実践「生産性改革」:サンデン・リテールシステム 「ど冷えもん」が示す生産性向上の鍵

冷凍食品の自動販売機「ど冷えもん」がサービス産業生産性協議会(SPRING)の「日本のサービスイノベーション2022」に選定されたサンデン・リテールシステム(東京)の森益哉代表取締役社長は、「実践『生産性改革』」のインタビューに応じた。「ど冷えもん」がコロナ禍での食品の持ち帰り需要への対応をきっかけに、様々な業界に広がっているほか、日本企業が直面している人手不足の課題解決にも役立っていることを明らかにした。

作業を機械に任せ、人はサービス力磨け

森益哉 サンデン・リテールシステム代表取締役社長

森氏は「『ど冷えもん』は365日24時間働いて、5年リースを組んだ場合、電気代も含めて、〝時給〟は80円程度で収まる。最低賃金が1,000円を超える時代になり、少子高齢化に伴う働き手不足に悩む経営者にとって、物販の自動販売機は多くの経営課題を解決する力を持っている」と話す。

冷凍食品の自動販売機「ど冷えもん」は、様々な容器形状に対応した業界初のマルチストッカーを搭載しているのが特徴だ。販売する冷凍食品のサイズを制限せず、味や品質を落とすことなく飲食店独自の商品の販売を可能にした。キャッシュレス決済機能も搭載可能で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で対面販売が制限され、苦境に立たされていた飲食店の新たな販路の拡大と売上拡大に貢献した。

ワンオペのラーメン店の店先に設置したことで、販売要員を増やさずにコロナ禍の持ち帰り需要に対応できた。また、食肉を含む食品のセレクトショップが、「ど冷えもん」を使って、3,000円の購入で3,000円以上の高額な肉が当たる「肉ガチャ」を展開して集客を強化するとともに、期限切れで廃棄する食品を減らすことにつなげたという。

製造業の販売ルート開拓にも役立った。食品メーカーの工場内で、工場直送のプレミアム商品を販売したほか、個人で食品を製造販売する店主が、2号店を出す代わりに「ど冷えもん」を設置した。2号店を出すには資金がかさみ、通販で売ると手数料負担が大きいからだ。

この店主は「『ど冷えもん』で売れば価格を自分で決められるし、売れなければ価格を下げる決断も自分でできる」と話しており、設置者が自ら販売をコントロールできる自動販売機活用の魅力を指摘している。

また、「ど冷えもん」によって新たなサービスも生まれている。例えば、日本全国から、選りすぐりの冷凍・冷蔵食品を集めて販売するセレクトショップやアンテナショップとして、自動販売機を活用するケースが増えている。

冷凍・冷蔵機能を備えた自動販売機を普及させるため、温度管理に優れた倉庫やトラックに載せて運ぶための新たな保冷ボックスなどを手掛けるほか、商品の補充を担当するオペレーターの開拓にも取り組むなど「コールドチェーン」の構築にも力を入れている。物流に付加価値をもたらすことが可能で、冷凍食品だけでなく、遠隔での精密温度管理技術が必要な医薬品の管理やデリバリーにも有効な手段となる。

森氏は「『ど冷えもん』を置くことで、冷凍商品の販売量が増え、それを作る人材を雇ったというケースもある。機械が雇用を奪うとは限らない。機械にできることは機械に任せ、人にしかできないもてなしに時間と労力を割くことで、サービス力や生産性を向上させることができる」と話している。


(以下インタビュー詳細)

自動販売機活用で人手不足を克服 冷凍食品販売、抜群の対応力
森益哉 サンデン・リテールシステム代表取締役社長インタビュー

飲料の自動販売機市場は、コンビニエンスストアの台頭により成熟期に入った。キャッシュレス決済機能の搭載など新製品との入れ替え需要はあるが、市場は現在230万台程度となっている。菓子などを販売する物販の自動販売機は昔からあったが、ニーズはあるもののコストパフォーマンスが合わず、飲料の販売機ほど普及していない。

冷凍食品を売る自動販売機を作れば、市場を拡大できるのではないかと思ったが、当時は冷凍食品メーカーに持ち込んでも全く相手にされなかった。そんな時に、新型コロナウイルスの感染拡大によって飲食店の対面営業が制限される事態になって、流れが大きく変わった。

コロナ禍の外食店舗で脚光


店主が一人で切り盛りしているワンオペのラーメン店が「コロナ禍では自分が店内のお客さんにラーメンを提供している間にも、テイクアウトの注文を多くいただく。従業員を増やさず何とか対応したい」という課題を抱えていた。

そこで、当社が開発した「ど冷えもん」で「冷凍にしたラーメンとつゆを自動販売機で売る」ことを試した。店の前に設置した「ど冷えもん」には、800円の冷凍ラーメンを買い求めるお客さんが相次いだ。

そのラーメン店がメディアで注目されるようになり、「ど冷えもん」への関心が一気に高まった。ウィズ・コロナに対応したビジネスモデル転換を促す助成金の後押しもあり、個人店舗を中心に普及が進んだ。助成金が終了してからも、テイクアウト需要は減らず、コロナ禍が落ち着いてからも「ど冷えもん」への注目は高まっている。

