欧州発「持続可能な製品政策」 喜多川 和典 エコ・マネジメント・センター長(2023年5月15日号)

連載「サーキュラーエコノミーを創る」② 欧州発「持続可能な製品政策」

「持続可能な製品政策」は、EU(欧州連合)のサーキュラーエコノミー(CE)行動計画(2020年3月)の核心的な概念として位置づけられている。 その目的は、製品が循環型の設計であることを確保することである。ここでの循環型とは、長寿命で、修理、アップグレードが容易で、寿命が来ても部品を取り出しやすくリユースに回すことができ、残りはリサイクルしやすくなっていることを意味する。さらに、生産者に対し生産・利用されるすべての製品の全ライフサイクルを管理し、寿命が来た製品の二次的な利用を行う責任を課す目的もある。
EUがこの政策概念に至った背景を理解するには、これまでの環境政策の経緯を知る必要がある。

EUの資源循環政策の始まりは1990年初頭の「拡大生産者責任」に遡る。この概念は日本にも導入され、家電や自動車などの個別リサイクル法に適用されており、使用済み製品のリサイクルを行う責任をメーカーに課す制度である。その目的は、消費者の排出から製造の入口に戻す循環の輪を構築すること、また自治体が担っていた製品廃棄物に関わる外部経済を経済活動の一環として内部化することにあった。
EUでは「拡大生産者責任」を導入した当時、加盟国ごとにリサイクル料金制度が立ち上がったが、EUの強い競争法のもとではリサイクル目的であっても、特定機関が独占的に費用を定める統一料金制度は認められなかった。また、「拡大生産者責任」がEUの重要な原則である単一市場(モノの移動が完全に自由である条件)を脅かすとの指摘もなされた。こうした経緯でより包括的な新しい概念である「統合化製品政策」が1998年頃から議論され、「拡大生産者責任」はその下位に位置づけられた。


欧州委員会が2001年に公表した「統合化製品政策に関するグリーンペーパー」によれば、同政策は「製品のライフサイクルすべてをカバーし、環境保全の目的達成のための幅広い取り組みを行うことおよびその政策」と定義されている。この概念は日本ではほとんど知られていないが、RoHSやREACH等の製品中有害物質規制はすべて「統合化製品政策」が発端となっている。
このように、「拡大生産者責任」よりあとに登場したにもかかわらず、より包括的なこの政策概念に調和してこそ有効な制度であると認識されるようになった。


日本では「統合化製品政策」を議論する政策フェーズがほぼ欠落していたことが、日本と欧州における資源循環政策の根本的な断層を生み出したと筆者は見ている。
これまでのところ、EUの資源循環政策には飽くなき二つの基本方針が認められる。一つは、部分最適から全体最適化であり、もう一つは外部経済を内部化する方針である。これらに沿った議論が深められ登場したのが冒頭で紹介した「持続可能な製品政策」である。これは、資源循環の輪を「ビジネスのバリューチェーンに一体化させる」のが最終的な狙いで、外部経済を内部化する考えがより強く取り入れられている。使用済み製品の回収や処理について自治体等への依存を極力排除し、ビジネス内部に資源循環の仕組みを取り入れさせれば、企業は安易にリサイクルするのではなく、製品・部品の長寿命化とリユースによる残存価値利用へと方向転換することが期待できる。
「持続可能な製品政策」は、新しいエコデザイン規則の施行のもと、多くの製品分野に浸透していくことは間違いない。これは言うまでもなく、日本の製造業に多大な影響が及ぶ。
最初に影響を受けるのが電気自動車(EV)の電池である。現在の法案では、EV電池のライフサイクル全体を管理し、EVに利用できなくなっても他の目的でリユースするように努めなければならない。また、廃電池からはリチウム等を高純度で回収して新しい電池の原料として利用しなければ、流通することさえ許されない。ここに全ライフサイクル管理を要求する「持続可能な製品政策」の思想が如実に反映されている。


今後「持続可能な製品政策」はデジタル化と交わり、製品の機能を、サービスを通して届けるビジネスへの移行がより鮮明に現れるであろう。ユーザーはシェア、サブスクなどにより製品の機能を自分が製品を所有しているかのように取り扱い、使用重視のサービス型経済が発展する可能性がある。また、資源循環だけでなく産業経済の隅々に影響を及ぼし、大きな構造変化をもたらすであろう。日本も官民共同して知恵を絞り、持続可能な社会の実現を目指して取り組んでいくことが求められる。



著者略歴

公益財団法人日本生産性本部 エコマネジメントセンター長 喜多川 和典

およそ30年にわたり、行政・企業の環境に関わるリサーチ及びコンサルティングにあたる。上智大非常勤講師、経済産業省循環経済ビジョン研究会委員(平成30年度~令和元年度)、NEDO技術委員、ISO TC323 Circular Economy 国内委員会委員。おもな著書に、「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」勁草書房、「プラスチックの環境対応技術」情報機構、「材料の再資源化技術事典」日本工業出版などがある。

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