分解しやすい設計と革新的技術の融合で資源循環ループをまわす 所 千晴 早稲田大学理工学術院教授(2023年8月25日号)

連載「サーキュラーエコノミーを創る」⑤ 分解しやすい設計と革新的技術の融合で資源循環ループをまわす

資源循環に対する社会からの関心が、このところ急激に高まっている。プラネタリーバウンダリーが認識され、SDGsが提唱されて、人類のウェルビーイング向上につながる経済・社会・環境の調和の方向性が世界に広く同意された。日本ではカーボンニュートラル宣言を機に誰もがそれを意識し始めたが、カーボンニュートラルを遂行しようとすればするほど新たな設備や製品が必要となり、資源消費が現状以上に増加する懸念が多数報告され、現在の経済モデルのままでは資源不足に陥ることに誰もが気付き始めた。日本においてサーキュラーエコノミーが注目される理由はそれだけでなく、国土が狭く最終処分場がひっ迫していることや、国内に資源を有しないため資源安全保障や人権・環境デューデリジェンスの観点からも国産資源が求められること、何よりもものづくり産業が新たな高付加価値ビジネスモデルを求めていることも影響している。

内側の資源循環ループを創る

日本版サーキュラーエコノミーの概念図は「循環経済ビジョン2020」では図のように示されている。日本では比較的早い時期より、適正廃棄物処理やゼロエミッションの観点からもリサイクルが促進されており、ものづくりの一部を構成する「なくてはならないインフラ」的存在となっている。サーキュラーエコノミーでは、ものづくりに再生材を供給するためのリサイクルという位置づけとなり、これまで以上にクローズドループリサイクルやマテリアルリサイクルが求められることとなる。しかし、リサイクルには収集や分離にエネルギーを要するので、大量にものづくりをして、大量にリサイクルをしていたのでは、カーボンニュートラルとの両立は困難である。そこで、サーキュラーエコノミーでは、ものづくりサプライチェーンのさらに内側に多重の資源循環ループを創り、省資源で機能を最大限に活用して、人類のウェルビーイングを向上させ、経済を活性化させる仕組みが重要となる。この内側の資源循環ループは、内側になればなるほど消費者の行動変容をも必要とし、現在とは異なるビジネスモデルが展開される必要があるものの、環境負荷と資源消費の両方の低減を達成するには効果的である。

分離技術の高度化と分解しやすい設計の推進

サーキュラーエコノミーを実現するためには、まず、リサイクルを安定した省エネルギー型プロセスにしなければならない。そのためには、内側の資源循環ループとも連携しながら収集する仕組みが必要である。例えばリチウムイオン電池の定置用蓄電池へのリユースなどは、大規模化すればその後のリサイクルへの収集拠点になり得る。また、分離技術を高度化させて、目的とする分離のみにエネルギーを集中させる革新的な技術が必要となる。これまでは、前処理のための外部刺激はもっぱら機械的な破砕・粉砕か人手であったが、これからはマイクロウエーブや電気パルス、バイオといった様々な異なる選択性を有する外部刺激の組み合わせが有効に活用されていくべきである。AIを活用した自動化も積極的に取り入れられていくだろう。そしてリサイクルのための分離技術の高度化と一緒に、それらを想定した易分解設計も進めるべき機運がようやく整ってきたといえる。

これまでのリニアエコノミーでは、労力をかけてまで使用後の処理を想定した易分解設計を遂行するインセンティブが働きにくかったが、サーキュラーエコノミーによってものづくり産業に再生材が戻ってくるビジネスモデルが主流となれば、易分解設計がものづくり全体の省エネルギー化につながり、それを遂行するインセンティブとなる。その時に、従来の破砕・粉砕や人手による解体ではなく、分離技術の高度化によって多様な外部刺激を想定した易分解設計が展開されることを期待する。さらには、リサイクルのための分離と、その後の再生材の製造のプロセスをできるだけ融合させることができれば、リサイクルループでもあり、ものづくりサプライチェーンでもある一番外側の資源循環ループは、より省エネルギーとなる。例えばリチウムイオン電池のダイレクトリサイクルなどは、まさにこの概念の先駆けといえる。
以上のように、革新的分離技術と、それと融合する革新的製造技術、そしてそれらを実現するための易分解設計が進めば、外側のリサイクルループを省エネルギー化できるのみならず、より内側の資源循環ループにおいても、残存機能の残る構造や部材を自在に組み替えて循環できる世界が開けてくる。これが技術力とサプライチェーン間の信頼の高い日本におけるサーキュラーエコノミーモデルの方向性ではないかと考えている。



著者略歴

早稲田大学理工学術院教授 所 千晴

1998年早稲田大学理工学部資源工学科卒業、2003年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、2004年早大理工学部助手。専任講師、准教授を経て2015年から現職。2016年から東大生産技術研究所特任教授を兼務。専門は資源循環工学、粉体工学。著書に「資源循環論から考えるSDGs」等。

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