徒然なれど薑桂之性は止まず⑧ シンガポールの素晴らしい発展
突出した一人当たりGDPの伸び
2023年12月16日から東京で日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の交流50周年を記念した特別首脳会議が岸田首相をホストに開催され、ミャンマーを除く9カ国の首脳が参加した。ASEANは東西冷戦下の反共の枢軸的な地域機構としてインドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールの5カ国で結成された。その後、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、最後にミャンマーが加盟し、現在のASEAN10カ国としてアジアの発展を牽引している。
ASEANと日本は、50年にわたり、東西冷戦の時代を乗り越え、ASEANの団結を尊重し、相互信頼のもとODAを交えながら、良きパートナーシップの関係を構築してきた。特に1977年、時の福田赳夫首相が東南アジア外交三原則(日本は軍事大国にはならない、相互信頼に基づくパートナーシップを構築する、ASEANの団結と活力の強化・相互信頼に基づくインドシナとの関係樹立に積極的に貢献する)―いわゆる「福田ドクトリン」を提唱し、その関係の地歩を固めてきた。
以来40数年、現在のASEAN・TENに至っているが、日本とASEANの関係は日本外交の安定した橋頭堡(きょうとうほ)としての重要な役割を果たしている。
日本生産性本部がシンガポールの国づくりに貢献
日本生産性本部も、日本とASEANの関係の強化に資する役割を果たしてきた。とりわけシンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムの経済発展等に対する貢献は、それぞれの相手国の評価も高い。
中でも特筆すべきはシンガポールの発展への貢献である。リー・クアンユー初代首相の国づくりを生産性向上の側面から支えた。現在の一人当たりGDPは82,000ドル余(日本の一人当たりGDPは33,000ドル余)というズバ抜けた経済実績を達成している。
1965年の建国以降、開発途上国の域を出ない経済レベルに低迷していたシンガポールの飛躍的な発展を目指したリー・クアンユー初代首相は、日本政府を通じて日本生産性本部に対し、生産性向上運動の理念とノウハウの伝授を要請した。これに応え日本生産性本部は郷司浩平会長(当時)を団長とするコンタクト・ミッション・チームを派遣した。以降、生産性向上運動に関するフィージビリティーを詰めながら国際協力事業団(JICA)からの専門家チームの派遣・指導を通じてシンガポールの経済・社会発展の道筋がつけられたのである。
シンガポールは、中国系・インド系・マレー系が共存する人口600万人にも満たないミニチュア国家であり、政治的には人民行動党(PAP)が飛び抜けた議席数を持つ(他にも政党はあるが)一党支配的な国である。その一党独裁的な状況を批判する向きもあるが、多民族・多宗教・多文化国家を発展的に経営していくために人民行動党とシンガポール労働組合会議(NTUC)が連携し、役割分担し合い、力を得てきた。
PAP・NTUCの濃厚な連携強化
私は自分の仕事柄、シンガポールの労働組合(NTUC)とも国際自由労連―アジア地域組織(ICFTU―AP)を通じ長い付き合いをしてきたが、NTUCとPAP・シンガポール政府の役割分担の関係等を教えられるにつけ、その国家発展のための貢献への熱意の高さと共に前向きかつ真摯な取り組みに感心させられることが多くあった。
なお、PAPは、国際的な政党連合組織である社会主義インターの加盟組織でもある。イギリスの労働党、ドイツの社民党、北欧の社民党系政党等の関係も濃く、日本では往時の社会党・民社党との付き合いもあり、特に民社党との関係は親密だった。
(2024年7月15日号掲載、全30回連載予定)
執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。