企業経営の新視点~生産性の日米独ベンチマーキングからの学び④

第4回 日米経営者の対話からの学び

前回までは日本が抱える生産性課題を提起するとともに、その原因について生産性国際比較研究をもとに考察してきた。今回は昨年4月にニューヨークで開催した国際会議(生産性ビジネスリーダーズ・フォーラム、以下BLFP)について紹介する。BLFPには日米の経営者ら16名が集い、生産性向上のために経営者がどのような役割を担い、行動すべきかについて議論した。


BLFPは、日本生産性本部のパートナーである米国のシンクタンク、コンファレンスボード(以下TCB)と共催で実施した。その目的は、生産性向上の主役たる経営者が①生産性向上に関する「相互の学び」を得る②対話経験や学びをそれぞれの立場で「発信」する③自社における戦略構築の参考にする、の3点だ。

経営と生産性を考える上で欠かせないのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)である。BLFPを企画した当時(2018年)はAI、IoT、ロボティックス等の新テクノロジーが注目され、様々な分野で実験や実証が行われ、少しずつ実装され始めていた。また、世界中でこの領域の研究が進むにつれ、「中間的スキルの価値減少」、「賃金低下」、ひいては「大失業時代の到来」といった負の側面も強調されていた。

我々は、新テクノロジーと生産性との関係のポジティブな面を評価しながら、このデジタル変革の時代に、日米両国が停滞する生産性上昇率をどう改善するかという本質的な課題を会議の中心に据えることにした。具体的には「デジタル技術をイノベーションにどのように結びつければ生産性を上げられるのか」、「生産性向上に欠くことが出来ない働く人々のスキルと能力を、どうすれば効果的に活用できるのか」、「顧客や社会のニーズと期待にどう応えていくことが出来るか」など、生産性の分母改善(労働投入量の削減)ではなく、分子改善(付加価値の向上)に向けた課題である。そしてテーマを「デジタル社会における経営と生産性~求められる経営改革と社会的視座~」とした。その上で経営者の役割と行動について、「働き方や仕事の概念を変えてしまうデジタル変革の時代において、どのように組織を変革させ、生産性向上を実現することができるか」「このデジタル変革の時代にどのような人的資源が最も必要とされるのか」「企業は重要な社会課題に応えることで新たな価値を創造できるか」「企業は生産性向上の成果を持続可能な成長の基盤に結実させることができるか」の4点の問いを考えた。

デジタル変革を成長の機会に


(左)茂木友三郎 日本生産性本部会長とTCBプレジデント兼CEOのスティーブ・オドランド氏
(右)第1セッションのモデレータを務めたマッキンゼー・グローバル・インスティチュートのヤーナ・レメス氏

会議は、共同議長を務めた茂木友三郎・日本生産性本部会長、TCBのプレジデント兼CEOであるスティーブ・オドランド氏の冒頭発言で始まり、第1セッションでは、マッキンゼー・グローバル・インスティチュートのヤーナ・レメス氏がモデレータを務め、「デジタル社会における生産性向上への経営者のチャレンジ」をテーマに対話を行った。その要点は以下である。

  • 第4次産業革命の本質はデジタル変革であり、経営者は潜在的成長の機会として捉えるべきである。
  • 企業は顧客とオンラインで繋がることで、ニーズに応える質の高い製品やサービスの提供が可能となったが、他方で顧客と密接に繋がった新規参入者の想定外の挑戦に直面している。
  • デジタル変革は業界の垣根を破壊し、企業に新陳代謝を促進させ、視野の拡大と革新的なソリューション提供を迫る。
  • デジタル変革を成長機会とするため、ビジネスモデルを見直したり、自社にはない強みを持つ外部パートナーとエコシステムを確立したりするために、業務プロセスの変革をしなければならない。
  • デジタル変革は働き方と仕事の概念を変えるため、働く人々のスキル、知識、能力が変わると共に組織も変わらなければならない。
  • AIの高精度で迅速な問題解決能力と、人間の想像力・創造力との相乗効果を発揮させる。
  • 生産性向上には人的資本と技術への投資が重要。技術を活用するのも人財であるため、エコシステムにおける社内外の人財育成への投資が特に重要だ。
  • 「売上・利益の増加とコスト低減」に重点を置く経営から「イノベーションと生産性」に重点を置く経営に変革させるべきだ。

第2セッションのモデレータを務めた
経営共創基盤代表取締役CEOの冨山和彦氏

続く第2セッションでは経営共創基盤の冨山和彦氏をモデレータとして「これからの生産性基盤~持続可能な社会を実現するための経営者の行動」をテーマに対話した。以下は要点である。


  • デジタル化、規制緩和、グローバル化、人口動態の変化により、「生産性が向上し、人々がより熟練した仕事に就き、より質の高い製品・サービスを提供し、賃金が上昇する」という生産性向上とその成果の公正分配の好循環に様々な課題が生じている。
  • 好循環は社会に安定(健康、教育、住居、移動、食料、安全、安心、清潔な環境等の成長の源にアクセスできる機会の平等)をもたらす。
  • デジタル変革は社会のあり方に対して長期的には様々なプラスの可能性をもたらすが、短期的には失業や格差拡大などの社会課題の要因となってしまう可能性もある。
  • 経営者は長期的視点で、環境や社会課題にまで視野を広げ、社会課題解決を組織の成長機会と捉え、デジタル変革と生産性向上の成果を広範にいきわたらせ、社会的利益を増大させる好循環を促進することが求められている。
  • 経営者はデジタル社会のビジョンを創造し、イノベーションとディファレンシエーションを基軸とした組織を戦略的に育成していかなければならない。

経営者の行動指針 四つの要点


これらの対話結果を閉会後にサマリーとして発表し、改めて意見集約を重ねたうえで、同年9月に経営者の行動指針として共同宣言を発表した。以下が四つの要点である。


1.付加価値に着目した生産性経営の実践

新たな製品やサービス、市場を創造する付加価値生産性向上を重視した「生産性経営」に進化させること。長期的視点に基づき、ステークホルダーの共感が得られるよう、成果を公正に分配すること。


2.付加価値の源泉である人財価値の最大化

デジタル技術を活用する働く人々の創造力と応用力こそが付加価値生産性の源泉であり、経営者は、パートナーやフリーランサーを含む社内外の働く人々に積極的に投資すること。


3.イノベーションエコシステムによる顧客価値創造

需要側の論理で顧客価値創造に取り組むため、組織の枠を超えたエコシステムへの投資、産学・企業間での共同研究などを積極的に実践すること。フィジカル空間とサイバー空間の融合を前提として仕事の再設計を行うこと。


4.事業を通じた社会課題解決への貢献

経営者は長期的視点に立ち、デジタル技術等を活用して社会課題をイノベーションや事業の成長機会としてとらえること。社会経済の好循環をつくり次世代に引き継ぐこと。

コロナ危機は世界の社会経済に多大な困難をもたらした。一方、テレワーク等企業活動のデジタル化も緊急対策として進んだ。これを機に企業活動をより構造的に捉え直して、デジタルトランスフォーメーションに結び付けるべきである。この共同宣言が一時しのぎではない変革を実行するための行動指針となることを期待する。

(日本生産性本部 常務理事 大川 幸弘 他)


第1回生産性ビジネスリーダーズ・フォーラム

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