新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)・憲法・基本法制改革の第1回中間報告(外交・安全保障分野)
2002年2月22日
公益財団法人 日本生産性本部
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経済界、労働界、学識者、ジャーナリストなど各界で構成する「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調 亀井正夫会長)は22日に記者会見し、平成11年秋の発足以来、約2年半をかけて検討を続けてきた憲法・基本法制改革に関する中間報告のとりまとめ作業に入ったことを明らかにし、その第一弾として外交・安全保障分野の改革を公表した。
今後、21世紀臨調は毎週1回のペースで「国の統治機構」「国民の権利・義務」に関する提言を公表し、本年5月の憲法記念日にむけて4月中にも全分野を網羅した中間的な論点整理を公表する。また、国会の憲法調査会の場でも分野別の分科会を設けて検討を始めていることから、同調査会に報告書を提出するとともに、各政党に対し提言を手渡し検討を要請する予定。
- 憲法を専門としないごく普通の国民が共有できる議論の土俵を
- 新しい憲法論議は現憲法下の「立法改革」と「憲法成文上の改正」の両輪で
21世紀臨調が憲法・基本法制改革の検討を進めてきたのは、日本が歴史的な変革期に直面し、国会に憲法調査会が設置されるなど、国の骨格を決める憲法や基本法制についても根本に立ち戻った検討が求められているにもかかわらず、専門家同士の議論や、一般には縁遠い逐条的な論争はあっても、すべての国民が共有しうる議論の土俵はいまだにつくられていないとの判断から。
このため臨調では、憲法論議を進めるにあたっては、憲法を専門としないごく普通の人々の視点に立った新しい議論の土俵を構築する必要があるとして、<1>検討の場に絶対に護憲であるとか改憲であるとかの先入観や抜きがたい相互不信、特定のイデオロギー等は持ち込まない。<2>憲法の逐条的な検討からは入らない。<3>21世紀初頭の四半世紀先を念頭に中長期的な日本の基本法制、政策上の課題を明らかにする。その過程で、現憲法の可能性と限界双方を検討し、現憲法下で直ちに取り組むべき基本法制上の改革=「立法改革」(制度の運用や政策の見直しを含む)と憲法の見直しを視野に入れて検討することが妥当な「憲法成文上の改正」とを包括的に示す必要があると指摘。
臨調自身も上記3つの方針にもとづいて「国の基本法制検討会議」(代表=赤澤璋一、西尾勝)を設置。さらに同会議内に「外交・安全保障・危機管理」(部会長=森本敏・拓殖大学教授)「国の統治機構~国会、内閣、司法、地方自治」(部会長=西尾勝・国際基督教大学教授)、「国民の権利と義務」(部会長=福川伸次・電通総研研究所長、草野忠義・連合事務局長)の3部会を編成し、延べ80回の会合を開催し、検討を重ねてきた。なお、各部会の検討メンバーは経済界、労働界、学識者、ジャーナリストで構成され、憲法を専門とする者はあえて加えていない。
- 新たなガバナンスの確立が改革の核心課題
- 小泉首相は「改革10年」の決意を/憲法論議は次の時代を担う若い政治家の手で
今回、臨調がとりまとめつつある中間報告(外交・安全保障から統治機構、国民の権利義務に至る各分野)は、この数十年の世界と日本の変化を念頭におきながら、日本、日本人の潜在能力を引き出し、克己心と活力にあふれた社会をつくりあげること、そのためには、国家や個人生活におけるリスクの増加やその質的な変化を組み込みながら、「いかにして新しいガバナンスを確立するか」という問題意識に貫かれている。
臨調はこうした国の基本にかかわる根本改革に取り組むためには政治のリーダーシップが不可欠であるとして、小泉首相は「この国の骨格を変える」という信念のもと、数代の内閣に改革を引き継いでいく「改革10年」の決意を表明する必要があると指摘。また、「政治に国家を考える若い力が求められている」として、憲法・基本法制改革は次の時代を担う若い政治家が党派を超えて担うべきだと提案している。なお、国の基本法制検討会議のメンバー、今回公表した外交・安全保障分野の提言の要旨は次のとおり。
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国の基本法制検討会議
メンバー
代表
赤澤璋一(世界平和研究所副会長)、
代表
西尾勝(国際基督教大学教授)
<1>外交・安全保障・危機管理に関する検討部会
部会長
森本敏(拓殖大学教授)
<2>国の統治機構に関する検討部会
部会長
西尾勝(国際基督教大学教授)
