提言活動その他の調査研究・提言

新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)・憲法・基本法制改革の第2回中間報告(国の統治機構分野)

2002年2月28日
公益財団法人 日本生産性本部

調査研究・提言活動 資料ダウンロード

経済界、労働界、学識者、ジャーナリストなど各界で構成する「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調 亀井正夫会長)は28日に記者会見し、先週公表した「外交・安全保障分野」に続き、憲法・基本法制改革に関する中間報告の第2弾として「国の統治機構分野」の改革構想を公表した。臨調では来週以降、中間報告の第3弾として「国民の権利と義務分野」の改革構想を公表。本年5月の憲法記念日にむけて4月中にも全分野を網羅した中間的な論点整理を公表する。また、国会の憲法調査会の場でも分野別の分科会を設けて検討を始めていることから、同調査会に報告書を提出するとともに、各政党に対し提言を手渡し検討を要請する。

21世紀臨調は平成11年末の発足以来、憲法を専門としないごく普通の人々の視点に立った新しい議論の土俵を構築する必要があるとして、<1>検討の場に絶対に護憲であるとか改憲であるとかの先入観や抜きがたい相互不信、特定のイデオロギー等は持ち込まない。<2>憲法の逐条的な検討からは入らない。<3>21世紀初頭の四半世紀先を念頭に中長期的な日本の基本法制、政策上の課題を明らかにする。その過程で、現憲法の可能性と限界双方を検討し、現憲法下で直ちに取り組むべき基本法制上の改革=「立法改革」(制度の運用や政策の見直しを含む)と憲法の見直しを視野に入れて検討することが妥当な「憲法成文上の改正」とを包括的に示す、以上3つの方針にもとづいて検討を進めてきた。

憲法・基本法制改革は臨調内に設置された「国の基本法制検討会議」(代表=赤澤璋一、西尾勝)が担当。さらに同会議内に「外交・安全保障・危機管理」(部会長=森本敏・拓殖大学教授)「国の統治機構」(部会長=西尾勝・国際基督教大学教授)、「国民の権利と義務」(部会長=福川伸次・電通総研研究所長、草野忠義・連合事務局長)の3部会を編成し、延べ80回の会合を重ねてきた。今回公表する提言は「国の統治機構部会」が担当した。同会議のメンバーと提言要旨は以下のとおり。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

国の基本法制検討会議

メンバー

代表

赤澤璋一(世界平和研究所副会長)、

代表

西尾勝(国際基督教大学教授)

<1>外交・安全保障・危機管理に関する検討部会

部会長

森本敏(拓殖大学教授)

<2>国の統治機構に関する検討部会

部会長

西尾勝(国際基督教大学教授)

<3>国民の権利と義務に関する検討部会

部会長

福川伸次(電通総研研究所長)、草野忠義(連合事務局長)

相澤光江(弁護士)、安藤俊裕(日経新聞論説委員)、岩井奉信(日本大学教授)、上島一泰(元日本青年会議所会頭)、宇治敏彦(東京新聞論説主幹)、牛尾治朗(ウシオ電機会長)、金子仁洋(桐蔭横浜大学教授)、北岡伸一(東京大学教授)、岸井成格(毎日新聞役員待遇編集委員)、木全ミツ(前イオンフォレスト相談役)、島脩(帝京大学教授・元読売新聞専務取締役編集局長)、島田晴雄(慶応大学教授)、曽根泰教(慶応大学教授)、飛田寿一(共同通信論説副委員長)、成田憲彦(駿河台大学法学部長)、花岡信昭(産経新聞論説副委員長)

