「なげやり経済」から「よりそい経済」へ 原田 幸明 サステイナビリティ技術設計機構代表理事(2024年2月25日号)

連載「サーキュラーエコノミーを創る」⑪ 「なげやり経済」から「よりそい経済」へ

世界のサーキュラーエコノミーと日本の「循環経済」のギャップ

サーキュラーエコノミー(以下CE)を「循環経済」と直訳し、さらにそれをリサイクル優先社会だと曲解する人が日本には多い。しかし世界的には、take-make-dispose(T(投入)→M(生産)→D(廃棄))モデルの経済を脱して持続可能な生産と消費のシステムをつくることを指す。そのためのバリューチェーン(サプライチェーンではない)の構築や物質フローの改善により、環境・経済・社会に総合的に貢献することが議論されている。すなわち、CEは「循環」に力点があるのではなく新たなバリューチェーン・ビジネスが展開されることが目的である。その手段である物質フローの改善も、単にリサイクル率を高めることでは従来型の「リニア経済」(T→M→Dの一方向の経済)の補完物に過ぎず、長く使う、減量化して使う、そして繰り返し使うことを目指している。

置き去りにされる日本

現在、資本経済自体が脱物質化しており、従来のtake-make型の物売り志向、供給志向では利益率を上げることが難しくなっている。世界では、その打開策として、経済成長と資源消費を切り離すデカップリングがCEの重要な取り組みとして期待され、経済界、環境界の共通した認識となっている。
他方、日本では、歴史的にリニア経済の象徴とも言える廃棄物問題に対する環境対策として循環型社会が唱えられてきた。そのため、「循環」は環境問題であり、持続可能社会にとっては正義だが現行の物売り経済には障害である、との見地での議論が引き続き行われている。消費者支出の中での物品購入支出がすでに1割近くに低落している現状にかかわらず、高度経済成長期の影を追いかけながら持続可能社会を夢みているようなものである。

リニア経済からの脱却としてのCE

CEの鍵は、リニア経済すなわちT→M→Dの一方向経済からの脱却である。これは「循環」を示唆するように見えるかもしれないが、リニア経済の一番の問題点はmakeの後がdispose、「販売」の後が「消費」で終わっていることであり、「売れれば終わり」の「なげやり経済」なのである。製品が、交換価値ではなく使用価値を生み出す使用段階で経済の中に組み込まれていないことにリニア経済の問題と弱点がある。CEの動きの中で起きているサービサイジング(単なるモノの提供ではなく製品の機能を提供すること)やシェアリングは、これまでリニア経済では手をつけられていなかった、使用者が自らの使用価値を付ける段階まで寄り添い包み込んだビジネス機会にしようとする流れである。使用価値を人とも共有したい、使用後の物品を有効に活かして欲しいとする願望も、微力ではあるがリニア経済が着手しなかった使用者を包み込む新たな経済の形成の一部である。このような使用段階の価値を重視するため、従来のサプライ(供給)チェーンではなくバリューチェーンという表現が使われている。

残存価値の発掘・活用

では、何をしたら自分たちはCEを実践していると言えるのか。リサイクルをするだけならリニア経済の尻拭いでしかなく、新たな価値の創造が必要である。
デカップリングの観点からも、資源への依存度を高めずに、従来のT→M→Dの物質循環の中では見いだせなかった「残存価値」を発掘し、活用することである。無価値と思われた使用済みや未利用のもの、所有にこだわっていたものの中からサービスや情報を活用して、使用者の価値を引き出していく。これを進めることがCEの実践である。
「持続可能社会のためにCEを行わねばならず、何をするか」という発想ではなく、新たな経済では、一方的な物売りではなく、使用者が価値を感じるところをビジネスにする「よりそい経済」だと考えてほしい。多様な人々、中には高齢化や過疎化などで問題の渦中にある使用者に対しても、現在あるモノから残存価値を発掘・活用し問題解決の一助とする、使用者に寄り添った発想からこそ道が見つかるであろう。
「なげやり経済」から「よりそい経済」に転換していくことが、世界のCEが目指している環境・経済・社会のトリプルボトムラインへの貢献となる。

著者略歴

サステイナビリティ技術設計機構代表理事 原田 幸明

東京大学大学院博士課程修了(金属工学)。科学技術庁金属材料技術研究所(のち物質・材料研究機構)入所。同所エコマテリアル研究センター長、元素戦略センター長等を歴任。同名誉研究員。サーキュラー・エコノミー&広域マルチバリュー循環研究会代表。著書に『よくわかる都市鉱山開発』等。

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