徒然なれど薑桂之性は止まず③ 「日本的経営」の劣化に随伴した事象

「日本的経営」の劣化の実相


「日本的経営」の劣化は、具体的には、特に製造業における派遣労働者の増加や工場の海外移転等による正社員減少が終身雇用の保証の約束を反故にした。ローコスト経営や株式利益至上主義経営が初任給と賃金レベルを低く抑え、年功賃金の体系を崩壊させ、30年に及ぶ賃金停滞の時代となった。この30年に及ぶ賃金停滞は日本経済を沈滞させ、日本の経済力の低下、ひいては少子化を招いた。

直近では政府も経済再生の最大のポイントが日本企業の賃金への配分不足にあることを認識し、賃上げ減税等の対応をしてきたが、実質賃金は低下を続けている。また、非正規雇用労働者の比率が4割を超え、正規雇用主体の日本の雇用社会はかつての面影を完全に失った。企業別労働組合も雇用確保に軸足を置いたとはいえ賃金は停滞を続け、非正規雇用の増大にも歯止めを掛けられないまま労働組合はその存在意義を問われている。

生産性向上の成果の適正配分原則の破綻


生産性向上の成果は企業活動のステークホルダーの間で適正に分配するというコンセンサスが崩れた。株主利益を優先する株主配当率の向上・自社株買いに比べ、他のステークホルダー、特に労働者への配分は絞り込まれ、長期にわたる賃金停滞・デフレ経済を招いてきたのは前述の通りである。

併せて企業別労働組合の団体交渉等における会社側への拮抗力の低下や、産業別労働組合との連携の脆弱化による相乗効果の減退、塀内組合の弱さ(会社側との企業内折衝に引き摺られてしまい、組合側の主張展開力が弱い状態)の露呈も懸念されている。

こうした「日本的経営」の劣化につながる最大の誘因は、ローコスト指向経営、新自由主義的経営にある。これらが、日本生産性本部が提唱し、日本の民間労使が前向きに受け止めてきた「生産性運動三原則」を形骸化させてきた側面があることを踏まえ、日本の生産性向上運動の見直しも求められているという認識を広く共有する必要がある。

なお、株主利益に資する自社株買いについては、自社株を所有する社員以外は成果配分の埒外の話として、日本生産性本部としての見解を整理する必要がある。

労務・勤労スタッフと労働組合専従者の切磋琢磨のレベルアップ


会社側の労務・人事・勤労関係スタッフと労働組合の専従者は、仕事柄、お互いを映し合う鏡の関係にあり、企業の構成員である社員の権利と生活の改善のために、労使の立場の違いを乗り越え、共同して働く関係にある。

時移り、人変われども労使に求められる基本的な要請に応えるため、共に切磋琢磨し合い、学びのレベルを不断に追求する必要がある。

日本の労働組合の組織率は低迷を続けて久しい。特に中小企業や非正規雇用労働者の組織率は際立って低い。組織率向上への努力が強く求められているが、組織率が低下しているもう一つの大きな理由が、大学卒労働者の早い年代(30代前半)での非組合員化による企業内組織率の低下だ。労働運動の力量低下には、この企業内組織率の低下も与って大きい。

(2024年5月25日号掲載、全30回連載予定)

執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。

関連するコラム・寄稿