「買い換え」から「使い続け」へ 2022年度第6回生産性シンポジウム開催報告(2023年3月10日)
「ビジネスで創る循環経済社会~資源生産性向上とサーキュラーエコノミー」をテーマに、2022年度第6回生産性シンポジウムが3月10日、オンラインで開かれた。NPO法人産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎氏が基調講演・問題提起し、「買い換え」から「使い続け」のビジネスモデルへの転換が、循環経済社会を創る本質であるとの考えを示した。
DX・GX進め、資源生産性向上を
「生産性シンポジウム」は、「生産性」を軸に、経済社会の様々な分野について積極的に問題提起や世論喚起を行うことを目的に、経済界、労働界、学識者など各界の有識者が議論・発信する取り組みだ。
2022年度第6回の生産性シンポジウムでは、サーキュラーエコノミー(循環経済)をテーマに取り上げた。まず、喜多川和典 日本生産性本部エコマネジメントセンター長が「欧州のCE動向と資源生産性の向上」と題し、基調報告・問題提起を行った。
喜多川氏は、サーキュラーエコノミー(CE)への移行を進める欧州連合(EU)で、多くの法制度を抜本改革している現状を報告した。その中で、2022年3月に法案が公表された「エコデザイン規則」について、製品使用時のエネルギー効率から、循環利用型製品設計にも焦点を当てた法案であり、目玉政策として注目されていることを紹介した。
エコデザイン規則法案の第8条に盛り込まれている「デジタルプロダクトパスポート」は、市場に投入される製品が持続可能なものになるよう、製品の製造元や使用材料、リサイクル性などの情報を製品ライフサイクル上で共有する内容。実現に向けて様々な課題があり、国内の産業界でも賛否が分かれているという。
喜多川氏は「資源の効率的かつ最大限の利活用、使用済み製品は再び製品に戻す、資源効率性と3Rの推進による競争力強化と雇用の創出に取り組む時期が到来しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)&GX(グリーントランスフォーメーション)による資源生産性の向上が重要になる」と述べた。
続いて、妹尾氏が講演し、「買い換え」から「使い続け」へのビジネスモデルへの転換が、海外ではすでに進み始めているとの見方を示した上で、具体的なケースと、その意義などについて説明した。
妹尾氏は「アップルのスマートフォンは、iPhone13から14にモデルチェンジした時に機能がほとんど変わっていないと言われたが、実はアーキテクチャーは修理しやすいように大きく変わっている」と話した。
こうした動きは、「モノづくり」の変容を示しており、過去の「大量生産・大量消費・大量廃棄」から、現在は「適時適量生産・適切消費・適切廃棄」へ変わっているが、さらに、未来は「極小生産・適小消費・無廃棄」の資源循環経済へと移行するとの見方を示した。
このほか、モノは事業資源としての枯渇と環境汚染源としての糾弾という二つの現実に直面しており、資源消費を最小限にとどめる「資源生産性」の重要性が高まっていると指摘した。
妹尾氏は「サーキュラーエコノミーの基本は、モノ資源とエネ資源を、情報資源の活用により効率的に、スローに循環させることであり、『買い換え』から『使い続け』への転換が求められている」と繰り返し述べた。
パネルディスカッション「サーキュラーエコノミー時代のビジネス」
「脱成長の繁栄」めざし
第6回生産性シンポジウムの第2部では「サーキュラーエコノミー時代のビジネス」をテーマにパネルディスカッションが行われた。オフィスバスターズ代表取締役会長の天野太郎氏と、日清食品ホールディングス取締役・CSO兼常務執行役員の横山之雄氏、旭化成顧問(前代表取締役副社長CTO)の高山茂樹氏、妹尾堅一郎氏が登壇し、清水きよみ・日本生産性本部SDGs推進室長が進行役を務めた。
もうけを度外視「まず始める」 オフィスバスターズ
オフィスバスターズは、オフィス家具やOA機器、資源物全般の買い取りや、中古・新品の販売などを手がけている。「働く場所、ワークプレイスからのサーキュラーエコノミー」を掲げ、「いいものを長く、多品種使うことを大前提に、サーキュラーバリューの追求」をめざしている。
同社は、リユース(中古品の売買のプラットフォーム)、レンタル(必要な時に必要なものをレンタルできるようにする)、リサイクル(不要物の資源も再利用する)、シェア(ユーザー間でもシェアできるようにする)、リデュース(いっときの判断で簡単に廃棄されないようにする)、ストレージ(再利用に備えて保管する)、サブスクリプション(レンタルの発展形)に取り組む。
具体的には、法人資産の買取り・廃棄・再利用販売レイアウト設計などを手掛けるオフィスバスターズをはじめ、リサイクル、回収・分別・分解、製造・預かり保管、レンタルの各分野で、それぞれの関連会社がサービスを担っている。
天野氏は「もうかるか、もうからないかを度外視して、まずはサービスを始め、価値をつけて、もうかるように進化させていくことを意識している」と話す。