<3>国民の権利と義務に関する検討部会
部会長
福川伸次(電通総研研究所長)、草野忠義(連合事務局長)
相澤光江(弁護士)、安藤俊裕(日経新聞論説委員)、岩井奉信(日本大学教授)、上島一泰(元日本青年会議所会頭)、宇治敏彦(東京新聞論説主幹)、牛尾治朗(ウシオ電機会長)、金子仁洋(桐蔭横浜大学教授)、北岡伸一(東大学教授)、岸井成格(毎日新聞役員待遇編集委員)、木全ミツ(前イオンフォレスト相談役)、島脩(帝京大学教授・元読売新聞専務取締役編集局長)、島田晴雄(慶応大学教授)、曽根泰教(慶応大学教授)、飛田寿一(共同通信論説副委員長)、成田憲彦(駿河台大学法学部長)、花岡信昭(産経新聞論説副委員長)
注)3部会には、各部会長を中心に上記委員が自由に参加。
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外交・安全保障・危機管理に関する提言要旨
- 1.日本の国力と国家像
日本が将来の国家像を描く場合、目標として掲げるべき国家像と同時に、それを実現するに必要な国力がどの程度あるのかについての推測と冷静な議論が必要となる。21世紀初頭の四半世紀における日本の国力を想定した場合、軍事的にも経済的にも大国とはなり得ず、かといって、経済的な小国にもなり得ない日本がとるべき選択肢はそう多くない。すなわち、
- <1>人間の知恵を基礎とした政治力の面で東アジアの諸国に信頼され、その役割を向上させるとともに、
- <2>経済面においては効率的な経済活動が可能な国づくりをめざし、
- <3>社会のあり方においては、文化・芸術を大切にし、豊かで清潔で、自然と共生する、快適かつ安心な「克己心にあふれた品格と魅力ある国」となることが求められる。日本は将来にむけて、こうした「ソフトパワー」(文化、理念、情報・科学技術、制度の魅力)の価値を重視した戦略を国づくりの基礎とすべきである。
- 2.現憲法下における課題
- <1>国益の検討と「国家戦略諮問会議」の設置
日本が前述した国家像を目標として国家のあり方を模索する場合、最も重要なのは、日本の国家としての戦略を構築し、日本の「国益」とは何かについての検討を開始することである。戦後日本の最大の欠陥は戦略的思考の欠如に尽きる。そのことが、日本がいかなる国として存在しようとしているのかを不透明にし、アジア諸国から不安感をもたれる要因となってきた。しかも、そのことについて日本人はいまだに十分認識していない。
そこで、内閣府に内閣総理大臣を議長とする常設の「国家戦略諮問会議」を設置し、この問題についての本格的な検討を開始する必要がある。諮問会議は、<1>「国益」の定義と「国家の存立と安全にかかわる中長期の戦略と基本方針」を策定し、<2>その上位方針にもとづいて中長期的な外交、安全保障、防衛政策、資源・エネルギー、食糧等の安保政策を立案する。<3>その構成は内閣総理大臣を議長に官房長官、関係閣僚、民間有識者など10数名程度とし、<4>民間有識者は常勤とし独立の事務局を設置することが適当と思われる。
なお、国家戦略諮問会議はすでに活動している経済財政諮問会議と相まって活動し、経済財政諮問会議の活動の基礎を与えるような、より長期的な国の存立と安全にかかわる運営指針の策定を任務とすべきである。 - <2>安全保障基本法の策定と危機管理体制の確立
現憲法下で国家としての安全保障を一貫性のある法体系のもとに実行するためには、「安全保障基本法」を制定するとともに、これにもとづいて国家の緊急事態(紛争、内乱、間接侵略、大規模なテロ・騒擾、大規模災害・事変など)に対処するための個別法制ならびに、有事(自衛隊法第76条にもとづく防衛出動が下されるような事態)に対処するための有事法制を体系的に整備する必要がある。現在日本は戦後初めて有事に対応する法体系の整備を進めているが、さまざまな法律がそのときどきの情勢でその都度立案される現状は好ましくない。あらゆる立法のベースとなり、既存の法体系を包括する基本法が求められる。
基本法には、事態の設定、宣言等、必要な権限、権利義務等、その他基本的事項を定めることとし、<1>安全保障の定義・目的。<2>内閣総理大臣が国家の安全保障に関し最高の責任と権限を有するなど「内閣総理大臣の責任と権限」の明示。<3>内閣総理大臣が安全保障に関する報告を国会に行なうことを義務づけることや、文民統制の考え方などの「政府と立法府の関係」の明確化。<4>内閣総理大臣は緊急事態が宣言された場合、最小限必要とされる範囲内で、国民の権利や自由の一部を制約するとともに、国民に対し土地、財産、物資等の収用や使用、役務や便宜の供与、提供など必要な協力と支援を求めることができる旨を定めるなど「国民の権利・義務」にかかわる規定。<5>自衛隊が国連活動や同盟国との活動に参加・協力する場合の指針などを盛り込む必要がある。また、基本法制定にあたっては、<6>国際社会に対する参加
