総合計画の「脱形骸化」と「成果」を生む運用体制構築のポイント

なぜ総合計画は「形骸化」してしまうのか

少子高齢化が進展し、財政規模の縮小が不可避となる自治体において、優先度や予算規模に鑑みた政策の選択が必要になります。自治体が策定する「総合計画」は唯一部門横断的で中長期的な計画のため、政策の選択において総合計画の担う役割は今後ますます高まるものと考えられます。

総合計画は2011年4月の地方自治法の改正により、総合計画を構成する計画の一つである基本構想の策定の義務付けが撤廃されたことで法的な策定根拠がなくなりました。

法改正によって法的な根拠はなくなったものの、日本生産性本部が2016年に行った「基礎的自治体の総合計画に関する実態調査」によれば9割以上の自治体が「今後も策定する予定」と答えています。

しかし、総合計画の策定に明確な目的や根拠があるとは必ずしもいえず、同調査では6割以上の自治体は条例等の制定を行わず主体的な位置づけがされていないことや、6割近い自治体で総合計画に予算額が含まれていないことがわかりました。目的や根拠になる主体的な位置づけがなされておらず、また策定への計画の裏付けとなる予算額が含まれていない結果から、自治体の総合計画の多くが「形骸化」していることが見えてきます。

一体なぜ、総合計画の形骸化が起こっているのでしょうか?

その要因は総合計画の「運用」段階にあると考えられます。自治体では総合計画以外にも教育や福祉、産業等といった多くの各政策分野で個別計画を作成し、それぞれに定性的・定量的な目標を設定しています。総合計画はその自治体における中長期的な政策方針を示す最上位計画ですが、実際に運用するうえではこれら個別計画との連動が重要なポイントになります。

先述の調査では多くの自治体が個別計画の数を把握しておらず、総合計画を構成する基本構想を期間内に改定を行わない状況が明らかになりました。

また、近年首長選挙において「公約=マニフェスト」を掲げることが一般的になりました。行政運営において首長のマニフェストは大きな影響力を有していますが、多くの場合で首長の任期と総合計画との年限が一致していません。

総合計画は期間中の改定がされず、マニフェストや個別計画との連動がされていない等の運用上の課題によって重要度が低下し、放置されている様子が見えてきます。特に個別計画はその自治体の各政策分野の取組を規定するものですが、昨今は新型コロナウイルス対応や中心市街地活性化等、分野横断で取組むべき課題が増加しています。そのため横串となる総合計画との連動の必要性はますます高まると考えられます。


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形骸化を防ぐカギは「トータルでのシステム運用」

では、どのようにしたら総合計画の形骸化を防ぎ、成果を生む運用体制を実現できるのでしょうか?
その一つのカギになるのはシステムをトータルで考えることにあります。

システムをトータルで考えることとは、個別計画等の他計画、予算や行政評価、また人事評価等といった他のシステムと一体的で連動するように位置づけることで総合計画を効果的に運用することを意味します。

冒頭で述べたように少子高齢化が進展し、財政規模の一層の縮小が不可避となる人口規模の小さな自治体では、限りのある予算から高いアウトカム(成果)を生み出すために行政の各システムが漏れや無駄のない運営を行える体制を構築することが不可欠です。システムをトータルで考えることの重要性は今後一層高まっていくものと考えます。

日本生産性本部ではこのシステムをトータルで運営する体制の支援に向けて、独自に「JPCトータル・システム診断」を開発しました。

現状の各システムの運用状況を診断し、トータルで運用するために必要な方向性の整理や課題の抽出等を行い、総合計画の実効性の確保に向けた最適な解決策を提示しています。これまでに県や政令市といった大規模な自治体はもちろんのこと、予算確保や地域経営の維持等に課題を抱えている小規模な自治体まで幅広い支援実績があります。


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改善の実例を紹介「人口約5万人のK市の場合」

専門家や他自治体等との議論から「形骸化」する要因を分析


ここからは実際の支援と改善の事例を見ていきます。

人口約5万人のK市では独自に自治基本条例を定めて総合計画の策定を義務付けました。その中で総合計画を核として各システムと連携して機能させる行政運営を規定していましたが、総合計画が現場で活用されることはなく形骸化していました。

そこで総合計画の効果的な運用を実現するために日本生産性本部が主催する「新たな総合計画策定モデルの開発に関する研究会」に参加し、総合計画の変革に着手することになりました。研究会では専門家と全国各地から参加した総合計画策定担当者との議論を経て「地方自治体における総合計画ガイドライン」を作成し、K市でもこのガイドラインに基づきながら策定時点から運用を念頭に置いたトータルでのシステムの構築や、庁内・地域の風土改革の取組を開始しました。


「行政の生産性向上」に向けて総合計画と個別計画の改革に着手


K市ではまず基本計画の策定においてその目的を「行政の生産性向上」と定義し、職員のオーナーシップ(参画意欲)やマインドセットの変革等の基盤整備と他システムの変革を実行しました。続く基本構想の策定では「地域の生産性向上」を掲げて、行政運営のあり方に留まらず地域のあらゆる主体の協働によるまちづくりや政策分野横断での政策の優先度設定等に取り組むことになりました。

ここでK市が重視したのは総合計画と個別計画の同時策定と、市長任期との年限の整合です。可能な限り個別計画との同時策定を行い、もし同時策定が難しい場合でも個別計画が定めている目標や目標値等の見直し等により総合計画と連動した総合的な運用を可能にしました。

また、総合計画に市長公約(マニフェスト)をすべて反映させるとともに、任期と基本計画の期間年限を完全に一致させることで相互の整合性を高めました。

「JPCトータルシステム診断」の活用により体系的な運用体制の構築を実現


K市ではその後、行政運営を構成する各工程である「計画」「予算」「決算」「評価」が総合計画と連動し、また基本構想や基本計画等の各種計画が市長公約と紐づいた体系的な運用体制の構築を実現しました。

K市ではその他にも職員の意識改革を目的とした市長による研修やSDGsの総合計画への組込等の取組を継続的に進め、庁内各部門間や地域の関係者が協働して住民福祉の充実や地域活性化等に向けた効果的な政策を実現するための改革を加速させており、住民満足度等で着実にその成果が表れています。

地域経営と地方創生の支援は「自治体マネジメントセンター」にお任せください


これまで紹介したK市の取組は前述の「JPCトータル・システム診断」で明らかになった状況や課題を基に、K市と日本生産性本部との伴走により進めていったものです。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

本コラムで紹介したものだけでなく日本生産性本部では自治体の経営の質の向上や、地方創生の実践に向けた様々な取組や支援を行っています。

地域経営や地方創生の推進でお困りのことがあれば自治体マネジメントセンターまでお気軽にお問い合わせください。



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