第1回:組織と従業員のWinWinを目指して(2016年5月25日号)

■中期のループに様々なメリット

交渉の達人として商社の業界で一目置かれる人物に話を伺う機会があった。いわく、多くの人は自分の利を先に考えて相手に譲歩させることを交渉だと考える。

交渉の極意たるはむしろその逆で、相手を利する複数の方法を先に考え、そこから自分の利に重なるものを提案していく。その結果、相手も自分もWin-Winとなるそうだ。

人材マネジメントが上手だと感心させられる企業は、この考え方に通じる哲学をもって施策を展開しているように感ずる。

組織のビジョンや目標を達成するにあたり、経営側の論理だけで押し通そうとするのではなく、組織を構成するメンバーの願望や意思に配慮するなど従業員側の論理も尊重している。

なぜ、そのような人材マネジメントが上手くいくのだろうか。それは端的に言えば、従業員がWinになる過程を通じて組織もWinになるからだ。

これは図示したループで捉えると分かりやすい(図参照)。Win-Winの状態とは従業員のループが上手く回転し、組織の成果に結びついている状態である。ループを回転させる主体はあくまで本人であり、組織は様々な施策を通じてループの回転を支援する。




内側のループは単年度の目標達成を中心に据えた短期のもので、目標管理制度(MBO)といった仕組みを活用して回転を後押しする。

一方、外側のループは3~5年単位の中期のものだ。キャリア開発関連の仕組みを導入する組織は、まさにこのループに焦点を当てている。

この中期のループに着目する組織がここ10数年で増えてきているのは、短期のループにないメリットがあるからだ。


例えば中期のループがあることで本人にとって動機の軸を増やすことができる。短期のループで動機の源泉となるのは主に目先の具体的な目標を達成したいという意欲であるが、中期のループがあることでキャリアビジョンの実現といった少し先の抽象的な目標の達成という動機も持ち得る。

これは、仮に短期の目標が達成できずに内側のループが上手く回らなくとも、中期のループからみれば短期の失敗はその後の成長につながる経験となり、外側のループは回っていくことを意味する。

そのほかにも、計画的に能力開発に取り組む、あるいは難しい課題にじっくりと取り組もうとする意識を醸成できるといったメリットがあげられる。

本連載では、どのようにループを回す支援をしているのか具体的な事例を紹介していきたい。


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筆者

栗林 裕也
日本生産性本部 人材開発コンサルタント

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