協力や同盟国に対する協力・支援に関する基本要領、<7>または、同基本法にもとづいて個別法制を整備するための実施要領も示される必要があろう。
なお、大規模地震や火山爆発などの頻発は日本が地震の活動期に入ったと見られる兆候であり、同基本法にもとづき、国家の非常事態に対応するための危機管理上の個別法制(例えば、非常事態法など)を含む必要な国内体制を同時に整備する必要がある。 - <3>国連平和創生活動、「人間の安全保障」活動への参加とODA戦略の再構築
日本の外交戦略は従来から重点と優先順位が必ずしも明確ではなかった。日本が国際社会に貢献すべき最も重要な分野は途上国の開発と紛争予防である。これにともなう諸問題(難民、民族・宗教対立、領有権問題、疾病、貧困、人口、食糧・エネルギー、兵器拡散、テロ、麻薬など)の解決に取り組み、多国間協力を促進することである。
そのためにも日本は、国連の平和創生活動(PEACE MAKING)や人間の安全保障(HUMAN SECURITY)のための活動に対しては、他の先進国と同様の役割と機能をそのときどきの国益を勘案しつつ必要に応じて果たすことができるようにすべきであり、これを、「安全保障基本法」において規定すべきである。
また、日本は非軍事的な分野で国際社会に貢献することが求められる。国連分担金拠出を含む国連活動、ODAの定義や戦略を根本から見直し、途上地域の「開発と紛争予防」や「人間の安全保障」のための活動にこれらを活用し、国際社会においてイニシアティブをとるための理論と政策を抜本的に構築する必要がある。これを「国家戦略諮問会議」で立案すべきである。 - <4>「日米戦略会議」の創設~日米同盟と防衛戦略の見直し
日本にとって最も重要な二国間関係の一つである日米関係については、日米の同盟関係を充実し、政策面での協議を緊密化するため、政府レベルと民間レベルの双方に「日米戦略会議」(仮称)を設置する必要がある。日米戦略会議は21世紀初頭のアジア情勢を評価・分析し、アジア・太平洋の平和と安全を維持するため、日米同盟のあり方の見直しをおこない、日米間で果たすべき安全保障・防衛面での役割と任務の分担について再検討を行なう。必要に応じて日米安保条約および日米地位協定の改定も検討する。また、朝鮮半島統一を念頭においた日・米・韓の緊密な防衛協力を推進することは、北東アジア全体の平和と安定に不可欠の要件であり、日・米・韓の政府と民間レベルの双方で半島統一後の米軍兵力構成のあり方に関する協議を開始する必要がある。
- <5>ITの活用と国家情報機関の創設
日本は情報収集はもとより、分析・評価した情報を国家として総合的に活用する体制ができていない。このような情報機能を国家として整備するためには国家情報機関を設立し、IT革命の活用をはかるための体制を整える必要がある。
- <1>国益の検討と「国家戦略諮問会議」の設置
- 3.憲法改正を視野に入れた基本法制改革
- <1>緊急事態に関する規定の創設
当面は安全保障基本法で対処するものの、本来的には、憲法上に「緊急事態に関する規定」があることが望ましい。憲法が改正される際には、国家の有事あるいは緊急事態に関する規定とその際の「国民の権利・義務」を明確にする規定を設ける必要がある。
- <2>集団的自衛権をめぐる憲法条項の検討
テロ特別措置法は従来、憲法解釈上、武力行使の一体化として扱われてきた分野の活動をほとんど可能にしたという意味において、これにより現行憲法枠でなしうることは限界に達したと言える。すなわち、これ以上の活動を行うためには、憲法の改正問題に取り組む必要が出てきたということになる。今後は今般のテロ特措法にもとづいて行なった自衛隊の諸活動を十分に検討し、憲法論議の方向づけを行う必要がある。
他方、集団的自衛権問題が憲法上の改正を必要とするとしても、それ以前に、現行憲法下で日本がやるべきこと、あるいは、やれることがあることにも着目すべきである。例えば、米国が今後、アジア諸国と多国間での緊急対応合同部隊を編成し訓練する場合に、日本がそのような部隊に参加し、協力することは集団的自衛権問題とは言えない。日本が多国籍軍に対し、その領域外で輸送・補給などの後方活動に従事することも、集団的自衛権の問題ではない。このように、日本が国際社会やアジア・太平洋地域の安全保障のために役割を果たしうる分野は広く、その可能性を再検討する必要がある。集団的自衛権問題はそれから後に来る問題である。
- <1>緊急事態に関する規定の創設