今では、洋菓子チェーンが開発したアイスケーキの販売に「ど冷えもん」が活用されているほか、社員食堂や公共施設のカフェテリアなどを運営する業者など、多方面から問い合わせをいただいている。最近は、人手不足や人件費の高騰により、飲食店を取り巻く経営環境が悪化しているが、この冷凍食品自動販売機は、こうした課題の解決策の一つになる。

急速冷凍技術の発達により、冷凍食品の品質を高く保てるほか、冷蔵食品に比べて賞味期限も長い。小売店は、食品ロスの削減や物流の2024年問題に直面しており、コンビニエンスストアでも、冷凍食品の店舗レイアウトを強化する動きがある。食品の在庫管理や廃棄の削減などの課題解決にも「ど冷えもん」は効果的だ。

「ど冷えもん」が選ばれる理由に、大容量で対応力抜群のマルチストック式を搭載していることがある。トレイがついた幅広の冷凍食品や大箱アイスなどに適したツインストッカーや、食べきりサイズの冷凍総菜などに適したシングルストッカーなど、様々な商品サイズに対応したストッカーを、商品に合わせて選ぶことができる。

また、スマホ感覚で操作できる液晶タッチパネルを搭載しており、販売時は消費者をサポートする購入画面として活用できるほか、販売機の様々な設定を行う管理画面としても使用できる。専門知識がなくても簡単に操作が可能だ。

お客様のニーズが多様化する中で「ど冷えもん」も製品ラインアップを増やしている。大容量、多品種販売対応の冷凍専用機などを備えた「ど冷えもんWIDE」や、冷蔵・冷凍の切り替え販売に対応できる「ど冷えもんNEO」、冷凍専用薄型「ど冷えもんSLIM」などがある。

飲料の自動販売機が普及した背景には、優秀なオペレーター業者の存在がある。自動販売機経営の難しさは、「誰が商品を詰めるのか」に集約される。今は、キャッシュレス決済機能付きにすれば、盗難などのリスクは抑えられるし、商品がどれだけ減ったか、故障はしていないかのチェックもクラウドを利用して遠隔でできる。しかし、商品を補充する作業は、人手に頼らざるを得ない。

商品補充担う業者を開拓へ


「ど冷えもん」の今後の課題は、冷凍食品のオペレーター業者をいかに育てるかだ。飲食店の店先に設置した場合は、店主が補充を行えるが、遠隔地のロードサイドの自動販売機を増やすためには、優秀なオペレーター業者の開拓は欠かせない。

プレハブの冷凍・冷蔵倉庫の施工部隊を持っているほか、トラックなどの輸送機器に載せる車載用冷凍・冷蔵ボックスも開発した。軽ワンボックスの荷台に収まる「レボクール・キューブ」や、10時間無電源で確実な冷凍・冷蔵保存を実現する「レボクール」などを揃えている。

そして、このコールドチェーンの中で重要な役割を果たすのがオペレーター業者であり、様々な業界に新規参入の意向がないか、声をかけているところだ。例えば、牛乳配達業者は冷蔵設備を持っており、有力な候補だ。新聞販売店も人やルートを持っているので、デリバリーするコンテンツに冷凍食品を加えてはどうかと呼びかけている。

また、コールドチェーンの構築で、冷凍食品以外の物販にも用途が広がる。例えば、徹底した温度管理が必要な医薬品分野は有望な市場だ。食品業界の衛生管理HACCP(ハサップ)(※)の対策として作った製品は、医療関係にも活用できる。

例えば、「医薬品自動管理システム」は、医薬品の管理・払い出しを自動化できるのが特徴。薬品の入庫・出庫の自動管理、在庫データ管理による棚卸作業の低減、薬品の取り違え防止に効果がある。

飲料の自動販売機に取り組んでいる時は気づかなかったが、自動販売機には経営や社会課題の解決に役立つ力が備わっている。

今、検討しているのは自動販売機の技術を、モノの販売ではなく、モノの管理に応用することだ。これによって、サービス業だけではなく、製造業も含めた様々な産業で生産性向上に役立てることができる。

製造現場では、FA(ファクトリー・オートメーション)によって、製造は自動化が進んでいるが、管理は人任せである場合が多いと聞く。例えば、作業スタッフが用いる工具管理に、自動販売機の技術を応用し、在庫管理や棚卸作業の効率化に寄与することが可能だ。

自動販売機と同じ形状をした小型の自動倉庫を想像してもらいたい。作業者が必要な工具を取り出すと、その個人の特定と、工具の数量を自動で管理することができる。

工具の大きさや形状に合わせて、スパイラル方式やコンベア方式を選択することができる。さらに、ロッカーユニットと接続し、ロッカーを開ける鍵を倉庫から取り出すような活用方法もある。このロッカーには、大きいモノや一日分の工具セットなどを入れると便利だ。

小型倉庫はクラウドサーバーにつながっている。データベースを作成し、バーコードによって自動記録するので、管理者は使用状況をリアルタイムで把握できる。工具管理者の手間が減り、発注や経費処理にも役立つ。在庫が減ったらアラートを発するほか、自動発注、自動請求システムとの連携も可能だ。

社会課題のなかで人手不足が最も深刻な問題であり、デジタル技術だけでなく、当社が持っているハードウエアの技術を活用し、社会に貢献したい。


(※)HACCP(ハサップ)とは:Hazard Analysis and Critical Control Pointの略で食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法のこと。(厚生労働省HPより引用)

*2023年10月23日取材。所属・役職は取材当時。

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