サーキュラーエコノミーにはロマンを 春日 秀之 ヒデ・カスガ・グループ代表(2024年3月25日号)
連載「サーキュラーエコノミーを創る」⑫ サーキュラーエコノミーにはロマンを
世界は今、環境と経済の両立が必要な時代になった。世界の経済は、先進国中心に天然資源をもとにした大量生産、大量消費、そして大量廃棄の線型経済(リニアエコノミー)の時代を経て、資源枯渇と環境破壊という2つの重大な社会問題を引き起こした。この問題を解決するために、欧州を中心に循環型経済(サーキュラーエコノミー、以下CE)という名の社会経済システムの普及が急速に進んでいる。日本企業もグローバルスタンダードとなったCEを前提とした経営の実践が必須である。
CEとブランディング
日本の産業界は、二酸化炭素とプラスチックの削減と循環にむけて取り組み始めたが、大きな課題に直面している。環境調和型素材を選定し回収スキームを構築することを前提とした循環型プロダクト(最終製品)はコスト高になり、市場での受け入れが難しい。欧州で普及が進んでいる植物由来のバイオマスプラスチックを例にとろう。日本でも、自動車メーカーを中心に導入の検討を進めているが、価格が従来の石油由来プラスチックに比べ2~10倍と高く、適用実績がなかなか広がらない。
自動車メーカー関係者によれば、環境調和型素材を採用することがESG投資やIR戦略に有効だと理解していても、調達コストが高いため利益率が低い汎用車への採用は難しいとのことだ。一方、レクサスのように高価格で利益率が高いブランドは採用を積極的に進めている。ここに日本経済の課題が見えてくる。日本がCEを構築するには、高利益率を生み出す製品、つまり「ブランド」の創出が必要である。ブランド力を有しているメーカーは原価が多少上がっても売価に反映でき、持続的な価格設定を可能にする。
循環型プロダクトの実装化がとりわけ早いドイツとフランスには明確な理由がある。開発者としてポルシェとルイヴィトンのプロジェクトに携わった経験をもとに考察してみると、ドイツはポルシェをフラッグシップとした自動車ブランド大国であり、フランスはLVMHグループを中心としたラグジュアリーコンシュマー大国である。両国の共通点は、世界トップレベルの技術を有し、欧州を代表する文化大国で、そしてコスト競争を避けたブランディング戦略により差別化を図ることを国策として推進していることだ。
欧州の循環型プロダクトの普及が早い理由は、先進技術を背景に培った機能に、ストーリーや歴史といった感性的な魅力を付加して総合価値を最大限増幅したブランド王国だからである。バイオプラスチック使用も付加価値としてブランディングに反映することで、ブランド購買層である知識階層、富裕層に対して購買意欲をかき立てることにも成功している。
欧州では、環境にやさしいものは価格が高いため、意識も所得も高い層から環境に配慮した生活を取り入れるといった慣習が根付いている。従来のプラスチックのマグカップも、CEを前提とした循環型プロダクトとなると、3倍の価格であっても適正価格として受け入れることが欧州市場だけでなく、今後はグローバルスタンダードになっていくだろう。
日本にも、独仏と同じように、ブランド創出の要素となる技術と歴史と文化がある。日本企業において、環境と経済の両立に向けた一つの鍵はブランディング経営ではないかと思う。そして、戦略的なブランディングを中長期的に行う胆力のあるリーダーの存在が重要である。
「令和モダニズム®」の提唱
CEの実現には、受け入れる社会の醸成も必要だ。日本で循環型プロダクトを普及させるには、国民全体の意識を高めるだけでなく、購入できるだけの所得水準の向上が必須である。つまり企業も消費者も高い収益(所得)がなければCEの実装化はむずかしい。
今の日本のように、過去30年間、GDPも賃金も物価もほぼ横ばいの国では、ハンディキャップが大きい。そこで、私は、日本が意識的かつ政策的に、CEを前提とした、日本が基軸となるビジネスモデルやライフスタイルの構築を目指した新旧融合型生活様式「令和モダニズム」という概念を提唱している。これは、日本人のもともとの循環型の生活習慣をベースにし、科学技術立国として培った高度な「技術力」と歴史と文化が育んだ「感性」が融合した独自の生活様式のことである。
その軸となるのは産業界であり、学術界や行政には積極的にサポートをしてもらう。特に、ブランディングを行う人材育成は急務である。これからの子供たちがそれぞれの資質や能力を存分に発揮できる教育体制や社会を構築することで、イノベーターがより一層増え、さらに、企業が付加価値を高めることで社員の収入も増やすことができれば、CEの実装化も加速すると考えている。日本におけるCEの実装化は新しいビジネスチャンスに繋がり、世界が待望している日本ブランド創出の時代の幕開けになるだろう。ロマンをもってCEを実装化していきたい。(おわり)
著者略歴
春日 秀之 ヒデ・カスガ・グループ代表
工学博士。サーキュラーエコノミーの構築を推進する「ヒデ・カスガ・グループ」代表。環境調和型ブランド「BLANCBIJOUPARIS®」「hidek1896®」の創業者兼オーナー。環境調和型の素材・プロダクトの開発から循環スキームの構築までトータルプロデュースを行っている。新旧融合型の生活様式「令和モダニズム®」の提唱者。信州大学特任教授、早稲田大学客員講師。
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