注)3部会には、各部会長を中心に上記委員が自由に参加。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

国の統治機構分野に関する提言要旨

  1. (1)基本理念

    国の統治機構の改革にあたっては、<1>政治・行政・司法の仕組みを国民(住民)にとってよりわかりやすいものに再構築し、国民の政治参加を促進すること。<2>政治の仕組みを政権交代が可能なものにし、国民の政治的無力感を解消すること。<3>選挙で勝利した政党とその党首が各省庁の官僚機構を完全に統制し、その政策綱領の具体化と実施を確実にして民意に基づく政治を貫徹できる仕組みを構築すること。以上を基本理念とし、国と地方の政治・行政を明確に分離する「地方分権改革」と、政党(政党政治家)と官僚機構(職業行政官)の関係を再構築し政治主導(=内閣主導)体制を確立する「議院内閣制度改革」を推進することが求められる。

  2. (2)現憲法下における課題/地方分権改革
    1. 1.税財源の構造改革

      自己決定・自己責任の原則を地方税財政の領域にまで貫徹させるため、財政構造改革に際し、<1>国庫補助負担金の大幅な整理合理化の実施と、<2>国税と地方税の双方を包括した抜本的な税制改革を断行し、<3>安定的で偏在性の少ない地方税制の確立と自主課税権の強化、地方交付税制度の改革を進める必要がある。

    2. 2.自治事務に対する法令等による規制の緩和

      地方公共団体の自治権をさらに大幅に拡充するためには、地方公共団体の自治事務に対する国の法令等(法律・政令・省令・告示)による枠づけや義務づけを緩和する必要がある。これは、地方財政計画上の所要財源の算定を見直し、地方交付税総額の減額をはかるためにも不可欠の前提条件である。

    3. 3.自治体の政治的枠組みに対する画一的な制度規制の緩和

      住民自治を拡充するためにも、現在の地方自治法による地方公共団体の政治の仕組みに対する画一的な規制の緩和を検討すべきである。

    4. 4.道州制等への移行を念頭においた「地方庁」の創設

      国と地方公共団体の役割分担を見直し、国の事務事業の都道府県以下に移譲し国の官僚機構を身軽にする必要がある。仮にそれが思うように進まない場合には、次善の方策として、<1>国の各府省の事務を企画調整事務と実施事務とに分離する方策を徹底し、<2>中央の府省には企画調整事務のみを残し、実施事務はすべて「地方庁」(全国を11程度に分割した地方ブロック単位に新設する国の府省の総合出先機関)に分散する方策を検討する必要がある。また将来的には、<3>当該地域住民の請求に基づいて、管区内の都道府県と地方庁を統合し「道州制」または「連邦制」に移行するための一里塚とすることについても真剣に検討する必要がある。

    5. 5.地方自治特別法制度の活用~「一国多制度」への移行~

      北海道や沖縄県のように独自の歴史的沿革をもつ自治体は、憲法第95条の「地方自治特別法制度」を活用し、他の都府県に先駆けて自治権の特例的な拡充を求め「一国多制度」に移行する方策を検討すべきである。

    6. 6.地方自治基本法の検討

      分権改革を推進し、その成果を将来にわたって確実に保障する手立てとして、憲法第8章第92条の「地方自治の本旨」を具体化する趣旨の「地方自治基本法」の制定を検討する必要がある。

  3. (2)現憲法下における課題/議院内閣制度改革

    先の内閣法の改正により、国民主権→国会→内閣→各省大臣→各省庁が一本の縦糸でつながる上下の関係になることが明確になり、これまで官界に支配的であった国会と内閣を対等・並立の関係とみる三権分立制的な考え方は明確に修正された。日本の政治を議院内閣制本来の姿に近づけるためには、この考え方を徹底し、政治主導とは「首相を中心とする内閣主導」であることを制度・運用の双方で確立する必要がある。

    1. 1.選挙制度改革~将来的な「単純小選挙区制」への移行

      当面においては、現行の小選挙区比例代表並立制の下で総選挙を繰り返し、政界再編成の道を模索すべきではあるが、将来的には、民意の変化を鋭敏に反映した政権交代の可能性を高める観点から「単純小選挙区制」に改める必要がある。

