コロナ危機に克つ:石坂産業 「資源の循環デザイン」推進

建設廃棄物の再資源化事業と施設周辺の荒廃した雑木林を保全再生し、その里山を活用した「体験型」環境教育事業を展開している石坂産業(2020年度日本経営品質賞受賞)の石坂典子代表取締役は生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大について、「環境問題への考え方だけではなく、私たちのライフスタイルを見直すきっかけになった」と述べた。ポスト・コロナへ向けて、同社が目指す「循環をデザインする」取り組みを推進していく決意を示した。

全天候型施設建設 独自の分別技術

石坂典子 石坂産業代表取締役

石坂氏は「以前は、環境関連の事業を手掛けていない企業は『環境問題は関係ない』と考えることが少なくなかった。現在は、中小企業も含めて、自社にとっての『環境インパクト』について探り始めている。コロナ禍を経て、環境に対する意識は高くなっている」と述べた。

石坂産業(埼玉県三芳町)は1999年、創業者が、当時の売上高を大きく上回る15億円を投資し、ダイオキシン対策の最新型焼却炉を導入し、更なる飛躍を目指した。その矢先、地元農作物から高濃度のダイオキシンが検出されたという報道(のちに誤報と判明)をきっかけに、地域でのバッシングを受けた。

こうした経験を経て、2000年に代表取締役に就任した、創業者の長女の石坂典子氏は、建設系産業廃棄物の焼却による「縮減」事業から「再資源化」事業への業態転換に取り組み、業界全体のイメージ改善にも積極的に力を入れている。

具体的には、地域環境や労働環境に配慮した製造業の工場のような施設を目指し、40億円を投資して、全天候型再資源化施設を建設した。

さらに、新たな再資源化事業として、土砂系混合廃棄物と建設発生土が混ざった建設副産物を再資源化する乾式の分別・分級技術を開発することに専念し、独自開発による処理プラントを完成させた。

産業廃棄物処理に関して、石坂氏が配慮していることは、分別作業などに取り組む従業員の働く環境の整備だ。全天候型の施設の整備は、炎天下など厳しい気象条件の中で、大変な作業に取り組んできた作業員の負担を軽減する意味もあった。

石坂氏は「今回のコロナ禍で、『エッセンシャルワーカー』という言葉が注目され、これまでは関心を向けられていなかった仕事に対する価値観を浮上させるきっかけになり、当社で働く人たちも自分たちの仕事の社会的役割を実感した機会だった」と述べた。

今後、石坂産業がビジョンとして掲げている、ごみをごみにしない「Zero Waste Design」を実現するためには、「分別・分解しやすい設計と製造の推進」や、「新型素材の成分組成情報公開」など動脈型産業である「作り手」の役割が極めて重要になるという。

また、静脈型産業である廃棄物処理業界の魅力を高め、人材や資金が集まるようにするために、「イノベーションを誘発するための資金投資やロボティクスなどの技術導入」などにも期待を寄せている。

石坂氏は「コロナ禍で、人々の価値観が大きく変わった機会を捉えて、資源の循環型社会の実現へ向けた動きを前進させるための転換点にしなければならない。製造設計などの動脈型産業と、産業廃棄物処理などの静脈型産業の双方が、資源循環を意識した取り組みを進めることが重要だ」と話している。


(以下インタビュー詳細)


環境も、未来も「六方良し」に つくる責任、つかう責任を考えよう
石坂典子 石坂産業代表取締役インタビュー

石坂産業はサービス業に分類されており、売上高に占めるメインの事業は廃棄物のリサイクルだ。それだけでなく、里山の保全事業やその里山を舞台にした子供たちの環境教育事業などにも取り組んでおり、これらをトータルして「循環をデザインする会社」を掲げている。

政府は2000年に、循環型社会の形成を推進する「循環型社会形成推進基本法」を制定した。世界的にも、環境や社会、ガバナンスに配慮した経営を行うことを基準に投資先を選択するESG投資が普及しており、地球環境を中心に据えた世界観の広がりを感じている。

私たち企業経営者にとっては、経済優先一辺倒ではなく、環境、社会、ガバナンスのバランスが重要となるESG投資の考え方に沿った経営が浸透してきたという実感がある。

これまでも、「エシカル(倫理的な)商品」や「フェアトレード(公正な取引)」などの言葉はあったが、何か地球環境問題とは別の次元の使い方をされていたような気がする。しかし、コロナ禍をきっかけに、日本でもSDGs(国連が2030年までの達成を決めた持続可能な17の開発目標)がキーワードとして注目され、国民の間になじむようになり、地球環境に対する意識は高まっている。

世界では、先進国を中心に廃棄物処理から再資源化へ向けて大きく動き始めている。日本でも、コンクリートに枯渇性の砂を使っている問題が注目されるなど、枯渇性の資源をどのように延命させ、エネルギーとして再生していくのかという意識を持って、有効活用に向けた議論が展開されている。

