徒然なれど薑桂之性は止まず⑩ 国際労働財団と生産性運動
国際労働財団(JILAF)とは
国際労働財団は、「連合」が結成する直前の1989年5月に発展途上国の発展に資する健全な労働運動と労使関係の形成を図ることを主たる目的に結成した国際労働運動の支援組織だ。連合傘下の産別組織・単位組合、労働金庫や全労済(現在のこくみん共済Coop)等の労働福祉団体の拠出による基金と、厚生労働省・外務省等を通じた政府の助成によって後述のいくつかの事業を30余年間コツコツと続けてきている。
日本の労働組合は第2次世界大戦後の1945年以降、雨後の筍のごとく短期間で結成されていったが、経験もないまま試行錯誤を繰り返すという状況もあった。こうしたヨチヨチ歩きの日本の戦後の労働運動に対して、欧米、特にアメリカの労働運動が支援・教育の手を差し伸べてくれ、多くのリーダーが育てられてきた経緯がある。この経緯に思いを致し、日本の労働運動もかつてのアメリカのように発展途上国の労働運動の支援を行うことが、アメリカに対する恩返しにもなるという議論が、国際労働財団結成の端緒であったと先輩から聞かされたことがあった。
日本が権威主義国家でなく相応の経済レベルを達成してきた国であること、国際労働運動の世界でも労働戦線統一(「連合」の結成)の流れが評価されていたこともあり、国際労働財団は発展途上国のみでなく先進国グループにも抵抗なく受け入れられたようである。
国際労働財団(JILAF)の事業内容
国際労働財団は30余年にわたり、「招聘事業」「現地支援事業」「調査・広報事業」「人材育成事業」の4分野の事業に取り組んできた。
4事業の中でも最大の柱とも言うべき事業は「招聘事業」である。これまで延べ135カ国、約4,000人の途上国(一部先進国含む)の若手(原則40歳以下。男女同数を目指しているが実態は男性が多い)リーダーを日本に招き、原則2週間(コースによっては1週間。コロナ禍ではオンライン参加が多数)、日本の労働運動・労使関係、社会保障、日本生産性本部訪問と生産性運動に関するレクチャー、中央労働委員会・経団連訪問、産別組織・地方連合会との交流(全チームではないが半分程度のチームは広島か長崎を訪問)、ハローワーク訪問、日本の労働組合役員に対する参加各国の労働事情の説明会等を滞日中のプログラムに織り込んでいる。
参加者の中には、帰国後に各国の労働運動のリーダーを務める者も多く、中にはその国の政治リーダーに就任した者もいる。
2本目の柱が「現地支援事業」である。一つ目のパターンは、現地ナショナルセンターのニーズに合わせて実施している「労使関係セミナー」である。現在は、労働安全衛生やビジネスと人権を中心に実施しており、生産性運動についても労使関係セミナーで扱われている。
二つ目のパターンは、「国際労使ネットワーク等を通じた組織化による草の根支援事業(SGRA)」である。比較的新しい事業だが今ではタイ・ネパール・バングラディッシュ・ラオス、近年ではベトナム・スリランカ・カンボジアに事業が拡がっている。具体的には各国のインフォーマルセクター労働者の職業訓練・生活改善・人材育成等、内容は多様であり、相手国の政府と連携する形も生まれてきている。今後の国際労働財団の事業の中心柱である。
その他、児童労働撲滅のための学校支援(ネパール・インド)も特筆すべき活動である。国際労働財団にも課題は多いが、世界の労働運動との関係も含め、存在意義は大きい。
(2024年8月5日号掲載、全30回連載予定)
執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。