この15年で、ワークプレイスに対する企業の意識は大きく変わったという。具体的には、2008年のリーマン・ショックを機に企業は経費削減意識を高め、2011年の東日本大震災で「モノの大切さ」を痛感した。また、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界的な危機を経験したことで、地球環境問題に対する意識が高まった。2022年に勃発したウクライナショックでは先行きの不確実性が増し、サプライチェーンや資源エネルギー問題、持続可能性などについて深く考えるようになった。
天野氏は「ワークプレイスはフレキシブル、サステナブルにすることが重要であり、最も身近なワークプレイスからサーキュラーエコノミーを実現することに対する意識が高まっている」と話す。
新時代のビジネスとして求められる考え方としては「サーキュラーしているモノの方が、ヴァージンよりも面白く、消費者に『高く買っても良い』と思ってもらえるような『サーキュラー顧客価値』を作っていくことが重要だ」と話した。
お椀で食べるカップヌードル 日清食品
日清食品ホールディングスでは、CSV経営における中長期成長ストーリーに向け、既存事業のキャッシュ創出力強化、新規事業の推進とともに、環境戦略の「アース・フード・チャレンジ2030」を掲げる。
資源の有効活用へのチャレンジとして、地球に優しい調達(持続可能なパーム油調達比率100%)、地球資源の節約(売上100万円あたりの水の使用量12.3立方メートル)、ごみのない地球(生産過程の再資源化率99.5%以上、販売・流通過程の廃棄物を半減)をめざしている。
気候変動問題へのチャレンジとしては、「グリーンな電力で作る、グリーンな食材で作る、グリーンな包材で届ける」を目標に掲げる。
そして、資源循環の取り組みの一例として、カップヌードルの容器包装の石化由来プラスチックの削減を挙げる。フタ止めシールの廃止によってカップ部分のプラ使用量を減らし、リフィルシリーズの投入によってカップ部分を繰り返し使用し、お椀で食べるカップヌードルで食品と容器の「デカップリング」を進めている。
食品廃棄物への取り組みとしては、即席めん製造時の廃油を持続可能な航空燃料(SAF)に変換する取り組みを進める。業界の垣根を越えて、国産SAF燃料の商用化を目指す「Act For Sky」の取り組みに参画している。
エネルギーへの取り組みとしては、工場などへの太陽光発電の導入を進めており、2021年から2022年度にかけてタイ日清の工場に4000枚の太陽光パネルを設置した。
物流への取り組みとしては、2019年から、物流効率化・CO2使用量削減に向け、自社の軽量貨物と他社の重量貨物を組み合わせた製品の共同輸送を開始している。
日本通運、アサヒ飲料、日清食品の3社でトラック積載率向上に向けた共同輸送モデルを確立。関東から九州間のトラック使用台数の20%、CO2排出量の10%を削減できる見込みだ。
循環型ビジネスに向けた取り組みとして、食品に関しては、原材料選定から循環型のモデルをめざし、アップサイクル食品の活用を進める。容器はCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)において業界横断でプラ資源循環に向けた仕組みづくりに取り組む。
めざすべき社会の姿としては、横山氏は「協調・共創・共生・競争が重要であり、産官学公民が連携し、いろんな形で共生社会をつくっていくことで、それが国際競争にも勝てる力となる」と話す。
経営判断にもDXが効果的 旭化成
旭化成顧問の高山氏は、サーキュラーエコノミーの課題や、サーキュラーエコノミー推進が抱えている矛盾などを指摘した。例えば「経済システムがアウトプットした資源のうちインプットに再投入できた量が循環性とイコールになる。熱力学の法則から100%の循環性は不可能であるのに、これを目標にして良いのか」と疑問を投げかけた。
このほか、「製品の物理的耐久性を上げても情緒的耐久性(その製品自体に消費者が愛着を持てること)を上げないと製品寿命は延びない」ことや、「サーキュラーエコノミーを事業機会と捉え、新たな市場を創出すると、資源利用がさらに加速する」ことなど、サーキュラーエコノミー実現への難しさを示唆した。
また、ケイト・ラワース氏が記した「ドーナツ経済」を引用。持続可能な開発の最初の提案者である経済学者のバーバラ・ウォード氏が、人間のニーズと権利という「内側の限界」と、地球が耐えられる環境へのストレスという「外側の限界」の両方に取り組むことを提案したことなどを紹介した。
このほか、市場主義の限界を指摘したマイケル・サンデル氏や、脱成長に向けた五つの視点を指摘したフィリップ・コトラー氏の言葉を紹介し、「私たちは経済が成長するかどうかに関係なく、自分たちが繁栄できる経済を必要としている。経済が賢く運営されるなら、成長ではなく繁栄を謳歌できる」と説明した。
その上で、高山氏は「成長から繁栄へと、経営者が頭の中を切り替えることができるのか、その経営判断が重要だ。その経営判断をするためにはDXが強力な武器になる」と話した。
進行役の清水氏は「地球の限界を超えない循環経済社会を創るには、様々な立場の人が連携し、次の世代に繋いでいくことが大切だ」とまとめた。
(生産性新聞 2023年4月25日号掲載)
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