資源枯渇を考える契機に


ただ、日本は「脱炭素」をキーワードにした気候変動の問題に対する関心は高いが、廃棄物の資源循環についての関心は低い。資源循環型社会の実現のため、産業界がこれまで提供してきた商品やサービスを切り替え、人々が暮らし方を変えることは、そう簡単ではない。

2022年4月、プラスチック資源循環法が施行され、プラスチック製のスプーンやストローを提供しないなどの取り組みが行われているが、そこで満足してほしくない。「つくらない・つかわない」で終わるのではなく、本当の意味での生活の豊かさとは何かを考える機会にしたい。

今の生活様式ではプラスチックはなくてはならない存在になっており、さまざまなシーンで使われているプラスチックのうちの一部分で「つくらない・つかわない」という活動に取り組んだだけでは、課題が解決したとは言えない。また、プラスチックだけではなく、資源の枯渇性や有効性について、全産業で考えてもらいたい。

石坂産業はビジョンとして、"Zero Waste Design"を掲げている。2050年、世界の人口は約100億人に達すると言われ、天然資源はどんどん枯渇し、地球上の廃棄物の量は今の2倍になると予測されている。その中で、天然資源を消費する社会に警鐘を鳴らし、ごみをごみにしない社会を創ることを目指している。

当社が注目される中で、"Zero Waste Design"の考え方は業界全体にも浸透し始めている。製造業では、現在、消費者がモノを使用する期間がどれだけ長くなるかを考えてモノを作っているが、材料の組成や設計の段階から、最終的に廃棄され、ごみになることをゴールに据えて、分別・分解しやすいモノづくりを行うことが大事だ。

こうしたことは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」と同じ考え方であり、持続可能な消費と生産のパターンを確保するために欠かせない。これまではごみを処理する責任だけが問われてきたが、これからの時代は、つくる責任とはどういうことなのか、つくられた商品をどのように使うのかという責任が問われている。

ごみ問題を解決する手段として、リサイクルすること、リユースすること、ごみを減らすことは大事だ。また、つくられた商品が廃棄されることを防ぐために、別の商品に生まれ変わらせるアップサイクルも有効な手段だ。

資源利活用へ従来思考を破壊


ただ、これらの取り組みをしていれば全ての問題が解決するわけではない。製造過程で複合化されたり、アップサイクルされた商品もやがてはごみになるからだ。つくる、つかう、捨てるという商品の一連のライフサイクルの中のどの段階で工夫すれば、もっと有効な資源の利活用ができるのかを考えなければならない。モノづくりが人々の生活を支えた時代の思考の延長線上に解はなく、そういう意味では思考破壊が求められている。

持続可能な社会の実現をキーワードに、日本でもさまざまな取り組みが展開されている。例えば、スーパーやコンビニでのレジ袋の有料化や、飲食業界のプラスチック製のストローやスプーンの廃止、ホテル業界では、連泊時の客室清掃を二日に一回にするなどだ。

これらの取り組みは地球環境保護にある程度有効なことかもしれないが、それで終わりにしてはいけない。それぞれの業界が地球環境のためにどういう経営や営業をするべきなのかという根本的な課題に立ち返り、商品・サービスのあり方を変えていくことが大事だ。

業界のイメージ向上に注力


ビジネス界では、「売り手良し、買い手良し、世間良し」という近江商人の「三方良し」が手本とされてきた。これからの時代は、原料調達から生産、そして廃棄に至るまでがフェアに行われる「作り手良し」を加え、「環境に良し」、「未来に良し」の「六方良し」の実現を目指して、ビジネスを展開していくことが求められている。

廃棄物の再生に取り組む現場では、生産されてから十数年使われたモノを処理している。運ばれてくるモノを選びたくてもできない。コロナ禍を経て、使い終えたマスクが大量に捨てられている。マスクは感染性廃棄物に該当され、環境省のマニュアルによって処理方法が定められている。

さらに高齢化が進めば、介護や医療分野から捨てられる廃棄物も増えてくることが予想される。廃棄物の複雑化は処理業者側ではコントロールできず、対症療法で対応するしかないだろう。

また、アスベストのように健康被害をもたらすモノを処理するときには、埋立地で処分するよう指導されている。しかし、そのようにして捨てられる廃棄物が、将来、環境にどのような影響をもたらすのか。埋め立てることが未来の地球のためになるのか。こうした疑問について考え、発言することが私たち処理業者の役割ではないかと考えている。

環境意識が高い欧州の国々では、廃棄物を再資源化する仕事は、「カッコいい」と感じる若い人材も多く、リスペクトされている。それに対し、日本では、「いらないモノにお金を払う」という考え方がまだ根強く、不適正処理や不法投棄などのネガティブなイメージを持つ人も少なくない。

コロナ禍を経て環境意識が高まっている機会を捉え、素材の価値を変え、さまざまなステークホルダーとパートナーシップを組み、環境をデザインしながら、循環経済を実現するモノを作り上げていくことによって、業界のイメージを変えたい。ごみ処理が抱える課題と現状を世に伝え、日々の活動の中で、よりよい方向に進めていくことが私たちの役割であると自覚している。



*2022年6月6日取材。所属・役職は取材当時。

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