徒然なれど薑桂之性は止まず② ガタガタになった「日本的経営」

日本的経営とは


エズラ・ヴォーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書いた頃、OECD(経済協力開発機構)は、日本の労使関係等について、①終身雇用、②年功序列賃金、③企業別労働組合の三種の神器による「日本的経営」はうまく回っていると評価し、日本の労使も宜(むべ)なるかなと相槌を打っていた。

この「日本的経営」は、会社側が労務管理権、業務に関する指揮命令権を駆使し、労働者(社員)はその労務管理と指揮命令に服し、職務配置や異動・転勤、教育訓練、昇進昇給等を受け入れ、まじめに働けば雇用と生計まで保証される。賃金(退職金・企業年金含む)も年功的に保障される。この関係を企業別労働組合との労使関係を通じて担保し、労働者との信頼関係を構築するというのが基本的な構図である。

日本的経営と生産性運動三原則


この「日本的経営」の中で育まれたのが「生産性運動三原則(労使協議の原則、雇用の安定的な維持、生産性向上の成果の適正な分配の原則)」を労使で共有する生産性向上運動である。この三原則を提唱する日本生産性本部のスタート直後は労働組合側に会社側に対する懐疑心もあり一挙にはいかなかったが順次労働組合側にも「生産性運動三原則」の考え方が受け入れられてきた。そして、生産性向上運動の脈絡の中でIE(Industrial Engineering)、QC(Quality Control)、改善提案、小集団活動等の職場活動にも力が注がれ、「日本的経営」は日本の高度成長を牽引する大きな力となった。

何故「日本的経営」がガタガタになったのか


日本の高度経済成長を支え、GDP世界第2位の経済大国化に多大な貢献をした「日本的経営」はアメリカの経済・産業政策の見直しやドル高政策、中進国や途上国の追い上げ等の外的要因に加え、バブル経済とその崩壊、金融機関の破綻と貸し渋り、技術革新の停滞や設備投資の縮減等日本の経済・産業の在り方に係わる要因も作用し、デフレ型の低成長経済に落ち込んでいった。

この日本経済の停滞に併行していわゆる新自由主義経営論に導かれたコーポレートガバナンスのルールの見直し(具体的には企業会計ルールの変更、委員会等設置会社の奨励、株主利益至上主義的な経営等)が進み、物言う株主の台頭の影響も受けたコストカット経営の常態化にも拍車がかかる状況に合わせ、バブル経済の崩壊の流れの中、銀行の貸し渋りもあり、企業は内部留保確保指向の経営に走った。

このような経済・経営施策の変化のもとで会社側は労働組合に“雇用か賃金か”を迫り、労働組合は雇用指向の中で、賃金停滞を受け入れ、「日本的経営」のコアであった会社と労働者の相互信頼の絆の破れ・綻びを招いたのである。

この労働者と会社との信頼の低下は、「日本的経営」の円滑な廻し役の責を担う企業別労働組合に対する組合員の信頼低下にもつながっていないか、懸念される。会社の言いなりになっている労働組合という組合イメージを持つ組合員も多く、会社側は社内活動を中心とし産別やナショナルセンター(連合)の運動への強いコミットメントを嫌う傾向にある。

(2024年5月125日号掲載、全30回連載予定)

執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。

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