入れを禁止し、収支報告書への記載を義務づける、<7>あっせん利得処罰法の適用範囲に親族・私設秘書を加え、公選法の拡大連座制の規定を参考に「親族・秘書等」とし、その判断は、議員との一体性にもとづいて、裁判所が具体的な事例を通じて判例を積み重ねる。また、犯罪構成要件から「請託」をはずす、―――などを提案している。

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提言要旨

  1. 1.国民と政治家との新たな契約~政治家は説明責任を
    1. 1)若手議員は党派を超えて国民に政治活動の実態の情報開示を
      各党の若手議員は党派を超えて結集し、<1>政治活動の実態、<2>政治活動にかかる支出(総額と細目)、<3>収入(総額と調達方法)、<4>必要な秘書、政策スタッフ、<5>有権者から持ち込まれる陳情の内容や処理方法を正直に公開し、悩みを率直に吐露することから始めるべきだ。「国民の側にボールを投げ返す勇気」が求められている。
    2. 2)衆参両院議長は「政治家と秘書とカネ」の全議員実態調査を
      衆参両院議長は「政治家と秘書とカネ」の問題について、今国会中に全議員を対象にヒアリング調査をおこない、実態の解明と事態是正の改革案を会期末までに報告書の形で国民に示すべきだ。
  2. 2.政治家が遵守すべき政治倫理の基本指針
    1. 1)政治倫理3原則
      第1原則/政治倫理とは、抽象的な訓戒でも一般的な人倫の確認でもない。政治倫理は「政治家の行動を具体的に規律する規範」であり、政治家という職業を遂行する上で遵守すべき「政治家の職業倫理」である。
      第2原則/職業倫理としての政治倫理は、政治家という仕事が「権力を扱い、国の方針を決め、法律をつくり、公的資源の配分を決めること」、この一点を源泉として導き出される。
      第3原則/政治倫理に対する違反は議員同士の監視により維持され、最大限、議院からの「除名」という政治的制裁によって担保される。政治倫理は政治家個人の良心にゆだねられるべきものではない。法律に抵触しているか否かも問わない。議院の自律権を賭けた自浄能力のためのものである。
    2. 2)行為規範3原則
      第1規範/政治家としての職務遂行の独立と公正を損なうような行為、政治家の地位を私的な利益追求に利用するような行為は禁止。
      第2規範/議員としての地位これと密接に関連する政党人等の地位にともなう影響力を行使すること(行使しないこと)にともなう報酬の受領の禁止。この場合、具体的な職務権限をともなうか否かは一切問わない。
      第3規範/国会や党内の審議で個人的な利害関係のある案件の論議や表決に参加する場合は、あらかじめ個人的な利害関係がある旨を必ず表明。
    3. 3)政治倫理審査会の根本改革
      1. <1>政治倫理審査会の開催要件を改正。一定数の要求(たとえば、委員の三分の一または議員50名以上の申し立てがあった場合)があれば開催し、審査を行なう。
      2. <2>政治倫理審査会の構成は与野党同数とし、採決では党議拘束を行なわない。
      3. <3>証人喚問権を付与し、専門の調査スタッフを強化。審査は証人喚問の場合を除き原則秘密会。そのかわり審査会が認定した事実の詳細な報告書の提出を義務づける。認定に至らなかった事実は各意見を記載する。
      4. <4>審査の結果、著しい違反が認められる場合には懲罰委員会に処分勧告する。その際、憲法58条(院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる)の解釈を欧米なみに「国会の権威を傷つけた場合」に拡大解釈する。
  3. 3.国民の信頼を回復するための当面の制度改正
    1. 1)政治資金の現金授受の禁止と指定口座制の導入
      先進国の中で政治資金の現金授受を認めている国は日本のみ。政治資金の透明性を高めるためには、直ちに現金授受を禁止する旨の法改正を行なうべきだ。政治家や政党、資金管理団体などはそれぞれ特定の金融機関の口座を指定し、金の授受はすべて指定した口座を通じてのみ行ない、その違反を罰則の対象とすべきだ。
    2. 2)政治資金受け入れ可能な政党支部の制限
      政治家単位に際限なく設立される政党支部が「第2の財布」として利用され、抜け道となっている。政治資金を受け入れることのできる地域支部の要件を厳格にし、都道府県ごとに一つの支部に対してのみ受け入れを認めるべきだ。
    3. 3)政党から政治家個人に支出される政治資金の報告義務
      現在、「組織活動費」などの名目で政党から政治家個人に対し支出されている政治資金は、すべて資金管理団体を経由することを義務づけ、その使途については政治資金収支報告への記載を義務づけるべきだ。
    4. 4)公認会計士による外部監査の導入
      資金管理団体分を含め政治家個人の政治資金の収支については、公認会計士などによる外部監査を義務づけるべきだ。また、その作業を通じて、政治資金の収支に関する会計制度のあり方を再検討してみる必要がある。なお、公認会計士などに監査を委託する当面の経費については、必要であれば、国庫で一括して負担することも検討されてよい。
    5. 5)収支報告書の一元化とインターネットによる情報開示
      中央分と地方分とに分かれて報告されている政党、政党支部、政治家の資金管理団体などの政治資金収支報告を一元化すべきだ。また、国は報告書作成用の定型ソフトを配布し、その利用を義務づけ、電子化を進め、インターネットを通じて国民に情報開示すべきだ。
    6. 6)政策秘書制度と公的助成制度の見直し
      政治家個人に帰属させる現行の政策秘書制度はいったん廃止し、会派単位に帰属させる方向で制度そのものの見直しを進める。その際、<1>「政党助成金の二重取り」との批判も強い立法事務費を会派の政策活動費に純化し、<2>立法事務費と政策秘書制度の予算を一元的に運用し、「会派が抱える政策スタッフ制度」として再構築すべきだ。
    7. 7)企業・団体による派遣秘書等の報告義務
      企業・団体からの秘書や運転手、自動車、事務所などの提供が経費の肩代わりとしての政治献金にあたることを再確認し、研修名目での秘書の受け入れは禁止し、収支報告書への記載を義務づけるべきだ。その際、ボランティアやインターンシップなど有権者の積極的な政治参加を妨げない制度的な配慮がなされる必要がある。
    8. 8)あっせん利得処罰法の適用拡大
      あっせん利得処罰法の適用範囲を私設秘書や親族にまで拡大する。公選法拡大連座制における「組織的管理者等」の規定を援用して対象を「親族・秘書等」とし、その判断は議員との一体性との関係にもとづいて裁判所が具体的な事例を通じて判例を積み重ねる。また、犯罪の構成要件については、「請託」を現行法からはずすべきだ。