資源生産性とCE 森口 祐一 国立環境研究所理事(2023年12月5日号)

連載「サーキュラーエコノミーを創る」⑨ 資源生産性とCE(サーキュラーエコノミー)

生産性の総本山の専門紙の読者には釈迦に説法であろうが、資源生産性とは労働生産性をはじめとする他の生産性と同様、生産要素としての資源の投入あたりの産出を現す概念または投入量に対する産出量の比を表現した指標である。一方、Circular Economy(CE)は、直訳すれば「循環経済」で、資源の循環的・効率的利用によって、資源利用に伴う環境への悪影響を低減させつつ経済生産を維持・発展させる概念である。
欧州では、しばしばCEはResource Efficiency(資源効率(性))という語とともに使われ、これらが近年の環境、廃棄物政策、さらには産業政策のキーワードとなっている。「循環」経済という語から想起されるリサイクルは、CEの重要な手段の一つであるが、CEは、シェアリングエコノミーへの移行など生産・消費のパターンの転換を含む広い概念である。資源効率は社会や政策の方向性として、資源生産性はその進展を測る指標として位置づけられることが多い。

豊かさと資源消費のデカップリング

従来型の経済では、生産量の増大に比例して資源消費量や付随する環境への悪影響も増大しがちであったのに対し、それらの関係性を「切り離す」必要性を提唱したデカップリングという語もしばしば使われる。「ファクター4 豊かさを2倍に、資源消費を半分に」(1998年省エネルギーセンター刊、E・U・フォン・ワイツゼッカーほか著、佐々木建訳)の著作で知られるドイツのワイツゼッカー博士が共同議長を務めたUNEP国際資源パネルの2011年のデカップリングに関する報告書でも、エネルギー生産性、労働生産性との対比も含め、資源生産性が”Doing more with less”というキャッチコピーとともに中心的な概念に据えられている。

世界の潮流と廃棄物処理からCEへの転換

わが国では2003年に策定された循環型社会形成推進基本計画の第1次計画において、既に資源生産性の指標と数値目標が取り入れられていた。その翌年にはG8シーアイランドサミットで当時の小泉純一郎総理が3Rイニシアティブを提唱し、2005年の東京での3R関係閣僚会合開催を経て、2008年のG8環境大臣会合では「Kobe 3R Action Plan」が採択されるなど、日本が国際的なリーダーシップを発揮していた。
但し、わが国における循環型社会政策は、最終処分量の低減をはじめとする廃棄物処理政策側の視点が強かった。2011年の東日本大震災後、災害廃棄物など国内問題への対応への注力と国際的なプレゼンスの維持の両立が困難な状況の中、欧州はCEを明確に打ち出していた。環境省「2016年版環境・循環型社会・生物多様性白書」では、欧州で新たな取り組みが進展する一方で国内的には資源生産性目標の達成が困難になる状況に触れ、「従来から循環型社会を提唱し、世界をリードしてきた我が国としては、こうした取り組みに後れを取ることがないようにしなければなりません」と述べていた。
2016年のG7は、日本が議長国であり、環境大臣会合では、資源効率性・3Rを中心概念に据えた「富山物質循環フレームワーク」が採択された。国際資源パネルから大臣会合に提出された報告書「資源効率性:潜在的可能性及び経済的意味」では、前年のSDGs、パリ協定と呼応して、5項目の主要なメッセージが出され、その第1で資源効率の向上がSDGs達成に重要であること、第2で気候変動の目標達成には資源効率性の向上が不可欠であることを謳っている。

SDGs、CNの達成においても天然資源採取量の削減が鍵

わが国も2050年カーボンニュートラル(CN)を宣言したが、資源生産性・資源効率やCEはCNとも深く関わっている。セメント、鉄鋼などの建設資材をはじめ、素材産業は主要な炭素排出源の一つである。CNの達成のために許容される炭素排出量の制約のもとでは、資源生産性の飛躍的な向上が求められる。一方、CN実現のための新技術では、銅や稀少金属などの重要鉱物の需要が増加することが見込まれ、これらの鉱物の効率的・循環的利用が急務となる。
資源生産性の指標として、日本の循環基本計画では直接資源投入量(DMI)あたりのGDPを、欧州統計局(EUROSTAT)ではDMIから輸出物を差し引いた国内資源消費量(DMC)あたりのGDPを指標としてきた。欧州も日本も重要鉱物の大半を輸入に頼っており、精鉱などの形で国内の統計に輸入量として計上される量に比べ、採掘国での天然資源の採取量ははるかに大きい。資源はその種類によって、量的制約、採取時の環境影響など、多様な側面からの評価が必要であるが、天然資源の採取量に換算したマテリアルフットプリントはその近似値として、資源生産性指標の分母により適したものといえよう。SDGsのターゲット8.4と12.2の指標にも取り入れられている。
DMIでみたわが国の資源生産性は、社会の成熟化に伴って建設用鉱物の投入が低下する中で、21世紀初頭にみかけ上は向上したが、その後の改善は鈍化しており、さらに一次資源量あたりの資源生産性でみると横ばい傾向である。脱炭素化に向け、近年ではDMIの4割近くを占めるに至った化石燃料の消費が減る一方、CN技術の大量導入はマテリアルフットプリントを増大させる。それゆえ、CEの旗印のもとで資源の効率的・循環的利用の対象物の優先度を考えるうえでも、目の前にある資源、物質の量ではなく、マテリアルフットプリントの回避量で判断することが重要であろう。

著者略歴

森口 祐一 国立環境研究所理事

博士(工学)。国立環境研究所社会環境システム部資源管理研究室長、同循環型社会・廃棄物研究センター長、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授等を経て、2019年から現職。2021年東京大学退職、同名誉教授。専門は環境システム学・都市環境工学。

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