35億年の歴史をもつ生態系に学べ 
足立直樹 レスポンスアビリティ代表取締役(2024年8月25日号)

連載「続・サーキュラーエコノミーを創る」④ 35億年の歴史をもつ生態系に学べ

サーキュラーエコノミー(CE)は言うまでもなく、資源枯渇の問題と廃棄物問題の解決を狙っている。気候変動や化学物質による汚染などの問題が完全に解決したとしても、この二つの問題が解決できないことには真の持続可能なビジネス、そして真の持続可能な社会とはならない。地球は有限な環境であるので、その中で永続的に事業を行うためにはこの問題を解決するしかないのだ。その具体的なゴールとして、廃棄物が生まれない、廃棄物がむしろ新たな製品の原料となるような循環型の生産と消費の仕組みにしようというのがCEの発想だろう。
人間がこうした問題に直面するようになったのは、産業革命以降だ。大量生産ができるようになり、それは大量消費、そして大量廃棄につながった。またその結果、より多くの人口を養うことが可能になり、大量消費はさらに加速した。問題をさらに複雑にしているのは、技術の発展により、簡単には廃棄や分解できない物質を容易に生産できるようになったことだ。いずれにしろ、これらは産業革命以来、たかだか200年の間に生じた問題である。
一方、この地球上にはもっと長い間、持続的に機能してきたシステムがある。生態系だ。生物が35億年の長きにわたってつくり、洗練させてきた持続可能なシステムが現在の生態系であり、それは完璧な循環型になっていると言ってよい。したがって、なぜ生態系が循環可能なのかを考えれば、私たちがCEをつくるヒントも得られるはずだ。

生態系が循環可能な理由

生態系には、生産者と消費者だけでなく、分解者がいる。そして、消費速度は生産速度で律速され、生産速度は分解速度で律速される。ゆえに過剰な消費や生産は起きないというのがまず重要なことだ。そして、生物はどこにでもある、希薄な資源をうまく使って生産する。石油や鉄鉱石のように偏在する特殊な資源に依存するのではなく、二酸化炭素、水、光、そして微量の元素で多様な有機物を作り出すのだ。したがって、資源枯渇の問題は起きないし、分解できないもの、循環できないものも生産しない。廃棄物問題は生じないのだ。
もう一つ興味深いのは、生物の世界では一つの種が他を圧倒して環境を独占することはないということだ。むしろ多様な種が少しずつ異なる役割を分担し、そのことで無駄を徹底的になくすことに成功している。そして、たとえ環境が変化することがあっても、多様な生物が存在するために適応力にも富んでいるのだ。
生物が成功しているこうした仕組みを見習えば、希少な資源を濃縮して集約度を高めることで効率を最大化するという工業的な手法ではなく、徹底的に分散化し、それぞれの環境に適した多様なやり方を目指すという方が合理的に思えてくる。石油や鉄鉱石のように偏在する資源を掘り起こし、高純度に精製し、それを使って大量に同じものを作るという「力ずく」のやり方は再考した方がよい。私たちはむしろ、どこまで細やかにモノをつくり、使い、分解し、循環できるかを優先すべきだろう。

生物を活用するという発想へ

真の循環型システムの構築には、機械よりもむしろ生物を使った方がうまくいくことに私たちは気づきはじめた。生物を中心に自然を活用して様々な社会課題を解決するやり方、いわゆるNbS(Nature-based Solutions、自然に基づく解決方法)が近年注目されている。自然の仕組みをうまく利用すれば環境に害を与えることがなく、また経済的である場合も多い。
2022年に開催された生物多様性条約COP15において、生物多様性が失われ続けている現在の状況を2030年までに反転するという、いわゆるネイチャーポジティブを目標とすることに世界が合意した。カーボンニュートラルと並ぶこれからの世界目標である。これは単に生態系を復活させようという倫理的な目標ではなく、生態系の機能を強化し、NbSをもっと積極的に使おうという意図が背景にある。その方が、現実的であることに世界は気が付き始めており、工業的な手法に依存し過ぎた近代に対する反省の時代が始まったと言ってよいだろう。
こうした流れを見ると、今の工業的なシステムを改善し、大量生産を大量循環させるだけでは本当のCEは難しいのではないだろうか。もっと生物のやり方を学び、生物に任せられることはなるべく生物に任せる。すなわちNbS的な方法を積極的に活用し、工業的アプローチとのハイブリッドを考えた方が、CEの実現は現実的になる。つまり、生物をいかにうまく活用できるかが、これからの時代の成功の鍵ではないだろうか。

著者略歴

足立直樹 株式会社レスポンスアビリティ代表取締役

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所を経て2002年に独立。一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサーなども務める。 持続可能なサプライチェーンの構築をはじめ、サステナブル経営の実践を日本を代表する機械メーカー、食品会社、飲料会社、流通会社、総合商社等に対して指導して来た。こうした活動を通じて企業価値を高めるサステナブル・ブランディングの推進に力を入れている。環境省をはじめ、農水省、消費者庁等の委員も数多く務める。

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