第5回:三菱UFJ信託銀行従業員組合~支え合いによる安心感~(2016年7月5日号)

■組合員のキャリア形成を支援

従業員が短期のみならず中長期にわたり、主体的にイキイキと働いていくために組織として着目するカギはどこにあるのか。これまでに紹介してきた組織からは、四つのキーワードが浮かび上がってくる。①信頼ー会社に対する信頼感や社員相互の信頼関係の醸成。②価値観ー仕事を進めるうえで大切にする価値観の共有。③上司ー適切な働きかけをする中核人材の存在。④仕組みと風土ー願望を実現するために挑戦できる仕組みと風土があること。これらに加え、今回取り上げる組織を通じて⑤安心感ー支えがあることの安心感も重要な要素であることが分かる。

今回紹介する組織はこれまでの人事部門ではなく、労働組合である。初回に紹介した2重ループを回す支援は、人事部門の独壇場というイメージを持ちがちであるが、労働組合だからこそ果たせる役割がある。それがまさに安心感につながる取り組みだ。

三菱UFJ信託銀行従業員組合では「お互いに支え合いながら心身ともに健康で、安心して働いている状態」をビジョンの一つに掲げ、実現に向けた様々な活動をしている。その柱の一つが「キャリア相談会」だ。年に4回、外部からキャリアコンサルタントを招いて一人一時間の面談機会を設けている。相談の希望者を募集すると、すぐに定員が埋まる状況だ。

同組合書記長の伊藤芳樹氏は「会社や外部主催の相談会だと気軽に参加しづらいが、組合主催だと利害関係もなく敷居が低くなる」とみる(以下、同氏)。もっとも、「導入当初は参加者が多くなかったので、トップバッターづくりとして個別に参加を要請するようなこともあった。また、相談というとネガティブなイメージがつきまとうため、今よりも更に自己実現を図るための場というポジティブな受け止め方をしてもらうように意識して案内を行った」。地道な取り組みが実を結び、口コミで評判が広がっていき、「相談するという文化が徐々に根付いていった」。

これ以外にも組合員が相談できる機会を提供すべく、組合の専従者は全員キャリアコンサルタントを養成する講座を受講し、年間を通じて"よろず相談窓口"の機能を果たしているという。組合に寄せられた様々な相談のうち、改善の必要がある課題があれば、経営側との協議に盛り込むなどして組合員の声を着実に活動につなげている。

組合員のキャリア形成を支援するために、同組合では年間を通じて様々な講演会やセミナーを開催している。その中に「40、50代向けのキャリア開発セミナー」といったテーマを盛り込むことで、若年層だけでなくミドル以降の組合員とも接点を広げる工夫をしている。

会社ではなく組合が講演会活動に取り組む意義は「組合は利益を追求することが目的ではないので、例えば仕事上のキャリアだけではなく人生全般にかかわるライフキャリアであったり、長い目でみたときに成果が期待できるようなこともテーマの対象にすることができる」ことにありそうだ。

このほかにも「オープンオフサイト」と呼ぶ横のつながりをつくることを目的とした場を定期的に設けている。昼休憩や業務終了後を活用して「時短利用者」、「ワーキングパパ、ママ」、「出向者」などのテーマを設定し、経験者と関心のある組合員が情報交換を行うことにより、初めてのことにも安心して臨めるように支援しているという。
(おわり)


筆者

栗林 裕也
日本生産性本部 人材開発コンサルタント

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