ものと情報と気持ちがめぐる社会へ 佐藤 博之 アミタホールディングス取締役副会長(2023年9月15日号)

連載「サーキュラーエコノミーを創る」⑥ ものと情報と気持ちがめぐる社会へ

私たち日本の社会は長年にわたって3R(リデュース、リユース、リサイクル)に取り組んできたが、本質的な循環経済(サーキュラーエコノミー)への挑戦は始まったばかりである。本稿ではポストコンシューマー(消費後)のリサイクル、その中でも主要課題となっているプラスチックに焦点を当てて業界横断の取り組みについて紹介したい。

J-CEP

循環経済のエコシステムは一つの企業や業種では実現できない。そこで、2021年10月、素材メーカー、加工メーカー、ブランドオーナー、リサイクラー、ICT企業などが業種を超えて連携すべく、J-CEP(ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ)が設立された。目的は循環の輪を創る先駆的な実証アクションを起こすことであり、現在、趣旨に賛同する57社が参画している(幹事会社は、花王、三井化学、ネスレ日本、NECソリューションイノベータ、アミタホールディングスの5社)。
J-CEPでは産官学で連携して発生源での高度分別、トレーサビリティ情報の仕組みづくり、定規やベンチなど高価値製品への再利用などのプロジェクトを動かしており、製品素材の単一化や統合化などの議論も行っている。

発生源での分別

J-CEPの代表幹事を務めるアミタグループは、神戸市などの自治体と協働して常設の資源回収ステーション「MEGURU STATIONⓇ(めぐるステーション)」を展開している。これは市民が資源化物を持ち込んで素材や商品種類別に細かく分別してもらうステーションで、異物や汚れのほとんどない品質の高い資源が集まる。地域のコミュニティ力を活かすとともに、互助共助の関係性を高めることも目指している。
世の中では資源化物の一括回収と機械による高度選別を進める動きもあるが、この手法から得られる再生材料の品質は決して高くない。輸送用パレットなどには利用できるが、高価値の消費財などに使える品質にするのは難しい。やはり可能な限り発生源での分別を優先すべきであろう。
J-CEPでは資源回収ステーションで分別されたプラ素材を回収し、メンバー企業の施設で再度、素材選別を行う。もともと発生源でキレイに分けられているので簡易なプロセスで済むし、色選別まで行うと極めて品質の高い再生プラを入手することができる。これを使ってメンバー企業が高価値の消費財を造るトライアルを行なっている。

業種を跨いだ循環エコシステム

いま循環経済を主導すべきなのは企業であり、メーカーは循環に責任を持ってコミットすることが求められている。これまでのように誰かがどこかでリサイクルしてくれれば良いというスタンスとは異なる。自社や業界内での水平リサイクル(同じ製品へのリサイクル)が理想像だが、それにこだわって膠着状態に陥り前進できないのは困る。食品業界のように水平リサイクルが難しい場合は、他業界と連携して再生用途を広げていくべきであろう。必要なのは他人まかせではなく循環にコミットして協働することである。
J-CEPでは飲料ボトルのキャップを身近な日用品や包装用に再生するプロジェクトが進んでいる。メンバー企業が業種を超えて連携することで循環経済の可能性が広がる。自然生態系がそうであるように、多様な企業が連携してこそレジリエントな循環エコシステムが形成できる。

回収した歯ブラシから再生した定規を使ったワークショップ
住民がきれいに分別したプラスチックで作成したベンチ

サーキュラー前提の製品設計へ

企業が循環にコミットするにはコスト負担のあり方も考えねばならない。循環の当事者の立場になってはじめて製品設計のあり方も真剣に考え直すようになるし、それが経済合理性を持ってくる。複合素材の単一素材化、素材や色の統一化など、どれも循環を容易にし、コストも抑える方向に働く。かつてPETボトルは異種素材の組み合わせや色付きボトルが混在していたが、関係業界の尽力によりPET単一素材と透明ボトルへの統一を達成できた。これがPETボトルをリサイクルの優等生にした。他の容器包装でも業界で連携して素材の統一化を進めれば、個別ブランドで回収しやすい大手企業だけでなく中小企業の製品を含めてリサイクルしやすい条件を整えることができる。

「気持ち」もめぐる循環経済へ

一方通行のリニアエコノミーと3Rでは、つくる人、使う人、回収する人、リサイクルする人がバラバラでも良かった。しかし、サーキュラーエコノミーでは、すべての主体が循環的な関係性でつながることが必要になる。大切なのは循環させるのが「資源」だけではないことだ。適切なトレーサビリティ「情報」が巡ることで透明性の高い評価が可能になる。さらに、人々の行動変容を促すためには「気持ち」が巡ることが不可欠になる。モチベーションと言い換えても良いだろう。分別したものが何に生まれ変わるのかを理解し、それが巡り巡って手元に戻ってくるリアリティを感じてこそ行動のモチベーションが高まる。サーキュラーエコノミーの担い手は、生身の人間であることを忘れてはならない。J-CEPがミッションに掲げる「ものと情報と気持ちがめぐる社会」がサーキュラーエコノミー関係者の共通理念になることを願いたい。



著者略歴

佐藤 博之 アミタホールディングス取締役副会長

グリーン購入ネットワーク(GPN)事務局長などを務めた後、2008年アミタグループに合流。アミタ(現アミタサーキュラー)代表取締役社長などを経て現職。ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(J-CEP)代表幹事。

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