「 人的資本経営及び情報開示への向き合い方 」一橋大学大学院 経営管理研究科 教授 円谷 昭一 氏
人的資本開示は経営問題~進まぬ従業員の再配置~
一橋大学大学院経営管理研究科教授の円谷昭一氏は2023年2月24日、第95期人事部長クラブの2月例会で、「人的資本経営及び情報開示への向き合い方」をテーマに講演した。企業の持続的成長を促すために「人的資本」に関する情報開示の項目が追加されたコーポレートガバナンス(CG)・コードや、人的資本、多様性に関する開示などが求められる「企業内容等の開示に関する内閣府令」などへの対応について解説した。
円谷氏は「日本企業の最大の問題点は、ポートフォリオの組み替えが進まないことであると私は考えている。CGコードに人的資本経営という言葉が入ったのは、(成長分野に)人材を移動させる企業改革を促す狙いがある」と話す。
日本企業の事業ポートフォリオの再構築や非連続な成長を阻んでいる要因として、円谷氏は「従業員の再配置が進まないこと」を挙げる。例えば、自動車セクターにおいて、電気自動車へのシフトが進みにくい背景には、エンジンからモーターへの転換のために、エンジン技術者をどう再配置するのかを描けていない実情を例示した。
政府はリスキリングの重要性を指摘しているが、円谷氏は「リスキリングは、日本語で学び直しと訳されるが、この言葉はこれまでのスキルが無意味になっているとの印象を与えるので、スキルの追加取得と訳すべきだろう」との考えを示す。
「リスキリングは将来必要とされるスキルから、現在持っているスキルを引いたもの」だという。このため一人ひとりの従業員が持つスキルを可視化することと、成長分野で必要とされるスキルを特定することの二つの作業が、スキルの追加取得には必要になる。
円谷氏は「従業員は、10年後も『いい会社だね』『いい製品だね』と言ってもらいたいはずで、そのためにリスキリングを求めているのではないか。ただ、リスキリングは一企業の枠を超えて、社会全体でリスキリングの枠組みを構築する必要がある」と指摘した。
「リスキリングは将来必要とされるスキルから、現在持っているスキルを引いたもの」だという。このため一人ひとりの従業員が持つスキルを可視化することと、成長分野で必要とされるスキルを特定することの二つの作業が、スキルの追加取得には必要になる。
円谷氏は「従業員は、10年後も『いい会社だね』『いい製品だね』と言ってもらいたいはずで、そのためにリスキリングを求めているのではないか。ただ、リスキリングは一企業の枠を超えて、社会全体でリスキリングの枠組みを構築する必要がある」と指摘した。
また、令和5年1月31日に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正でも、人的資本に関する開示が求められた。人的資本に関する三つの項目のうち、女性管理職比率は女性活躍推進法で、男性の育児休業取得率は育児・介護休業法で既に公表が求められている数字だ。
男女間賃金格差も、1999年3月期までは有価証券報告書で開示されており、それが復活する。ただ、円谷氏は「単純平均した数字だけを示すと、日本の雇用形態の実態を知らない海外の投資家から男女間格差や差別を指摘される恐れがある。法定開示を超えて、注記をつけるなど丁寧に説明するべきだ」と述べた。
開示方法の注意点として、同一労働同一賃金の達成率が北米で100%となったことを示したアメリカの化学メーカーの3Mや、人に関する費用の総額を公表している中国IT企業のテンセントなどを例に出し、「日本で求められている情報開示の考え方が大きく違っており、その差をどう埋めるかが重要だ」と指摘した。
円谷氏は「海外の機関投資家は、非財務情報ではなく、将来は利益に貢献する未財務情報を求めている。人的資本は開示の問題ではなく、経営の問題であることを意識しなければならない」と述べた。
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