持続可能な循環経済をめざして 笹尾 俊明 立命館大学経済学部教授(2024年6月25日号)

連載「続・サーキュラーエコノミーを創る」② 持続可能な循環経済をめざして

持続可能な社会の実現に向けて、廃棄物処理政策の延長線上としての循環型社会から、経済の仕組みを再設計する循環経済(サーキュラーエコノミー:CE)への移行が求められている。持続可能なCEには、私たちの普段の生活やそれを支える産業活動が自然と循環型に向かうような「無理のない仕組み」が必要である。

CEのインセンティブ

鍵になるのは、経済的インセンティブ(動機付け)と拡大生産者責任(EPR)だ。
CEに関する経済的インセンティブの代表例として、ごみ処理の有料化や産業廃棄物税、そして地球温暖化対策のための税(いわゆる炭素税)等がある。これらは一般廃棄物や産業廃棄物、二酸化炭素等の地球環境に負荷を与える物質に対する課税や課徴金である。こうした社会への負の影響(外部性)を「外部費用」として市場に取り込み、社会的に最適な水準まで廃棄物や汚染物質の排出を抑制させることを、経済学では「外部性の内部化」と呼ぶ。外部性を市場に内部化することで、廃棄物や二酸化炭素を削減することに経済的価値が生まれ、それが後述するCEの便益(経済的メリット)にもつながる。
もう一つの仕組みが拡大生産者責任(EPR)だ。EPRは使用済み製品の処理に関して、生産者が物理的責任や財政的責任を負うというもので、日本でも容器包装・家電・自動車等でその考え方に基づく政策が導入されてきた。EPRを適切に運用するためには、モノの生産・流通からなる動脈産業と廃棄物の回収・処理等の静脈産業との有機的な連携が必要だ。

CEの便益と費用

私たちがCEをめざすのは、それによって社会に何らかの便益がもたらされると期待するからだ。例えば、製品のリユース・リサイクルや長寿命化によって、新しい原材料の購入費や古い製品の処理費用を節約すると同時に、天然資源の保全や最終処分場の延命、二酸化炭素の排出削減等が期待できる。
一方で、製品の回収・分別・洗浄や再資源化には費用がかかり、製品の長寿命化にも設計やメンテナンス等で相応の費用がかかる。また、リサイクル等にも資源やエネルギーの投入が必要であり、二酸化炭素やそれ以外の環境負荷(外部費用)が発生する場合もある。したがって、CEが正当化されるためには、その便益と、外部費用を含むコストをできるだけ正確に捉え、前者が後者を上回る必要がある。

需給バランス

せっかく、製品等がリユース・リサイクルされても、それを利用する人や企業がなければ循環しない。EUでは、自動車・バッテリー・容器包装等の生産において一定比率以上の再生材利用を義務付ける規則の整備が進められているが、こうした取り組みは再生材の需要喚起につながる。
しかし通常、廃棄物は市場の相場とは関係なく排出(供給)されるため、再生品や再生資源の需給をバランスさせるのは難しい。
そこで注目されるのが、使用済み製品を同じ種類の製品に再資源化する「水平リサイクル」だ。水平リサイクルの場合、消費量が毎期一定であれば、利用する分だけ製品(資源)が排出されるので、理論上、廃棄されるごみは出ない。以前から見られたアルミ缶等の事例に加え、最近ではPETボトル等の水平リサイクルが広がりつつある。
とはいえ、技術的な制約等から水平リサイクルが難しい場合もある。その場合、再生資源の質の劣化に応じて再資源化を行う「カスケードリサイクル」も有効である。例えば、比較的品質の高いOA用紙を古紙として回収し、新聞紙に再生し、さらにそれをトイレットペーパーに再生するといった事例が古くからある。
このように水平リサイクルとカスケードリサイクルをうまく組み合わせることで、需給バランスを維持することが持続可能なCEへとつながる。

持続可能なCE

持続可能なCEには、関係事業者が適正な利益を得られることも重要である。そのためには、少なくとも資源循環等に係る費用に見合う収入を得なければならない。
一般に、資源循環にはリサイクル等の処理に加え、処理過程で発生した残さの処理費用等が発生する。ここで、それらの費用に見合う収入を再生品(再生資源)の販売によって得られるのが理想であるが、モノによってはそれが難しい。その場合、費用から収入を引いた不足分を処理料金という形で廃棄物の排出者から徴収する。この処理料金が先述の「外部性の内部化」に係る税や課徴金よりも安ければ、循環へのインセンティブが働く。
また収集選別の効率化、循環技術の普及・向上、素材の統一等を通じて、資源循環に係る処理費用を低減させ、いわゆる「アップサイクル」のように再生品の付加価値向上により売却益を増やすことができれば、儲かるCEになる。
一方、一事業者が持つ技術や知見には限りがある。異業種を含む他の事業者との連携も重要であり、それを進める行政の力も必要だ。事業者間の連携や官民連携は持続可能な地域社会の形成にもつながる。大きな「循環」の輪の中で、多くの市民や様々な業種の事業者、そして行政が網目のように結ばれ、資源・モノ・お金を融通し合う社会こそが、持続可能なCEの姿であろう。

著者略歴

笹尾俊明 立命館大学経済学部教授

岩手大学教授を経て、2021年より現職。神戸大学博士(経済学)。専門は環境経済学、特に廃棄物処理・資源循環に関する経済分析。著書に『循環経済入門―廃棄物から考える新しい経済』(岩波新書)等。

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