副業・兼業を組織のイノベーションに活かすためには

近年の働き方の変化において注目される副業・兼業について、世の中の動向とこれを活用し、組織の活性化およびイノベーションの創出に活かすためのポイントについて解説します。
※2021年8月24日掲載

副業・兼業の動向について


 副業・兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーション、起業の手段や人生100年時代を踏まえ第2の人生の準備として有効とされており、「働き方改革実行計画」において、その普及を図るという方向性が示されています。

 副業・兼業を希望する労働者は年々増加傾向にあります(図1参照)。一方で、企業として副業・兼業を許可している(許可を検討している)割合は、19.6%と2割を下回っています(図2参照)。従って、労働者の希望や政府が推進する方向性と、企業の取り組み実態との間には、副業・兼業に対する意識に差が出ていることがうかがえます。
挿入①.JPG  出典:総務省「就業構造基本調査」

挿入②.JPG 出典:「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」JILPT・平成30

副業・兼業は認められるべきものか


 日本の企業においては、従来のモデル就業規則を踏まえ、副業・兼業を認めないとする取り決めを明示しているケースが多く見受けられます。一方、裁判判例を踏まえると、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとの見方が有力です。企業が制限することが許される場合は、以下の4つに該当する場合です。

  • ①労務提供上の支障がある場合(長時間労働による業務提供への支障など)
  • ②業務上の秘密が漏洩する場合
  • ③競業により自社の利益が害される場合
  • ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

 従って、労働者が副業・兼業を申し出た場合(または実際に行う場合)、上記4つへの影響や懸念がない場合には、企業はその活動を認めざるを得ないといえます。

 これに伴い、厚生労働省が提示するモデル就業規則(令和34月版)には、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」と記載されています(図3参照)。


挿入③.JPG 出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」(令和34月版)

副業・兼業のメリット(期待効果)と留意点とは


 実際、副業・兼業におけるメリット(期待効果)と留意点はどのようなものがあるのでしょうか。以下に、労働者側と企業側の視点について記載します(図4参照)。

4:労働者側と企業側の視点 副業・兼業のメリット・留意点

メリット(期待効果) 留意点
労働者側

①離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。

②本業の安定した所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。

所得が増加する。

④働きながら、将来の起業・転職に向けた準備ができる。

①就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である。

職務専念義務秘密保持義務競業避止義務を意識することが必要である。

③1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の

適用がない場合があることに留意が必要である。

企業側

①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。

②労働者の自律性・自主性を促すことができる。

優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。

④労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

必要な就業時間の把握・管理健康管理への対応、労働者の職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。


 企業側のメリット(期待効果)として、社内では得られない知識・スキルを獲得すること、優秀な人材の獲得・流出の防止、社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで事業機会の拡大につながるなど、企業の成長を促す要素が見受けられます。

 また、実際に副業・兼業を通じて労働者が実感したことを調査した結果では、上記のように企業が期待する効果が一定程度現れていることがみてとれます。

挿入④.JPG

 出典:㈱リクルート「兼業・副業に関する動向調査2020

副業・兼業を認めるのであれば、企業にとって効果的にデザインすべき


 これまでの内容を踏まえると、企業は副業・兼業を一定程度認めるとともに、企業にとってもより成長を促す有益なものになるように制度として明示することが重要といえます。このポイントは、副業・兼業として認めるもの/認めないものの基準を明確にすることと、許可のステップを明確にすることです。


  • (1)副業・兼業として許可する基準

基本的には、モデル就業規則に基づき定めることとなります。事前に副業・兼業内容をヒアリング(または書類にて提出)し、会社として以下の懸念がないかを判断すべきでしょう。

  • ①深夜における長時間労働等健康への被害が大きいもの
  • ②会社の秘密に関わる情報を活用・利用するもの(またはその可能性があるもの)
  • ③会社の名誉・信用を損なうもの(社会的な道徳や倫理に反するもの等)
  • ④同業他社および営業上競争する企業への労務提供により、利益相反となるもの など

また、いったん副業・兼業を許可した場合でも、その後の仕事の効率の低下や、遅刻・欠勤の増加により、本来の業務に支障が出ている場合には、本人に中止を求めるなどの対応をすることが考えられます。定期的に本人への副業・兼業の取り組み状況をヒアリングし、把握することが大切であると考えます。



  • (2)副業・兼業の許可手順(ステップ)

 労働者が副業・兼業をしたいと考えた場合に、どのような手順で会社に手続きをするかを明確にしておく必要があります。厚生労働省の「副業・兼業に関する届出様式例」を参考に、届け出の内容を整理しておきます。主には、副業・兼業の目的・内容、また雇用される場合は、雇用主名・期間・想定労働時間の把握が望ましいと考えます。そして、承認プロセスを明記し、現場の上長の現業務への影響をヒアリングしつつ、許可する流れとなります。

副業・兼業に高いハードルを感じる場合に(社内副業・兼業)


 これまで兼業・副業を認める場合のポイントについて述べてきましたが、そうした中でも兼業・副業の解禁に躊躇する企業は多くあります。その主な理由としては、労務管理の複雑さやどの程度把握が十分に行えるかの懸念に基づくものです。そうした中で、大企業を中心に「社内」副業・兼業を推進する事例が見受けられます。これは、労務管理面における懸念を抑制し、通常の業務では得られない知見・スキル・ノウハウ・人脈の体得を、別の仕事での経験を踏まえて促進しようとするものです。制度としては、労働者が自発的に自社内または自グループ内の他の事業部・部署において仕事を行います。本籍は現部署となりますが、一定の労働時間を別の部署に割り振るものとなります。

 以下に、近年話題となりましたKDDI株式会社(以下、同社)が推進する「社内副業制度」について紹介します。同社は、正社員約11,000名を対象に、就業時間の約2割を目安として自部署以外での業務を経験できる「社内副業制度」を202061日から導入しています。自部署とは異なる組織・違った環境の業務に携わることで社員の専門性の探索や習得を加速させると共に、組織の壁を超えた人財シナジーによるイノベーション創出の機会を増やすことが目的となります。この取り組みに際し、63名が202061日以降順次社内副業を開始しています(図6参照)。

挿入⑤.JPG 出典:KDDI株式会社(2020)「ニュースリリース:イノベーション創出を加速する『社内副業制度』を開始

 以上、副業・兼業について考える際のポイントを述べてきました。組織の活性化およびイノベーションの創出に活かすために自社での取り組みの参考になれば幸いです。



※本コラムは、現状で信頼できると考えられる各種資料・判例に基づいて作成されていますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。また、本コラムは筆者の見解に基づき作成されたものであり、当本部の統一的な見解を示すものではありません。

日本生産性本部では、人事制度に関するご相談も実施しております。ご希望の際には以下のお問い合わせよりご依頼ください。


筆者略歴

小堤 峻(おつづみ・しゅん)
日本生産性本部 雇用システム研究センター 研究員

大学卒業後、信託銀行で営業・企画業務に従事。2015年1月に日本生産性本部入職。担当領域は、民間企業および学校法人を対象とした人事制度設計支援、人事・労務の教育研修の企画・運営。中小企業診断士・MBA(経営学修士)。

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)