「買い換え」から「使い続け」へ 妹尾 堅一郎 産学連携推進機構理事長(2024年1月25日号)
連載「サーキュラーエコノミーを創る」⑩ 「買い換え」から「使い続け」へ
人類を物質的に豊かにする従来型の「線形経済」(モノ消費主導経済)が限界を迎え、行き詰まってしまった。産業革命以降、線形経済は2つの問題を生み出した。 一つは環境汚染―これは気候温暖化を加速させ、今や地球沸騰化とすら呼ばれるようになった。もう一つは資源枯渇―これは資源争奪戦を招き、今や大国間の覇権争いも絡んで経済安全保障に関連する大問題になった。 両方の問題に同時対処できる現実的な解が、従来の「線形経済」から「循環経済」への移行なのである。
「宇宙船地球号」の時代へ
循環経済は、地球を閉鎖系システムとして捉えることだ。いわば「宇宙船地球号」。
資源は今まで使用・蓄積した総量を上回ることは難しい。環境負荷の高い鉱山開発は憚られるし、化石資源の使用は気候変動を助長してしまうからだ。 他方、世界人口が2050年には100億人になり、地球2個分の資源が必要と予測されている。日本は少子化なので実感がないようだが、ジャパンアズナンバーワンと言われた1970年代の40億人の、なんと2.5倍である。
つまり、従来の豊かさを維持するためには、一人当たりの資源使用量を最小にして最大価値を創出せねばならない。そして、資源は循環経済に寄与する使用に傾斜配分せざるを得ない。
そこで、循環経済の本質は「資源生産性」となる。そして、ビジネスの基本は従来の「買い換え、買い増し、買い揃え」ではなく、「モノ無くし・減らし」と「モノ使い続け」となる。
また、従来のモノづくりとは、バージン材・新型・新品をつくることだったが、今後は、再生材の活用や、メンテナンスや修理といったサービスが極めて重要となる。欧米では既に「修理する権利」が台頭し、機器類も修理しやすい構造に変わってきた。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)も循環経済に大きな寄与を始めている。
循環経済は3Rをすることなのか?
だが、日本の動きは極めて鈍い。特に循環経済は3R(リデュース・リユース・リサイクル)をすれば良いと勘違いされている。もちろん3Rは重要だが、廃棄物処理の発想に留まってしまうと、ビジネスや産業の側面からは隘路に入りやすい。さらに日本では、焼却処分をサーマルリサイクルと称してリサイクルの範疇に入れるなど、世界と異なる点も目立つ。そうせざるを得なかった当時の理由はあるにせよ、今後もそれにこだわる必要はないはずだ。
2050年は遠い先なのか?
多くの国では循環経済の達成目標を2050年に定めている。約四半世紀先は遠い未来なのだろうか。循環経済は2050年元旦に突然始まるわけではない。40年代には制度・社会文化・ビジネスモデル等の大半が循環経済型に変わっているはずだ。そのため30年代には次々と技術・制度・社会文化、そしてビジネスモデルの社会実装が順次始まっていなければならない。
さらに、循環経済下のビジネスモデル、およびそこに至る「バトンゾーン(現行事業と新規事業の併走期間)」のビジネスモデルを構想しなければならない。だとすると、今から循環経済向けの技術開発やビジネスデザインの準備を始めなければ間に合わないのではないか。
循環経済は「ブルーオーシャン」だ
現在、多くの企業がイノベーションを図ると謳っている。だが、その多くは従来の線形経済におけるイノベーションによって「買い換え」を進展しようしている。それは適切なのか。また、すでに「過当競争」領域の「レッドオーシャン」にさらに進もうというのか。日本は相も変わらず狭い範囲の競争で勝とうとするのか。それを30年続けて、この状況であることに懲りていないのだろうか。
図にあるように、「極小生産・適小消費・無廃棄」などという循環経済は、現在から見ればとんでもない未開・未踏領域だ。
つまり、循環経済の世界は「ブルーオーシャン」なのである。そこへ向けてイノベーションターゲットを設定しない手はないはずだ。
モノづくりは、実はチエづくり、でもある。従来のバージン材・新型・新品モノづくりで培ったチエ(知見)を起点にして、「モノばらし・モノくずし・モノほぐし・モノつぶし」「モノつくり直し・モノつくり替え」などへ技術力を伸ばしてはどうだろうか。
循環経済とは、実は「ビジネスチャンスの宝庫」なのである!
著者略歴
妹尾 堅一郎 産学連携推進機構理事長
慶應義塾大学経済学部卒業後、富士写真フイルム勤務を経て、英国国立ランカスター大学経営大学院博士課程満期退学。慶應義塾大学大学院教授、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、一橋大学大学院客員教授などを歴任。企業研修やコンサルテーションを通じて、イノベーションやビジネスモデル、新規事業開発等の指導を行っている。著書に「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」等。
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