第2回:タマノイ酢~社員一人ひとりの自立と成長を目指して~(2016年6月5日号)

■価値観を社員の間で共有

前回は組織が従業員の2重ループの回転を支援することで、従業員と組織がWin-Winになっていくことにふれた。本連載では四つの組織の取り組みを通じて効果的な支援について明らかにしていきたい。

初回はタマノイ酢である。同社で人事関係を担う社長室ドリームクエストチームリーダーの篠原美和子氏は、社員に対する会社の姿勢を「当社が目指すのはあくまで社員一人ひとりの自立と成長であり、あらゆる施策の最終的な目的はそこに帰結する」と説明する(以下、同氏)。

では、社員の自立と成長に向けていかに取り組んでいるのだろうか。「責任と目標を明確にしたうえで、お互いに関わり合うこと、とことんやることを推進している。当社では成果や成長を社員が単独で目指すのではなく、メンバーが力を合わせて実現するように志向しているため、関わり合うことを重要視している。助け合いや支援の前提として一人ひとりがとことん考え、行動するように求めている」。この価値観が様々な取り組みを通じて社員の間で共有され、2重ループの回転につながっていると言えよう。

同社の施策や運用方法は、社員の意識と行動が『支援ー仲間を助け合う』、『勤勉ールールを守る』、『創意工夫ー自律的に創意工夫を図る』という3点につながるよう工夫されている。

その一つが頻繁に行われる異動だ。年に3、4回行われることもあるという。そのねらいは部署や社員の間に生じる壁を崩すことにある。「色々な部署を経験することで自部門の都合だけを押し通すような部分最適に陥ったり、境界のあいまいな仕事がこぼれ落ちることを防いでいる」。専門外の部署への異動も当たり前だ。「周りの手助けが必要となることから必然的にお互いが支え合うし、本人もぬるま湯に浸かることなく前向きにチャレンジする」。また、情報についても必要なノウハウはすぐにマニュアル化して社員間で共有するほか、社員が同じメールアドレスを使用して情報をオープンにするという徹底ぶりだ。

キャリア形成では、新人を含めた若手に大きな仕事を任せるなど積極的に挑戦をさせている。ポイントは、①単に若手に仕事を割り振って終わりとせず先輩や上司が目配りを行き届かせ忍耐強く見守っている、②いざというときはしっかりとフォローをしている点であろう。結果として若手は支えてもらえる安心感や、大きな仕事に取り組むやりがいを感じながら、助けてもらうからには全力を尽くそうとする。そして壁にぶつかりながらも試行錯誤するなかで成長を遂げていく。

一般的に育成よりも目先の成果を優先しがちであるが、同社でこの組織文化が根付いているのは新入社員研修が大きな役割を果たしている。30年以上にわたりほぼ同じプログラムだという同研修では、トレーナーと数名の新人がグループとなり様々な課題に取り組む。その過程で互いに支え合うこと、やり抜くことといった組織の価値観を理解していく。学びは新人にとどまらない。多くの社員はトレーナー役を務め、そのなかで後輩たちを支援する姿勢、手法を体得する。さらには日常の場面で自らが果たす役割を確認するための「困ったら戻る場所」としても機能している。


筆者

栗林 裕也
日本生産性本部 人材開発コンサルタント

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