    2. 2.責任ある内閣運営の実現と与党との関係の見直し(内閣一元)

      日本の議院内閣制度を改革するためには、<1>内閣総理大臣に閣議への発議権を認め、内閣官房を強化し、経済財政諮問会議を新設するなど、「各省大臣の分担管理の原則」を緩和し首相を中心とする内閣主導体制を強化する目的で採用された諸施策を所期の目的どおりに運用すること。<2>内閣と与党機関とを分立させ、与党機関が内閣提出法案を事前審査・承認してきた従来までの政治慣行を改め、与党幹部を国務大臣等に任命して内閣のなかに組み入れ、閣議等における審議決定を実質化し、内閣と与党の政治方針の一元化(内閣一元)をはかること。<3>内閣を中核とする「政権」に参画していない与党議員との意見調整は、内閣を構成する国務大臣や副大臣・大臣政務官等の立場で「政権」に参画している政治任用職の任務とすること。<4>各省庁に配置された大臣・副大臣・大臣政務官は一意同心のチームとして編成され、各省庁の政策決定の中枢機関として機能させること。<5>内閣総理大臣をはじめ国務大臣の任期を衆議員の任期と一致させる政治慣行を確立すること。そのためにも、政党の党首の任期は原則として次の総選挙までとする政治慣行を確立し、あわせて同一の内閣総理大臣の下で内閣改造を頻繁に行う政治慣行を廃止する必要がある。

    3. 3.新しい政官ルールと国家公務員制度の改革

      現在、人事院の人事管理権を縮小し、これを各府省大臣に移すことを眼目とする公務員制度の改革構想が進められている。しかし、これでは、各府省の割拠体制を緩和するどころか、これを強化してしまうおそれが強い。
      むしろ、首相を中心にした内閣主導の体制をさらに一層強固なものにし、各府省の割拠体制を緩和するためには、<1>各府省の審議官級以上の高級官僚についてはその任免権を各省大臣から内閣総理大臣に移管し、高級官僚の忠誠の対象を各府省の官僚機構から内閣に向けさせるとともに、現職の官僚を内閣に直属する国家戦略スタッフとして活用しやすくする必要がある。
      同時に、<2>各府省の課長級以下の行政員の任免については、従来どおり各府省官僚機構の自律的な判断に委ね、各省大臣以下の政治任用職はこれに介入しない政治慣行を確立する必要がある。また、<3>政治主導の確立とあわせて、大臣以下の政治任命職や与党議員などの政治家が、許認可、契約、事業の箇所づけなど職業行政官の専管領域に属する個別の行政決定には介入してはならないことを明確にするなど、政治と行政の「分離の規範」と両立するための措置を講じる必要がある。

    4. 4.国会改革~読会制と逐条審議の導入

      衆議院においては、<1>党首討論制や政府委員の廃止など、政治主導体制の確立にむけて、進められてきたこれまでの試みをさらに成熟させるとともに、<2>委員会審査における「読会制」と「逐条審議制」を導入する方向で検討を深める必要がある。<3>また、参議院については、政党化を完全に避けることはできないにしても、議案の審議・表決については党議拘束をしない政治慣行を確立する等の見直しが必要であるが、後述するように、参議院のあり方については憲法改正論議の中で検討を行うことはもはや避けられない。

    5. 5.政党の党議拘束の見直し

      政党の党議拘束についても、<1>党の綱領、総選挙に際して国民に提示した政策綱領等に掲げた事項以外は、原則として党議拘束の対象外とし、党議拘束の対象とする事項はそのつど個々に決定すること。<2>かりに党議拘束をする場合でも、それは本会議における最終表決にあたって投票行動の統一をはかるためのものに限定し、これに先立つ委員会審査等においては、議員個々人の活動の自由を保障すべきである。

