コロナ危機に克つ:転機の外食ビジネス

新型コロナウイルスの感染拡大は、外食産業の経営環境に大きな影響を与えている。居酒屋やファミリーレストランなどの業態で客足が遠のき、収益悪化に追い込まれている。「ステイホーム」の生活を強いられたことで、外食の需要が大きく変化したことが背景にある。アフターコロナをにらみ、市場の「新常態」に対応したビジネスモデルの再構築を迫られた形だ。

「新常態」どう対応 構造改革待ったなし

緊急事態宣言による「自粛」要請の影響が最も深刻だったのは、都市部の夜の繁華街だ。感染防止策として多くの企業がテレワークを導入したため、自宅勤務が増えたほか、夜の会食を自粛するビジネスパーソンも多く、ビジネス街周辺の繁華街の火が消えた。

中でも、酒を提供するレストランや居酒屋、カフェバーなどがやり玉に挙がった。酒を飲みながら盛り上がるコミュニケーションが、飛沫感染を引き起こすリスクを指摘され、東京や大阪などでは事実上、営業が難しい事態になった。

そもそも、飲みニケーションと呼ばれる酒席でビジネストークを楽しむ人たちが減少する中で、コロナ禍が追い打ちをかけた。赤ちょうちんの常連客の中にも、オンライン飲み会で満足している人もいる。

優れた居酒屋の経営を表彰する「居酒屋甲子園」で2度優勝の実績を持ち、首都圏などを中心に串焼きやカフェなどを展開するDREAM ON(本社=愛知県一宮市)も、新型コロナの感染拡大の影響を免れることはできなかった。

赤塚元気社長は「感染拡大防止のため、早い段階で店を休みにした。月6000万円の赤字になり、持続化給付金などを受給しても数日分しか手当てできず、20年間貯めてきたお金が流れていくだけだった」と緊急事態宣言下の苦境を振り返る。

居酒屋業態が活路を見出すのは昼の時間帯の営業強化だ。「ランチタイムに営業することで、収益を上積みできるだけではなく、夜の集客への宣伝効果も期待できる」(日本生産性本部認定経営コンサルタントの小倉高宏氏)からだ。

DREAM ONでも、ランチメニューの強化や、スーパーマーケット前での弁当販売、仕出しやデリバリーなどへの参入など、様々な対応策に取り組んだが、売上高の10%程度にしかならなかったという。

それでも、赤塚社長は前を向く。「まず、新規出店の4店舗を成功させることに注力する。経営体力が残っているうちに収益環境が回復した場合は、M&Aの好機が増え、物件・人材の確保もしやすくなるので、コロナ禍はチャンスでもあると思っている」と反転攻勢に向けて意欲を示している。

郊外のロードサイド店で持ち帰りや宅配のサービス強化が続く

一方、「自粛」要請を受けて、家族層は、「巣ごもり」生活を余儀なくされた。休校や遠隔授業で家にいる子供たちも、自宅で食事をする機会が増え、ファミリーレストランなどでの外食を控えるケースが目立った。

多くのファミレスは、従業員の検温などの健康チェックや、手洗いとアルコール消毒の実施、マスク着用の義務付けなど感染防止策を徹底する一方、来店客同士の間隔を空けるレイアウトに配慮したり、店内の定期的な換気を実施するなど安心感をアピールする。

大手の外食チェーン店の中には、今後もテレワークの普及が進み、収益改善は見込めないと判断し、居酒屋業態の店舗を大幅に縮小する動きを見せている。その一方で、生き残りをかけて、ランチタイムの営業に力を入れたり、持ち帰り弁当や宅配に挑戦する店舗もある。

緊急事態宣言が全面解除され、夜の街にも賑わいが戻りつつある。しかし、コロナ禍で消費者に染み込んだ行動変容が、どこまで戻るかは不透明だ。しかも、感染拡大が再び加速すれば、客足は「ステイホーム」へと舞い戻る。コロナに対応した外食ビジネスの構造改革は待ったなしだ。

消費者ニーズの取り込み重要
日本生産性本部認定経営コンサルタント 小倉 高宏氏に聞く

アフターコロナに向けて、外食経営に必要なものは何か。日本生産性本部認定経営コンサルタントの小倉高宏氏に聞いた。

小倉 高宏 日本生産性本部認定経営コンサルタント

――コロナ禍で外食産業の収益は圧迫されている

「ファミリーレストランや居酒屋チェーンが苦戦する一方で、テイクアウト(持ち帰り)やデリバリー(宅配)に強みのあるファストフードは好調だった。多くの飲食店が弁当販売や持ち帰りに挑戦したが、現状では『餅は餅屋』で、従来から取り組んでいるブランドに軍配が上がっている」


――ステイホームをターゲットにした客層へのサービスは必須なのか

「店内で食べてもらうビジネスを展開してきた店は、従来の売上高を100とすると、店内飲食は70程度に落ち込むことを想定したほうがいい。つまり、残り30をテイクアウトやデリバリーで売り上げをつくっていくつもりで、構造改革すべきだろう。客席を持たず、テイクアウトやデリバリーに絞った『ゴーストレストラン(幽霊食堂)』も登場していると聞く」

――ラーメンやうどんなど、麺類はテイクアウトやデリバリーに不利だ

「食品容器の会社が、冷めにくい容器を開発し、麺類の外食チェーンが採用を始めた。テイクアウトやデリバリーに適した商品開発のテクノロジーの進歩は今後も加速するだろう」

――テレワーク増への対応は

「郊外に住んでいる人たちが自宅やその近くで仕事をするケースが増えていくと、郊外のファミレスやカフェチェーンなどにはビジネスチャンスになる。パソコンやスマートフォンを使える環境の整備など、コワーキングスペースに近い業態もニーズが出てくるかもしれない」

――アフターコロナでも外食産業は苦境が続くのか

「国民生活が変わっても、食事の量が劇的に変わるわけではないので、消費者のニーズに合った商品やサービスを提供すれば、成功できるはずだ。今後、外食と中食、レストランとホテルなど、業界の垣根を越えた競争が激しくなるとみている」


*2020年6月3日取材。所属・役職は取材当時。

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