CEをDX戦略・プラットフォーム戦略として捉える必要性 廣瀬 弥生 東洋大学教授(2023年7月15日号)

連載「サーキュラーエコノミーを創る」④ CEをDX戦略・プラットフォーム戦略として捉える必要性

近年、欧州で積極的に取り組みが展開されているサーキュラーエコノミー(CE)は、グローバル企業にとって「環境対策」よりも、デジタル技術を活用したビジネスモデル展開のための戦略という意味合いが大きい。欧州企業のCEを活用したビジネスモデルに関する動向と、日本企業に必要なアクションについて述べる。

CEはDX戦略に活用されている

欧州グローバル企業はCEとデジタルトランスフォーメーション(DX)を融合させて戦略を展開している。DXとは、AI等の先端デジタル技術を活用して、ステークホルダーとの新たな関係性を構築し、顧客中心の価値を創造することで競争優位性を確立するビジネス戦略である。そのために従来のオペレーション等を破壊し、ビジネスに変革をもたらす。欧州グローバル企業ではCEを活用して関係企業や顧客との新たな関係性を構築するデジタルバリューチェーンを創出する動きが盛んである。
例えばBMWグループは、EVバッテリー製造について材料メーカーやサプライヤーに参加を呼びかけ、CEに基づいた持続可能なデジタルバリューチェーンを構築し、製造段階のみならず製品販売後のライフサイクル全体を考慮したDXも推進している。具体的には廃棄物削減、製品の長寿命化やリユースを促進するために製品データをデジタルプラットフォーム上に蓄積し、AI技術やデータ活用により、製品製造業のみならず静脈産業の競争優位性を確立しようとしている。

DXとCEを活用したプラットフォーム国際標準化戦略

2022年9月、BMWグループは、中国のCATLと2025年から発売するEVの新シリーズに搭載する円筒型バッテリーセルの供給で複数年契約を結んだと発表した。この契約で両社は循環型バッテリーバリューチェーンの構築を明らかにしており、国際標準化を狙っていると見ることが出来る。
欧州企業が、自社のデジタルバリューチェーンを国際標準にする目的は、同アプリケーションを広く普及させることにより、ユーザーのデータを蓄積しAI等の先端デジタル技術を活用してノウハウを蓄積し製造業における主導権を握ることにある。この取り組みは、欧州企業がDXに基づくプラットフォーム戦略を進めていく上で、米国や中国企業との重要な差別化要因となっていくであろう。

日本企業がCEを展開するにあたって

日本がCEやDX戦略で出遅れている理由を探るため、欧州の特徴と比較していく。


変革に向く欧州企業と変革に不向きな日本企業

CEやDXを導入するには、従来のオペレーションやマインド等を捨てて新たな考えを基にした変革が必要である。欧州企業では、CEを導入することが〝目的〟ではなく、戦略的なゴール達成のための〝手段〟と捉えられるため、ゴールに向けた変革を従業員や関係企業が比較的受け入れやすい。
日本企業では、戦後の高度成長の名残もあり、新たな事業の目的が、先進的な欧米企業の手法を勉強して追いつくことであり、独自に新たな戦略を考えることより、効率的に運営することに注力してきた。CEについても、目的を明確にすることなく欧州の手法をそのまま導入する傾向が強く、変革を実現することは非常に難しいと言える。

環境問題に関する意識や仕組みが根付いている欧州

欧州では、小学生の頃から議論の機会を設ける等、市民が環境問題について身近に考える機会が多いのに対し、日本の環境教育は歴史が浅く、市民の関心も比較的薄い。
多くの市民が環境問題に触れている上、既に静脈産業の規模が大きい欧州では、CE関連のビジネスを実施することへの違和感は比較的小さい。一方、市民の多くが環境問題に触れる機会が少なく、静脈産業も未成熟な日本では、CEを活用してビジネスを実施することは難しいと言える。

欧州政府のCE支援でDXマーケット創出

2015年のCE政策パッケージ発表以降、欧州委員会や欧州各国政府は様々な施策を展開している。例えば、欧州委員会は消費者の「修理する権利」を認め製品の長寿命化を提唱しているが、これは欧州市場において機器の保守メンテナンスに関するDXアプリケーションの普及を促す効果がある。米国内で普及が遅れた同アプリケーションのマーケットが欧州主導で立ち上がることで、欧州企業は、ビジネス戦略上で有利に展開できる可能性が高まる。一方、日本政府がCE関連施策を通じて、国内企業の競争優位性を獲得出来るように支援をしたケースは見当たらない。



著者略歴

東洋大学情報連携学部教授 廣瀬 弥生

経営学博士、経済学修士、都市計画修士。大手情報通信系シンクタンク、外資系ファームなどを経て、2019年から現職。専門分野はデジタル業界ビジネス戦略、デジタル技術の社会実装、ナレッジマネジメント、リーダーシップ論。

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)