  4. (3)憲法改正を視野に入れた基本法制改革
    1. 1.憲法改正手続の法制化~「憲法改正手続き法」の制定

      現行憲法第9章に定める憲法改正手続は、「憲法改正草案の発案権は内閣にもあるのか否か」「憲法改正は各議院の総議員の三分の二以上の賛成でこれを発議するとされているが、この総議員とは法定数在職議員数か」「国民投票の過半数の賛成を要するとされているが、この過半数とは投票総数の過半数なのか有効投票の過半数なのか」が不明であるなど、改正手続が定まっていない。今後の憲法論議を真剣なものにするためにも、国会憲法改正草案の起草や憲法改正の是非に関する論議に先立ち、<1>憲法改正手続をめぐる憲法解釈を明確にし、<2>国会における憲法改正発議の手続とこれに続く国民投票の手続を包括した「憲法改正手続法」(仮称)を制定すべきである。

    2. 2.「政党条項」と「政治家と官僚の役割分担」に関する憲法条項の創設

      現代国家の代表制デモクラシーにおいては政党と官僚機構こそが政治権力の実質的な担い手であり、国会と内閣の関係以上に政党(政党政治家)と官僚機構(職業行政官)の役割分担と協働関係をどのように規律するかが決定的に重要である。しかしながら、現行憲法には政党に関する条項が皆無である。また、現行憲法第15条の公務員に関する条項は、選挙で選ばれる「特別職公務員」と資格に基づいて任用される「一般職公務員」の双方を包括した条項になっており、政党(政党政治家)と官僚機構(職業行政官)のそれぞれに固有の役割が明示されていない。
      そこで、憲法を改正する際には、<1>政党を代表制デモクラシーを作動させるために不可欠の組織として公認するとともに、その政治賃金についての情報公開の義務づけなど最小限の規制を加える「政党条項」を設けること。<3>「政党政治家と職業行政官の役割分担の明確化」に関する条項を定めるべきである。

    3. 3.国会「会期制」の廃止

      国会改革を憲法改正まで視野に入れて考えた場合、まず見直す必要があるのは、国会の会期制である。国会はその時々の国政上の課題に機動的に対応するために常時開かれている方が望ましい。当面は「会期不継続原則」を廃止するとともに、憲法改正にあたっては国会の「会期制を廃止」し通年国会を実現する必要がある。

    4. 4.参議院制度の改革

      議院内閣制度の制度原理をさらに一段と明確にするためには、現行憲法に定められている二院制に改正を加え、参議院の第二院的性格の明確化が望まれる。そのためには、<1>憲法条文において、内閣総理大臣は国会議員の中からではなく衆議院議員の中から指名するものとし、参議院は内閣総理大臣の指名に関与しないことを明記すること。<2>憲法改正の発議は衆議院のみの権能とするか、あるいは参議院においては出席議員の過半数の賛成で足りることとすること。<3>参議院に特有の任務に係る法律案の場合を除き、衆議院による再議の要件を緩和すること。<4>参議院に特有の任務は、国と地方公共団体の関係を監視しこれを「地方自治の本旨」に基づくものに改善し維持することに置き、参議院議員は地方公共団体の立場と利益を代表する者から選任すること。
      たとえば、現行の地方自治制度を前提にすれば、各都道府県ごとに都道府県・市・町・村の利益を代表する者をそれぞれ一名選任する。その選任方法については検討を必要とするが、いずれにしろ、地方公共団体の首長と議員による間接選挙を基本とし、国民による直接公選にこだわらないものとする。

    5. 5.司法制度改革

      立法権・行政権と司法権の関係では、最高裁判所とは別に憲法裁判所を設置し憲法訴訟に抽象的規範統制訴訟を導入することの是非、最高裁判所裁判官の国民審査制の是非、普通裁判所とは別に特別裁判所として行政裁判所、労働裁判所などを設置することの是非、また内閣法制局に内閣の憲法解釈に関する統一見解を表明させてきた従来の政治慣行の是非などの重要問題がある。これらについては、司法制度改革の行方に注目しつつ引き続き検討をおこなう。